「著作者人格権、名誉毀損の境界線はどこにある?」水野祐×加藤貞顕×深津貴之【第3回】

※本記事は、2019年1月28日に行われた対談・インタビューを記事化したものです。

情報の自由利用と著作者、著作権者の権利を守ることのバランスを図ることで、文化を発展させるために存在する著作権法(第1回)。著作権侵害について、具体的な事例を挙げて解説していただきました(第2回)。今回は、「著作者人格権」にフォーカスをあて、名誉毀損の境界線など表現に関わる諸問題について弁護士・水野祐さんに尋ねました。

著作者にはどんな権利が認められているのか

加藤 著作者の権利について、どんなものがあるのかをくわしく教えてもらっていいですか?

水野 はい。著作物に発生する権利には、「著作権」と「著作者人格権」があります。

著作権は、財産的な側面をになう権利で、著作物を独占的に利用したり、第三者にライセンスして著作権使用料をもらったりすることができる権利。そして、著作権を譲渡して、お金に変えることもできます。音楽におけるJASRACのような第三者に信託することもできますし、借金などの担保にすることもできます。著作権を有する権利者を「著作権者」といいます。

著作者人格権は、著作物を創作した人、「著作者」に帰属する人格的な側面をになう権利で、これはあくまで名誉とか感情とか人格的なものなので、第三者に譲渡したりできない権利です。いつどのように公表するか、あるいは公表しないかを決める「公表権」、著作物にクレジットを記載したり、しなかったりを決められる「氏名表示権」、勝手に改変されないようにする「同一性保持権」の3つが認められています。

「著作権者」は財産的な権利である著作権を持っている人、「著作者」は著作物をまさに創作したクリエイターで、人格権を持っている人。この「著作権者」と「著作者」は一緒の人の場合もあるし、著作権が譲渡されていれば違う人であることもあります。

加藤 同一性保持権といえば、「おふくろさん騒動(※1)」というのがありました。

(※1)作詞家・川内康範が作詞した楽曲「おふくろさん」の歌詞を、同曲の歌い手である歌手・森進一が勝手に改変したとして、川内氏が森氏を著作権侵害であると主張して騒動になった事件。

水野 そうですそうです。

加藤 たとえば、Twitterで流れのある発言の一部分だけを切り取って、別の意図で第三者のブログに掲載した場合、著作者人格権の侵害になりますか?

水野 元のTwitterの発言が著作物で、適法な「引用」と認められるような場合には、著作者の名誉・声望を害するような方法で行われるような例外的な場合を除いて、著作者人格権侵害にはなりません。

逆に、適法な「引用」に該当しない場合で、かつ、転載した人が元の発言の意図をあえて歪曲するような形でその一部だけを切り取って利用すれば、著作者人格権侵害になる可能性はありますね。

深津 ツイート以外でも、記事や講演などの中身が長すぎて意図と反して切り取られたりして、インターネットの時代には、同一性保持権が問題になりやすいですよね。

水野 そうですね。著作者にとっては同一性保持権はとても重要な権利です。

ただ、これだけ情報が流通しやすいインターネットの時代に、職業的なクリエイターだけでなく、一般人も広く著作者となる時代において、情報流通を容易に止めてしまうことができる現状の著作者人格権が強すぎるのではないか、という見解や意見は、学者や弁護士などの実務家の間でもよく聞かれるところです。前回紹介したTwitterのリツイートによるトリミングが著作者人格権侵害と判断された事件もそうです。とくに、同一性保持権はもう少し弱めるべきではないかと僕も思っています。

「引用」の範囲は? 大事なのはコンテンツの「主」にならないこと

加藤 それともうひとつ。著作権には「引用」が認められていますよね。第三者が、他人の著作物を利用する権利で、noteで記事を書く際にも重要な権利です。

深津 「引用」は、著作者に許諾をもらう必要なく、無断で利用できる、というのがポイントですよね。

水野 そうです。対談の最初で、著作権法は著作者や著作権者の権利の保護と、情報の自由利用のバランスを図る法律・ルールだとお伝えしましたが、「引用」は一定の条件下で著作権を制限して、情報の自由利用を認めるための仕組みと言えます。

加藤 それで問題なのは、「引用」の定義。下手したらたんなる盗作とか剽窃になるし。引用と盗作の境目って、明確な定義とかあるんですか?

