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「noteとテレビが共創すれば、猛烈におもしろい番組が作れる」――テレビ東京HD小孫代表取締役社長の本音

2019年8月1日、株式会社ピースオブケイクはテレビ東京ホールディングスと資本業務提携の契約を締結しました。さらに、10月3日には、テレビ東京とnoteクリエイターでオリジナルドラマを制作するプロジェクトを発表。このスピード感のある展開の背景には、テレビ東京ホールディングスおよびテレビ東京代表取締役の小孫茂社長がもっていたテレビとネットのコラボレーションに対する期待がありました。

テレビ東京とピースオブケイクが提携することで、どんなシナジーが生まれるのか。小孫社長とピースオブケイク代表取締役CEO・加藤貞顕の対談から明らかにしていきます。

オフィスを訪れてすぐ、提携を決断した

加藤貞顕(以下、加藤) このたび、ピースオブケイクはテレビ東京ホールディングスと資本業務提携をいたしました。小孫さんは、弊社のことをどういったきっかけで知られたのでしょうか。

小孫茂(以下、小孫) ピースオブケイクという社名を初めて聞いたのは、2018年の7月に日本経済新聞社が御社と業務提携をしたときですね。私はもともと日本経済新聞の記者で、日経電子版の創刊にも携わっていました。その日経電子版がなにやらおもしろいことを始めたぞ、と。

加藤 その時から知ってくださっていたのですね。今年の4月に始まった、幻冬舎×テレビ東京×note「#コミックエッセイ大賞」がきっかけかと思っていました。

小孫 その企画については、「社長、実はちょっとおもしろいことをやろうと思っています」と担当者から直接報告があったんですよ。幻冬舎さん、ピースオブケイクさん、そしてテレビ東京はそれぞれの持ち味も、目利き力、プロデュース力も違いますよね。一体どんな作品が集まり、どんな作品を選ぶのだろうと興味がわいて、即座に「やってみたらいいんじゃない」と了承しました。

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加藤 おかげさまでコミックエッセイ大賞は応募総数4212件と大盛況で、良質な作品がたくさん集まりました。テレビや出版という魅力的な出口があるから、これだけたくさんのかたが応募してくださったと思っています。

また審査の過程も、御社のプロデューサーや幻冬舎さんの編集者など、いろいろな視点を持つ審査員が集まったことで、バラエティに富んだ作品を選ぶことができました。コミックエッセイ大賞の結果をみて、資本業務提携のことを検討されるようになったのでしょうか。

小孫 いや、このときはまだ頭に浮かんでいませんでした。でも、コミックエッセイ大賞だけでこのコラボレーションを終わらせるのはもったいない、という気持ちはありました。おそらく、担当の部署でも同様の話が持ち上がっていたんでしょうね。ほどなく担当者と、ピースオブケイク社ともっとさまざまな企画でコラボレーションできるよう提携したらいいのではないか、という話になり、すぐオフィスにお邪魔したんです。

加藤 話がぜんぜん固まらないうちに、社長ご自身がいらっしゃってびっくりしました(笑)。

小孫 テレビ局はわりと提案があってから考えることに時間がかかり、先に進まない企業体質なんですけど、この話は早く決まりましたね。もう、私自身がこの真っ白いオフィスに一瞬で魅せられてしまいまして。今回の提携の決め手はオフィスデザインのよさかもしれません(笑)。

POCオフィス

加藤 光栄です(笑)。このフットワークの軽さに、こちらは感動しました。地上波のテレビ局の中でも、一番チャレンジングな取り組みをされているテレビ東京さんと提携できたことを、非常にうれしく思っています。

令和の時代にはテレビもアップデートが必要

小孫 もともと、ずっとネットとコラボしてみたかったんです。テレビは黄金期のフォーマットにこだわるあまり、時代からやや取り残されてきていると感じていて。私はテレビが生まれると同時くらいに生まれた世代ですが、今の10代は物心ついたときにはデジタルに囲まれていた世代ですよね。そういう人たちにとってはスマホが一番で、テレビは二番手なんです。

