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出版社がnoteユーザーに求めるクリエイター像(6)【タトル・モリエイジェンシー編】

noteと、幻冬舎、ダイヤモンド社など33のパートナー(50音順)と提携した「クリエイター支援プログラム」。今回の施策にあたって、どのようなクリエイター、コンテンツを求めているのかを各出版社に聞く企画。第6回は、株式会社タトル・モリ エイジェンシーの取締役・玉置真波さんにお話をうかがいました。

第1回 : ダイヤモンド社
https://note.mu/notemag/n/n78f7b3a1a1cf
第2回 : マガジンハウス
https://note.mu/notemag/n/nc3fd9c4162dc
第3回 : 扶桑社
https://note.mu/notemag/n/n697f7c85ba67
第4回 : 幻冬舎
https://note.mu/notemag/n/n90da2317d5f5
第5回 : コルク社
https://note.mu/notemag/n/n1024a83f0a30 

金持ち父さん、貧乏父さん』『チーズはどこに消えた?』などのビジネス本から、『ピーター・ラビット』『きかんしゃトーマス』『ムーミン』『ナルニア国ものがたり』『ダレン・シャン』などの小説まで ── 、ほとんどの方が一度は名前を聞いたことがある海外作品の版権を仲介しているタトル・モリエイジェンシー

タトル・モリエイジェンシーは、1948年に創業された業界老舗の著作権仲介エージェントです。現在も中心の業務である海外作品の日本語翻訳権の仲介(海外作品を日本の出版社から出版するときの仲介)から、「ムーミン」などのキャラクターのライセンス管理、マンガを含む日本語作品の海外版権の仲介を行っています。

今回お話をうかがった玉置さんは、海外のノンフィクションジャンルの日本語版権を扱う部署に長くおり、現在は取締役として、欧米部門の輸出入を双方向にみていらっしゃいます。まずは、タトル・モリエイジェンシーができるまでから、今後の展望まで聞いてみました。

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加藤貞顕(以下、加藤) 今回「クリエイター支援プログラム」にご参画、ありがとうございます。おかげさまで33のパートナーに参加いただきました。

玉置真波(以下、玉置) おめでとうございます!

加藤 ありがとうございます。ぼくらの狙いは、「クリエイターのみなさんの出口を増やすこと」なんですね。noteはクリエイターのホームグラウンドになることを目指してやっているんですけど、クリエイターがネットで活動するというのは、そもそも大変なわけですよ。自分のホームページをつくったり、ブログをSNSをやったりと、活動領域がかなり分散しているので。

玉置 一人でマネージできることではないですよね。

加藤 そうなんです。今できている人は、作品を作れて、ネットにもくわしいし、SNSにも強い、いわば特別な才能を持っている人が中心だと思います。出版業界が元気なころは、出版社がクリエイターのマネジメントをかなりやってたんですよね。セールスもやるし、開発、プロモーションも手伝うし。でもいまはネットが主体になってきて、みんな戸惑っている状態だと思います。ネットで出てきたクリエイターも、本当はマネジメントがあったほうがいい場合も多いと思うんです。

玉置 だからこの「パートナー支援プログラム」をつくったんですね。

加藤 そうです。今回、タトルさんといっしょに海外展開を目指すみたいな機会をnoteとして用意できるというのはとてもうれしく思っています。あくまでもクリエイターは創作に注力してもらって、その作品の出口を幅広く用意できたらと考えています。そこで今回、提携いただいているパートナーにそれぞれの狙いをうかがいたいなと思いまして、こういう機会をいただきました。

タトル・モリエイジェンシーができるまで

加藤 そもそもタトルさんのことについて、僕は出版社にいたのでわりと知ってるんですけど、これからタトルさんのことを知る方もいると思うので、少しお話いただけますか?

たしか、第二次大戦後のGHQとも関係してると聞いたことが……。

玉置 そうなんです。これは昔の新聞なんですが、今の社長のお父さんで、創業社長の森武志です。トム・モリと名乗っていて。

玉置 戦後、マッカーサー司令官に命じられ、日本の出版業界再生のためにチャールズ・イー・タトル氏が来日したんです。そのときに、アメリカの文化や情報が日本に入ってくるだけではなく、日本の文化や情報をきちんとアメリカにも伝えることが大切だと感じたそうなんです。任務がおわった後も日本にとどまり、洋書や洋雑誌の輸入だけでなく日本の古書を輸出する、前身の「チャールズ・イー・タトル商会」をはじめました。

水野 森さんとタトルさんはどういう関係があったんですか?