水野 「引用」が認められるためには、自分の著作物と引用部分が区別されていること、自分の著作物は「主」、引用部分が「従」といえる関係があること、引用する必然性があること等が必要です。あと、出所の表示、つまりクレジットもしないと違反になってしまいます。

深津 クレジットだけすればよい、というわけではないんですね。

水野 はい。「引用」として認められるかどうか、適法かどうかの境界は実はけっこう不明確です。特に、営利目的の「引用」については裁判例も少なく、諸説考え方があるところです。そのようなこともあって、営利企業は、クレームのリスクを避けるために、明らかに「引用」と認められるようなものまで権利者の許諾を取るスタンスでいるところが多いですよね。

加藤 たとえば、本の中に歌詞を1行入れる場合、許諾はいらないんですか?

水野 引用する必然性があるものであれば、権利者からの許諾を取らずに適法な「引用」として認められるケースです。

加藤 たとえば、美空ひばりの「川の流れのように」の歌詞1500字くらいを2万字の文章の中に丸っと入れても問題はない?

水野 論理的には全文を「引用」する必然性が認められるのであれば問題ないのですが、実際には批評などで「引用」する場合でも全文ではなく、一部で足りることが多いと思います。なので、「引用」する部分や量は慎重に検討したほうがよいです。

加藤 グラフなどの引用は?

水野 事実である統計データや、それをありふれた手法で表示したグラフ、表などは、そもそも著作物ではない可能性が高いです。もちろん場合によりますが。

深津 水彩画で鳥が舞っているグラフとかのように、作家性が高くない限りは大丈夫。

加藤 でも、膨大な資料を調べて時間をかけて作ったグラフもあるわけですよ。それも著作物にならないんですか。

水野 そうですね。仮にそういったグラフが著作物である場合でも、「引用」の要件を満たしたうえで、クレジットなどを付して利用することは可能です。

加藤 では、マンガのコマを切り取ってTwitterに流すのはどうですか?

深津 よく吹き出しのセリフを変えて出したりとか、ネットにありますよね。

水野 これもケースバイケースで、上手にやれば「引用」に該当する可能性もありますが、実態としては「引用」の要件は満たしていないことがほとんどだと思います。セリフを変えれば、さらに著作者人格権の侵害にもなります。このようなTwitterカルチャーは私も好きなのですが、法律とのギャップがある部分ですね。

有名人の写真や名前を使うのはアウト?セーフ?

加藤 これも確認なのですが、人の著作物を引用したものを販売してもいいんですか?

水野 もちろんです。名言を本で「引用」するのは日常茶飯事ですし、noteで販売されている有料記事でも「引用」はたくさん見られますよね。

加藤 じゃあたとえば、深津さんのツイートをたくさん埋め込んだ本をつくって『深津貴之名言集』として売り出してもいい(笑)?

水野 実際に著名人の名言集みたいな本ってたくさん出ていると思いますが、結論として「引用」といえるかどうかは、質や量などの観点から、名言部分が「従」で、その他の部分が「主」といえる関係性にあるかどうかが重要です。

また、歴史上の人物の名言集とかであれば、そもそも著作権が切れていることが多いので、自由に利用できます。

加藤 有名人の写真を自分の著作物で使うのは?

水野 写真の著作物として「引用」することはできますが、著名人の肖像を使って儲けた場合は別途、パブリシティ権の侵害が問題になりますね。

加藤 パブリシティ権は、新概念ですね。ちょっと説明をお願いできますか?