加藤 たしかにそうかもしれません。

小孫 若者にとってテレビは、江戸時代とは言いませんが、明治時代的な感覚を引きずっているように見えるのではないかと危惧していました。この令和の時代には、デジタルの感覚をベースにして番組をつくっていかなければいけない。そうすれば、やっとテレビも令和の時代に適応するはずです。それには、やはりネットの会社とコラボレーションすることが不可欠だと考えていました。そこに、ピースオブケイクさんとの出会いがあったんです。

加藤 良い出会いとなったのであれば、なによりです。

小孫 noteの記事を見ていると非常に質が高く、いいなと思えるコンテンツが多いんですよ。ネット企業は数あれど、ピースオブケイクさんは他とは違う光を放っていると感じました。noteにはテレビ業界の人間たちにとっても、抵抗感なく受け入れられるカルチャーがある。そんなところからも、コラボできるという確信が持てました。

加藤 noteにとっても、テレビ東京さんとのコラボレーションは願ったり叶ったりなんです。noteには現在、1日1万記事以上の投稿があります。そして、それを見に来る人が毎月2千万人以上いる。巨大なクリエイティブの街のようになってきているんです。

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小孫 すごいですね!

加藤 ここで作品を投稿すると、いろんな人に見てもらえる。さらには、書籍化されたり、映像化されたりするとなると、投稿のモチベーションはどんどん上がります。私達はnoteに本気で作品を投稿すれば、その先の世界が拓けるという出口を用意してあげたい。そう考えていたところに、この提携が成立しました。テレビ東京さんとの提携はnoteの街に住むクリエイターにとって、本当に喜ばしいことなんです。

小孫 作品のメディア展開という点で、今回はコミックエッセイ大賞よりさらにチャレンジングな試みをすることが決まりましたね。

加藤 最近発表された、テレビ東京とnoteクリエイターで、オリジナルドラマを制作するという企画ですね。

いやあ、企画を拝見したときはびっくりしました……! 脚本やセリフ、BGMでもいいという応募内容の自由度もさることながら、募集期間の翌週にはドラマに反映して放送するなんて、信じられないスピード感です。

リアルタイムに内容を変える番組も不可能じゃない

小孫 通常、テレビ局で制作するドラマは、企画が出てからオンエアされるまで最低半年はかかるんですよね。テレビ東京の社長になってから「テレビとはそういうものだ」と聞かされていたんですが、ずっと「遅いなあ」と思っていたんですよ。だって、前時代的なメディアとされている新聞ですら、やろうと思えば1分で翌日朝刊の一面の内容を変えられるので。

加藤 もともと新聞社にいらっしゃったからこそ、違和感があったんですね。

小孫 テレビドラマだと、時事的なことや思いついたアイデアを入れたいと思っても、放送は半年後になるわけですよね。これはちょっと、メディアの王様としてあぐらをかきすぎているのではないか、と思いました。もちろん、番組を作るのには準備期間がいりますし、たくさんのスタッフ、制作会社さんの協力があって出来上がるものなので、あまり無茶が言えないのはわかっています。とはいえ、せめて1、2ヶ月くらいのタイムラグにおさめられるものが一部あってもいいのではないだろうかと考えていたんです。

加藤 なるほど。それはかなり早いですよね。

小孫 さらに言えば、生放送中に視聴者の声を拾って、先の展開を変えていくくらいのことをやってみたいんですよ。ニュースでよくツイッターなどのコメントを拾ってリアルタイム表示していることがありますが、もっとダイナミックに番組に反映させてみたい。それができたら、猛烈におもしろい番組になっていくのではないか、という期待感を持っています。

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テレビ東京とnoteがコラボするオリジナルドラマ
知らない人んち(仮) 〜あなたのアイデア、来週放送されます!〜」より

加藤 それをうかがって、今回のドラマ企画のスピード感に納得しました。これでもまだ、小孫社長としてはタイムラグがあるくらいなんですね。とはいえ、これはきっと、スタッフの方や出演者の方はすごく大変ですよね。案を出すnoteユーザーも、最初は戸惑うかもしれません。