玉置 タトルさんの奥様が、森のおばなんですね。それで、おいの森武志が、親戚の中で勉強が得意だったので、目をつけてもらって入社したそうです(笑)。

海外の本は翻訳して日本語で読めるようにした方が広く読まれやすくなりますから、タトル商会が著作権部として1952年にライセンス業務をはじめたんです。その著作権部だけを切り離して、1978年に「タトル・モリエイジェンシー」として独立しました。書籍をとおして東西文化の架け橋になるという前身の創業時からのミッションは、今も社に受け継がれています。

加藤 なるほど。そういう流れなんですね。僕が出版社にいたときから、翻訳といえばタトルさんにお世話になることが多いです。「国内最大手の海外著作権エージェンシー」って言っていいんですよね?

玉置 そうですね。日本の翻訳出版界のマーケットシェア60%を占めています。

noteクリエイターの海外展開も視野に入れていく

玉置 今回、noteさんの「クリエイター支援プログラム」に参加させていただきたいと思った理由は2つあるんです。一つは、日本のクリエイターの海外展開を支援したいということと、もう一つは、note側でクリエイターを目利きしてくださるチームがいらっしゃるということですね。

玉置 私たちは、海外のものを日本に持ってくる「輸入」と、日本のものを海外に「輸出」すること、そのどちらもやっています。だから、国内についてはこれまで通り、出版社や編集者さんにお任せして、海外展開は私たちと一緒に進めていく形でお手伝いができると思うんです。

加藤 ええ。

玉置 私たちはこれまでに14万件以上(輸出入の書籍契約の累計)を担当してきましたけど、エージェントがいることでクリエイターを助けられることは、「(海外版元への)営業」と「著作権仲介業務と管理」なんですよね。例えば、クリエイターがある本の版権を、自分で20カ国に海外営業をして成功したとすると、契約書の締結から、税金の処理、海外送金をすべて自分でやるのはあまりにもたいへんですよね。そして、契約の長さにもよりますけど、毎年印税報告を送ったり受け取ったりして税金処理をするとか、そういう細かいことを確認したり……。

加藤 それを自分でやるのは大変ですよね。

玉置 ですよね。海外展開では、エージェントがまず決まっていて、その後、編集者さんが決まったら、一著者一出版社で取り決めてやっていきます。そもそも海外クライアントとはずっと継続してお付き合いするものなんです。

加藤 どうしてですか?

玉置 はじめに仕掛ける段階では、多くの時間と資源の投資がかかります。それに、文化に応じて、いちから作家と作品のよさを伝えていくのは大変な作業で、どこかの段階でヒットになったときに、ようやくそれまでの苦労が報われるんです。さらに、付き合いを継続することで信頼関係が深まり、お互いに仕事がやりやすくなります。海外のクライアントの中には25年付き合って、25年目に1,000万部のヒットとかもありますよ。

加藤 そんなことあるんですか!

玉置 はい。その方のクライアントのフィクション作家なんですけど。『ダヴィンチ・コード』のダン・ブラウンです。そういうこともあるので、すぐに大きな商売にはならなくても、よいと見込んだ相手とは根気よくつきあう、というおつきあいを、版権エージェントとして海外クライアントとしています。

加藤 なるほど。お付き合いすると決めた方には、長期的に向き合って関係性をつくっていって、ビジネスを行う。そういう仕組みなんですね。

「noteクリエイター支援プログラム」で期待していること

加藤 出版社との仕事のすみ分けが気になります。タトルが、作家のマネジメントをはじめる、というわけではないですよね?

玉置 ええ。私たちは、作品の「版権を営業して、仲介する」のが仕事なので。得意なことをとおして、出版社と日本の著者の海外展開にお役に立ち、ご支援できればと思っております。ただ、理解していただきたいこととしては、版権は一元管理しないと、作家さんにとってはうまく海外展開ができないということもままあるのです。たとえば複数の作品を出版している作家さんの場合、出す順番を考慮する必要があったりすると思うんですよ。

加藤 確かに。

玉置 noteで出会った新しい作家さんの場合、最初から、作家さんと編集者さんと同席させていただきながら、海外展開を念頭において、一元管理の話を作家の方にも出版社の方にも理解していただきながら進めることができると思います。そうして、みんなが幸せな形を見つけられればと思っているんです。

加藤 なるほど。つまり、「新しいクリエイターと新しい海外展開の仕組みづくりをしたい」ということですよね。

玉置 そうですね。お話したことは、エージェントの業務についての、あくまで概要に過ぎず、実際にはバリエーションもあれば、例外もあります。ですが、私たちには、展開するネットワークもありますし、その仕組みを一緒に考えていきたいと思っています。それに、クリエイターさんと直接話をすることで、信頼関係ができると思いますし。

加藤 ありがとうございます。noteクリエイターが、note発で世界に広がっていく仕組みをつくれればと思います。引き続きよろしくお願いします。


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