深津 有名人の顔と名前を保護する権利ですよね。

水野 これは今日の主題である著作権とは別の権利です。法律には書かれていないんですが、判例で認められている権利なんです。肖像権と混同されやすいのですが、肖像権が誰もが持っているプライバシーや人格権の側面が強い権利である一方で、パブリシティ権は著名人が持っている経済的な側面が強い権利です。

深津 たとえば「木村拓哉オススメの〜です」と勝手に言ってものを売ってはいけないんですよね。

水野 ダメですね。過去に、中田英寿さんの発言や私生活上のエピソード、中学時代に書いた詩などを勝手にまとめた本が、パブリシティ権侵害にならないか争われた事件(※2)がありました。

(※2)中田英寿さんが自身の半生をまとめた書籍が取材や承諾なく勝手に出版され、差し止めと損害賠償を求めた事件。

加藤 ちなみに、「著名人」の定義は?

水野 顧客吸引力があるかどうか。つまり、その人の名前や肖像を使って製品やサービスが売れるかどうかで、必ずしも一般的に有名かどうかは問いません。今風の言葉で言えば、インフルエンサーというのが一番近いかもしれませんね。深津さんと加藤さんも、一定の分野においては顧客吸引力があるので、ここでいう著名人に含まれると思いますよ。

加藤 じゃあ、『深津貴之デザイン塾』というコンテンツを3万円で売ったらアウトですか?

水野 加藤さんが深津さんに内緒でやったらアウトですね(笑)。

深津 週刊誌とかが芸能人の話を書いて、売ったりするのはセーフなんですか?

水野 これについては、まさに週刊誌がピンク・レディーの写真を無断で掲載した事件で、最高裁がパブリシティ権について判断したものがあります。
ただ、最高裁は、パブリシティ権侵害は、もっぱら著名人の肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする場合に限定して認められるのであって、この週刊誌の記事の内容はこれにあたらないと判断しました。

加藤 実際問題として、著名人の報道において、著名人の肖像等が同意なく使えないとなると、かなり報道が制限されてしまうおそれがあります。

水野 そうですね。あと著作権法上の「引用」との関係性では、「引用」と認められるような場合には、パブリシティ権侵害についても、もっぱら顧客吸引力を利用する目的とする場合にあたらず、記事の内容を補足する目的で使用されたものだから侵害にあたらない、と判断されることが多いと思います。

批判と罵倒、名誉毀損の境界線はどこにある?

加藤 また、著作権から離れてしますのですが、著名人と報道をめぐっては、名誉毀損もむずかしいですよね。どこからが名誉毀損になるのでしょうか?

水野 ここでは民事責任としての名誉毀損について検討しますが、名誉毀損に当たる行為が、「事実の摘示」か「意見論評」かに分けて考えます。事実を伝えている場合は、公共性があり、公益目的であることに加えて、前提とする事実が真実であるか、真実であると信じることについて相当な理由があれば、違法性はなくなります。

加藤 報道は、公共性があるからOKということですよね。芸能人のゴシップとかが、公共性があるのかどうかとか、報道とはなにかという議論も別にありますよね。

水野 そうですね。このへんはいつも議論になります。表現の自由と著作権や名誉毀損、プライバシーなどの個人の権利は常に公共性とのバランスのなかで調整されていきます。芸能人のゴシップについては、テレビCMなどの広告に絡んでいるため、公共性が認められやすい傾向がある反面、スポーツ選手やアーティストの場合は公共性が否定され、法的には名誉毀損にあたると判断されることもあるのではないかと思います。

加藤 スポーツ選手やアーティストのゴシップは公共性が認められない場合もあるんじゃないか、というご意見ですね。

水野 はい。一方で、意見論評については、表現の自由が保障されているため、名誉毀損は成立しづらいのですが、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸したもの」となると名誉毀損に該当します。これに関しては、具体的な表現内容や執拗性、被害者側の属性、挑発行為の有無など総合的にみて判断されます。

深津 Twitterで特定の人を貶める行為ってどうなんですかね?

加藤 そうそう。たとえば「〜はバカだと思う」とTwitterでつぶやくのは名誉毀損にはならないんですか?

水野 意見論評なので、基本的には名誉毀損にはなりません。ただ侮辱罪という刑事責任が別に成立する可能性はありますね。

深津 「君はバカでクズでこの世に存在しない方がいい」までくると危ない?