小孫 私としてはテレビの閉塞状態に風穴を開ける試みだと思っているのですが、現場はたまったもんじゃないと思います(笑)。でも、その手探りの状態も楽しいと思うんですよ。

友人関係や恋愛関係も一緒ですよね。距離感を探って、適度な緊張感を保ちつつ議論したり行動したりしているときが一番楽しい。どうしたらいいのか、正解を求めてわさわさしている期間が長ければ長いほど、おもしろい番組にたどり着けるような気がしています。だから、最初の何回かは失敗してもいいんですよ。

加藤 そう言っていただけると気が楽になります(笑)。

小孫 それで、その悪戦苦闘している制作過程を撮っておいて、それもコンテンツにしてしまえばいいんじゃないかと。

加藤 たしかに、そのほうがネット的です。

小孫 そこまでできたら、テレビとネットが組むとおもしろいことができる、というモデルになりますよね。


noteのクリエイターと一緒に変化していきたい

加藤 それでいうと、noteはテレビ局側の発信にもおすすめです。そして、noteはテレビ番組の感想の記事がものすごく多いんです。ハッシュタグをつければ、同じ番組を観ている人の感想をたどったりもできる。そのファン同士のコミュニケーションとドラマ公式の発信がつながったら、大きく盛り上がる気がします。

小孫 番組のファンの方々を集めたイベントなどもできそうですね。制作陣をゲストに呼んでもいいし、ファン同士で感想を話し合うだけでもきっとおもしろいと思います。そのイベントからまた作品が生まれたりして。

加藤 実際に、番組プロデューサーの方にお話いただいたこともありますし、映画の試写会などもピースオブケイクオフィスのイベントスペースでできるんです。場と、視聴者・読者と、コンテンツ。その3つを組み合わせてできることは、たくさんありそうです。

小孫 ファンコミュニティが活性化したら、テレビ東京の手を離れて勝手に動き出すかもしれませんね。

加藤 ケースによっては、テレビの外側で事業化することも可能だと思うんです。ドラマを演劇化することもあり得るし、報道系やビジネス系の番組なら起業や投資につながるかもしれない。

小孫 十分ありえますね。テレビ局のビジネスモデルも、変わっていくかもしれません。テレビは数十年にわたって、19時から22時のゴールデンタイムや19時から23時のプライムタイムといった時間帯を設けてきました。これは、テレビ局が昔の視聴者に合わせてつくった時間帯なんですよね。それに対して、企画や作り方、流す番組のジャンルもなんとなく決まっている時代が続いてきました。

加藤 ゴールデンタイムは視聴率が高いからCMの料金も高い、といったように価格が決められていたわけですよね。

小孫 ですが、もうそれは通じないと思っていて。19時から22時に家族みんながお茶の間でテレビを観る時代ではなくなってしまったのですから。今は、テレビ東京にとってのゴールデンタイムと、他の民放さんやNHKさんにとってのゴールデンタイムは違うと思っているんです。

加藤 たしかにそうかもしれません。

小孫 テレビ東京が独自路線をいくならば、19時から22時以外をゴールデンタイムにしていくくらいの心意気が必要だと思っています。noteのクリエイターや投稿者の方々、インターネットの力を借りて、テレビ東京を変化させていきたいですね。これはまだ、テレビ業界ではあまり理解されない願いだと思います。私が2017年に新聞からテレビの世界に移ったときは、インターネットに対する抵抗がすごかったんですよ。

加藤 それはなぜですか?

小孫 私も不思議だったのですが、これまでテレビがあまりにも収益性の高い豊かな世界だったので、インターネットはそれを食いつぶしにくる存在として認識されていたんでしょうね。今でも、テレビ業界の中には、テレビがいずれ衰えて、ネットにすべて取って代わられると思っている人がいます。

加藤 ネットの側にいると、テレビはまだまだ力を持っていると感じることが多いですよ。

小孫 そうなんですよ。テレビは、ネットの世界を取り込みながら次の世代に入っていくのだと思います。変化しながらテレビは発展していくはず。そのことを、ピースオブケイクさんとのコラボレーションで証明できたらうれしいと思っています。

加藤 こちらこそ、よろしくお願いいたします。

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