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「音楽が生まれる瞬間を捉える」IRIS SUN / 向田麻衣さん #noteクリエイターファイル

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は、小説と音楽を創作するIRIS SUN/向田麻衣さんにお話を聞きました。

2009年より化粧を通じて女性の自尊心を引き出す活動「Coffret Project(コフレ・プロジェクト)」を行い、2013年よりネパール発のオーガニックコスメブランド「Lalipur(ラリトプール)」を展開してきた向田麻衣さん。

音楽家・8th MAY/酒本信太さんと出会い、2016年より流れるように音楽を創作。2018年11月には、作詞作曲も手がけた、EP“OI”をリリース。2019年3月には最新作“AO”をリリースします。

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noteでは、音楽制作に纏わる日々のエッセイ【ESSAY】I’m singingを綴り、音楽とともに生まれた小説『TAMARU』を連載、IRISSUN向田麻衣のつぶやきラジオも更新してくださっています。

創作へ導かれた出会い

「純粋な創作の海に潜ってみたい」

ネパールの女性たちとものづくりをしながらも、自分のなかから出てくる言葉を紡いだエッセイ集を出版した頃から、心の奥底に、そんな思いが芽生えていたという麻衣さん。小説家や音楽家、映画監督に写真家。いつしか自然と、まわりにアーティストが増えてきて、その芽は少しずつ開いていきます。

「一番刺激をもらったのが酒本信太。彼のあり方が突き抜けていて、私を音楽、創作へと導いてくれたんです」

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(向田さん・酒本さん)

ふたりの出会いは、Lalitpurが企画したイベント。映像作品を創りたいと、映画監督の中川龍太郎さんと写真家の阿部祐介さんとネパールを旅し、その報告会を開いた夜。小さな会場に70名を超える人があふれるなか、中川さんの紹介で対面したふたりは、ひとことだけ、言葉を交わしました。

「ネパールへ行きませんか?」
「行きます」

それから数日後、会う約束をしたふたり。約束時間は朝9時。9時20分に目覚めた麻衣さんは着の身着のまま家を飛び出し、40分の遅刻。必死に謝る麻衣さんに酒本さんはさらりと一言。

「大丈夫ですよ。詩が書けましたから」

到着を待っている間に、麻衣さんのTEDの映像を観ていた酒本さんはインスピレーションを受けて、一編の詩を書いた。後日、その詩に音を乗せて、「HOHOEMI」という曲が生まれます。

その日、ふたりは、時間が経つのも忘れて、気づけば夕方18時頃まで、おしゃべりをして、歌い、踊っていたといいます。

暮らしの中で生まれた音楽と小説

「そのようにして、酒本信太が私の人生に突如現れて、自然と音楽が入ってきた。出会って半年経つ頃に、私たちは一緒に暮らすようになって、日々のなかで、歌と詩ができて、たくさんの曲が生まれました」

ふたりはその曲をmaishintaとして、「love is」、「Circulation」「Creation」という3枚のアルバムに纏めてリリース。

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「ちょうどその頃、Lalitpurで一緒に働いているネパールの女性たちの就職先が決まって、これからブランドをどうしていこうか考えていました。そしてネパールに必要なものも、私に必要なものも、同じだと思ったんです。それは、“自ら生み出す力”を持つということ」

その確信をまず、自分が手にするために、麻衣さんは2018年4月末にLalitpurを一度閉じる決断をします。経営者、社会起業家という肩書きを脱いで、まっさらな場所で、際限なく自由な創造をすることを始めたのです。

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「何者でもなくなって、“人間”として生きることになって(笑)。開放感と同時に心細さもありました。でも、何より純粋に創作に向かえる喜びが優っていました」

5月から朝5時頃から10時頃まで、1日5000字程書くことをルーティンにして、小説を書いた。そうして2ヶ月後に生まれたのが、noteでも連載している、長編ファンタジー小説『TAMARU』。14歳の少年・タマルがひとりの音楽家と出会い、音楽に導かれ、彼らがともにした“創作の旅”が描かれた物語です。

「音楽と物語の創作を同時に行なっていたので、私たちが見た景色や創作した音楽が物語のなかに出てきます。音楽が生まれた時のことを音楽以外で残したい、という気持ちがわいてきて、それが小説という形で昇華されました」

One Stroke Sketch 一筆書きという手法で

この時期に生まれた音楽は「One Stroke Sketch(一筆書き)」によってつくられています。“One Stroke Sketchとは、ふたりが見つけた独自の音楽の制作手法です。一切の準備を行うことなく、その瞬間に極限まで集中を高め、一気に編み上げ、作詞・作曲・演奏・録音をすべて同時に行います。麻衣さんが創作に集中し始めて1週間ほどが経った、2018年5月8日に偶然編み出しました。

