【備忘録】2017年2月17日 アイヌ文化公開講座キロロアン「もっと知りたいアイヌ文化」講師:中川裕@アイヌ文化交流センター

・人気漫画「ゴールデンカムイ」はアニメの放映も始まって、単行本も13巻まで出ているが、自分はアニメを初回に見そびれて、なんとなく見ないまま。単行本も10巻ぐらいまでしか読んでいません。その「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修を行なっている中川裕氏の講演のメモが残っていたので、なんらかの参考になればと思い、不完全なものですが置いておきます。

・東京駅から徒歩5分にあるアイヌ文化交流センターでは月に一度、「アイヌ文化公開講座キロロアン」と題し、アイヌ文化にまつわる気楽な講演会を19時より90分ほど行なっているが、自分はあまり行けていない。メールで講師を知って、この日は久しぶりに行く気になった。いつもより人は多いだろうと思ってはいたが、案の定、かつてキロロアンで見たことがないほどの大人出。仕事が遅れてギリギリで滑り込んだ自分は立ち見になった。
・中川裕氏の話はとてもおもしろかった。しゃべり慣れている印象(大学で教えているのだから当たり前か。失礼な印象)。「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修をしていることは自分はこの日初めて知った。ただ、作者である野田氏本人と直接会うことはなく、辣腕の編集者が両者を取り持っているらしい。基本はアイヌ語についてのチェックを依頼されているだけで、たまにこんな話がある、こんな出来事があると教えると、それが即マンガに反映されていて驚くとか。ストーリーや設定についてもまるっきり知らされていないらしい。
・「ゴールデンカムイ」に出てくるヤマシギの話を一くさり。トゥレㇷ゚(ウバユリ)を掘る際に使うヘラとそっくりの嘴をしているのでトゥレㇷ゚タチㇼと呼ばれている。プリントで「ノーノチキ」というサケヘのあるカユイユカㇻが渡され、実際の音声を聞く。恋愛感情を抱いているクマゲラ(チㇷ゚タチㇼ)と会いたがっているトゥレㇷ゚タチㇼのお話。山菜を採るのが女性で、船を作るのが男性なので、その対比を割り当てている。
・「ゴールデンカムイ」に出てくるアイヌの人名は基本的に過去にあった名前だが、一つだけ新たに作った人物がいる。トゥスクㇽの「インカㇻマ」。inkarは「見渡す」の意。山田秀三は秋田の地名「五十嵐」がinkar us「遠くを見渡す」であると解釈し、北海道にある「遠軽」もそれが語源だという。
・「ゴールデンカムイ」でインカㇻマはキツネの骨で占うが、これは厳密にはトゥスではなく、だれでも普通にやるらしい。だから、このインカㇻマが本当のトゥスクㇽなのか、あるいはそうであると偽っているのか、自分はわからなかったと中川氏は語るが、手のひらを見て、指を透かして運命を見るウエインカㇻというトゥスのことを野田氏に教えたら、インカㇻマがマンガの中でやっていたので、インカㇻマはトゥスクㇽという設定なんだとわかったと。
・マンガ連載中の間違いは単行本で正しているとか。アイヌのまな板であるメノコイタが連載中は非常に小さかったので、それを指摘したら、単行本では大きくなっていたが、それでもまだ小さいらしい。
・「ゴールデンカムイ」で有名になった、おいしいものを食べる際に発する「ヒンナ」だが、これは「おいしい」と言う意味でなく、感謝の意を表すものだと。「ヒンナ」が実際に使われている場面を映したビデオを見る。アイヌのフチが両手に持った豆などの収穫物を上下させて、「ヒンナ、ヒンナ」と唱えていた。「イタカイ」(久しぶり)といった感謝の言葉も用いる。
・「オソマ」も「ゴールデンカムイ」で有名になった「うんち」を意味する言葉だが、元は動詞。アイヌ語では自動詞は名詞にも転化する。普通名詞としての「うんち」はsi。「糞食らえ」はsi e!で、「オソマ」は使わない。
・小さい頃は汚い名前をつけると言うが、厳密に言えば間違い。子供は名前を持たない。シタㇰタㇰとか呼んで、個性がはっきりする年頃に初めて名前がつけられる。その時点で汚い名前をつけることもあるが、これは魔物からの防御のため。手塚治虫の「シュマリ」でシュマリに付き随うアイヌはポンションと言うが、pon(小さい)si(くそ)on(腐った)=「くその腐ったようなやつ」はやはり、子供が良く呼ばれるもので固定人名ではない。「シュマリ」においてそう呼ばれているのは、幼少時に両親を亡くして、名前がそのまま残ったからだ。
・憑神トゥレンカムイは盆の窪に宿るもので、ここを叩くと失神するのは憑神が失神するから。中川氏は昔、話を聞かせてもらった謝礼としてお金(三千円)をアイヌのフチに渡したら、フチが千円札を一枚ずつ首の後ろに回して、憑神に見せた経験を語る。

・中川裕氏の「アイヌの物語世界」(平凡社ライブラリー)は自分がアイヌの世界観にのめり込むきっかけになった名著ですが、現在品切れ状態らしい。「ゴールデンカムイ」がもっともっと売れて、「アイヌの物語世界」も重版がかかってもらいたいものだと思います。

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