水野 前後の文脈次第ですが、執拗に繰り返した場合などは名誉毀損が成立する可能性もあると思います。また、さきほど同様、刑事責任として侮辱罪が成立します。

加藤 ちなみに、名誉毀損はどの法律で罰せられるんですか?

水野 今お話ししていたのは民事責任として名誉毀損で、これは不法行為といって民法に定められています。他方、名誉毀損罪という刑事責任もあって、これは刑法に定められています。

深津 刑事もあるんですね。そっちはやはり親告罪ですか?

水野 そうです。名誉毀損罪の刑事告訴は証拠集めも含めて、それなりにハードルは高いです。民事責任の追及のほうがやりやすいです。

株の銘柄を勧めることや競馬の予想は? アダルトはどこまでやっていいの?

加藤 著作権以外にも、法的に表現をどこまでやっていいのか、もう少し聞いていいですか? 表現の自由とかかわるところで、クリエイターのみなさんは、いろいろ気になると思うので。

水野 もちろん。

加藤 じゃあ、株の特定銘柄をこれは上がるとかいって勧めるのはどうでしょう?

水野 有償だとNGですね。これは金商法(金融商品取引法)で定められています。投資対象となる有価証券の種類、銘柄、売買のタイミング等に踏み込んだ助言に対して報酬をもらう場合、「投資助言業」に該当します。

深津 投資助言業の登録が必要になるんですよね。

加藤 じゃあ競馬の勝ち馬の予想は?

水野 予想の公表は法律では明確には禁じられていないと思います。ただ、JRA(日本中央競馬会)などは注意喚起していますね。

加藤 アダルト系は、法的にはどこまで表現していいんでしたけ?

水野 わいせつ罪という刑事責任の話なんですが、基準を一言で答えるのは難しいです。「わいせつ性」というのがキーワードなんですが、「いたずらに性欲を刺激されるかどうか」という曖昧な基準で判断されるので、裁判所で判断されるまでわからない部分があります。

幼児は児童ポルノ禁止法により非常に厳しくなっています。ヌードは、性器が写っているか否かが一つの基準になりますが、性器が写っていれば即アウトというわけでなく、最高裁の判例の中には性器が無修正で写っている写真集についてわいせつ性を否定しているものがあります。

加藤 え。性器、OKなんですか!?

水野 過去にアップリンクの浅井社長が、メイプルソープの写真集に関して、わいせつ書籍に当たらないとして最高裁で勝訴しています。最高裁は、メイプルソープの写真は芸術性が高いことと、300ページ強のうち10数ページしか性器が写った写真がないこと等を理由に、写真集全体のわいせつ性を否定しました。

加藤 性器自体はエロいものではなく、人間の体の一部ですもんね。

水野 そうですね。通常時の写実的な描写であれば性欲を刺激しないという考え方も徐々に広まってきて、アート系の写真集や映像を中心に性器にボカシを入れないものも増えている印象がありますね。ただ、愛知県美術館の鷹野隆大さんの事件やレスリー・キーさんが逮捕された事件などでは、男性器が勃起しているとか、直接的に性行為をとらえていなくても、二人で写っているもの、「絡み」を連想されるようなものはやはりNGだという基準も伝え聞きますね。

いずれにしても、警察の基準と裁判所の基準が異なっている可能性もあり、非常に曖昧に運用されているので、結局リスクを考慮して、自主規制していることも多いようです。

加藤 性行為を連想させるとNGで、存在しているだけならOKと。なるほど、深いような深くないような(笑)。

つづく。

■弁護士・水野祐さんプロフィール
弁護士(シティライツ法律事務所)。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。東京大学大学院人文社会系研究科・慶應義塾大学SFC非常勤講師。同SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり分野のスタートアップや大企業の新規事業、経営企画等に対するハンズオンのリーガルサービスや先端・戦略法務に従事。行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』、共著に『0→1(ゼロトゥワン)を生み出す発想の極意』、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』など。
Twitter : @TasukuMizunonote
note:@tasukumizuno


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

42

note編集部

お気に入りnote

素敵なnoteを「お気に入り」として入れています。