「その日、部屋に飾った大きな百合の花の香りに誘われるようにして景色が見えて、それをメロディと言葉で転写するように曲が生まれていった。はじめての経験で、嬉しいとか悲しいとか感動とも違う涙があふれて。そこから数日間続けていって、奇跡でも偶然でもなく、その時と、その瞬間の音楽を自分で捉えることができるようになりました」

そうして、48曲の音楽が生まれます。ファーストテイクの音楽に、声を入れたり音を乗せたり、“調理”して磨き上げる作業をしてできたのが、IRIS SUN(向田麻衣)の“OI”と8th MAY(酒本信太)の“SONOHITO”。3月には新しいEP「AO」もリリースされます。

「これまで、音楽の歴史の中で、即興演奏はあっても、歌と詩と曲を一遍に創作し、音楽がまさに生まれ出る瞬間を作品として録音する。 このようなスタイルの音楽を私は知りません。麻衣が音楽に取り組んでこなかったからこそ、たどり着いた方法だと思います。感じたままに、音楽の流れに身を任せ、自分でも想像もしなかった音を自ら奏で始める時の感動は、言葉になりません。けれど、作品の中に、その時私たちが発していた響きは、閉じ込められています。 こうした、スタイルに出会えたことで、より一層、自由に創作に取り組めるようになって、本当に良かったと思います」(酒本さん)

3歳からピアノを弾き始め、12歳から作曲を始め、映画音楽、アーティストへの楽曲提供など、現在に至るまで多くの音楽を生み出してきた酒本さん。One Stroke Sketchによって、音楽を奏でる喜びを改めて感じたといいます。

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もっとも望んでいた場所に辿り着いたから

「One Stroke Sketchで音楽を創作していること自体がものすごく幸福で、一度でも多くやりたいと思う。もっともやりたかったことができた。作品へ昇華させることで、聴いてくれた人がインスピレーションを受けたり、気持ちよくなってくれたりしたらいいなあ」

実際にたとえば、櫻井焙茶研究所の櫻井真也さんはふたりの音楽を聴いたインスピレーションをもとに、オリジナルのブレンド茶をつくっています。

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「創作へ自分のすべての時間を使うことを決めて、実行して。結果的に、『私はこれです』『これでしかない』という作品が生まれました。その時、心に、開き直りと降参と、同時にスペースが生まれてきたんです」

自身がもっとも望んでいた境地へ辿り着いたことで、気持ちが向かう場所、見える景色も少し変わってきたといいます。

「自分が何かを表現したり生み出したりできる感覚を掴んだ時、私たちの体験や学びを還元できたらいいなという思いが湧き上がってきました。そして、ネパールの子どもたちへ向けたワークショップを開くことにしました」

2019年5月にはネパールの子どもたちに向けて、音楽の制作と録音、インターネット上での発表を販売方法を教えるワークショップを開催予定。伴って、4月27日にはファンドレイジングのためのライブが開かれます!

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「毎日何かが生まれています。これからもずっと、創作を続けたい」

ふたりは暮らしのなかで、One Stroke Sketchによって生まれた音楽を作品へ昇華させ、私たちに伝えてくれます。

ふたりの音楽や物語の発表の場となっているnoteをお見逃しなく。

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■クリエイターファイル
IRIS SUN / 向田麻衣

1982年生まれ。慶應義塾大学卒。1999年にネパールを訪問し、女性の識字教育を行うNGOに参加。2009年からメイクアップを通じた女性支援Coffret Projectをスタート。2013年にネパール発のナチュラル化粧品ブランドLalitpurを創業。2016年から音楽制作を開始。酒本信太とのユニットmaishintaとしては3枚のフルアルバムをリリースし、全国のタワーレコードにて発売。2018年より、ソロ・プロジェクト IRIS SUN(イリス サン)名義で作詞・作曲を始める。2018年11月30日にIRIS SUNのファースト EP「OI」をリリース。セカンドアルバム「AO」が2019年3月にリリース予定。著書 『美しい瞬間を生きる』 (ディスカバー21)
note: @maimukaida

8th MAY / 酒本信太
1991年生まれ。3歳よりピアノを弾きはじめ、12歳から作曲を始める。
2015年より早稲田大学在学中に出会った小袋成彬らとTokyo Recordingsを立ち上げ、アーティストへの楽曲提供、プロデュース、テレビコマーシャル音楽、個人では映画音楽などを担当。2016年より、自らに内在する芸術性、直感に従い自身の作品作りのため、生まれ育った奥武蔵にてスタジオを構え制作を始める。2018年12月、ピアノとヴォーカルの一時間の一筆書きで制作した待望のアルバム"SONO HITO"をリリースした。彼自身がそうであるように、酒本の作品は、一切飾り立てることがない。音楽を奏でることの感動の中心を貫く響きのみが、ここに奇跡のように立ち上がっている。
note:@shintasakamoto

text by 徳瑠里香 photo by 平野太一


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