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noteやTwitterでシェアされる「読まれる」「つながる」文章のコツとは?

noteやTwitterを、企業はどのように組み合わせて活用していくべきかを考えるイベント「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」。今回はwithnews創刊編集長でサムライト株式会社取締役CCO・奥山おくやま晶二郎しょうじろうさんにお話を伺いました。

奥山さんは、朝日新聞で「朝日新聞デジタル」の立ち上げなどを担当した後に「withnews」をスタート。月間1億5千万PVを達成しつつも、数字を追わずに「つながり」を重視する方針を大事にして成功された経験をお持ちです。その経験を活かし、書籍『朝日新聞ウェブ記者のスマホで「読まれる」「つながる」文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓されました。

今回は書籍の内容をもとにライター、宣伝、広報、PRから個人のSNSやnoteまで、多くの人たちが文章を書き、発信する時代に必要な「つながる」文章術とはどういうものなのかを深掘りしていきます。

ゲスト
奥山おくやま晶二郎しょうじろうさん
サムライト取締役CCO
withnews 創刊編集長


「読まれる」の先にある「つながる」文章とはなにか?

ーーPV数などを伸ばす「読まれる」文章術についてはよく聞きますが、「つながる」文章術とはなんでしょうか?

奥山 簡単にいうと、「つながる」とは「読み手の気持ちがちょっと変化して、それが何か行動として表れる」ことです。それはまさに広報やPRの人、あるいは、いきなり「noteの担当になって」とお願いされて困っている人にとって役立つ技術ではないかと思います。今回はそんな「読まれる」「つながる」文章のコツについてお話しさせていただければと思います。

突然noteやSNS担当を任されたら

奥山 noteに限らず、さまざまなSNS運用の場でも、よくわからないまま運用を任された人たちが、数値指標に振り回されたり、あるいは炎上をしたりという話を聞きます。そのような事態を招かないためにも、読まれたあとの「つながり」まで求める必要があると思うんです。

もも味・バナナ味ポテトチップス「ライバルはLINE」湖池屋の戦略

奥山 まず紹介したい事例が、湖池屋さんの記事です。この記事は広報やPRに近い記事ですが、お菓子の宣伝に留まらず、お菓子を「コミュニケーションツールとして追求した」と紹介することで、記事を読んだ後の「読者の行動変容」を期待しています。

通常もも味、バナナ味のポテトチップスが出た時って、当たり前ですが「もも味・バナナ味のポテトチップスが出ました」という記事になりますよね。それだけでも十分にインパクトはありますが、湖池屋さんはこの商品をきっかけに、人同士のコミュニケーションが生まれることを大事にしたかったんですよね。

だから、ライバルはお菓子メーカーの競合ではなく、コミュニケーションアプリである「LINEのスタンプ」と言っていて。スナック菓子にとっては、コンビニのレジ前のお菓子と同じくらい、手頃な値段のLINEスタンプは競合品になっているとおっしゃったんです。だから、膨大なクリエーターから繰り出される個性的なLINEスタンプより買いたくなるのか、話題になるのかを大事にした。その狙いを伝えるため、ちょっと変わったポテチが出たという単純なバズ狙いのものではなく、開発者の想いを伝えるような内容にしました。結果、他の記事とも差別化ができて、たくさんの人に読んでもらうことができました。

指標を求めすぎると多様性が阻害される

奥山 ウェブの場合、一つの指標だけを求めてしまうと、多様性を阻害してしまいます。もともとウェブは自由でいろんなものが生まれることが魅力だったのに、指標以外のものは意味がない扱いにされてしまうのは「もったいない」と思っています。

サムライト取締役CCO、withnews 創刊編集長:奥山昌二郎さん

ーー奥山さんがいた新聞の世界だと、定量的な指標よりも定性的な考え方をされている記者の方が多いイメージがありますね。

奥山 それが近年、デジタル系の事業が増えるごとに、定量的評価に振り回されるようになってしまいました。たとえば、新聞社は地方局がたくさんあるのですが、そこで面白い話を見つけても、「これでは数字が取れない」と書くことすらあきらめることがあるんです。それはもったいないと感じて制作した、ミスターミニットさんの記事についてご紹介します。

靴修理屋さんって何してるの?密着してみたらマッキーに泣かされた

奥山 ミスターミニットさんは、靴修理や合いカギの作製など幅広いサービスを提供するお店です。このお店って、駅構内でよく見かけることが多いと思うのですが、利用したことがないとどんなお店なのか知らないという声も聞いていて。それで、その店の店長のただただ普通の一日に密着して、6000字にわたるレポートにしました。新聞紙面では載せようがない話なんですが、結果的にめちゃくちゃ読まれたんですね。結果、「読まれる」と「つながる」を両立させることができました。

「つながる」のはもちろん大事ですが、それだけだとおそらく事業として成りたちません。事業を継続するには「読まれる」と「つながる」のバランスが必要なんだと感じました。これは私にとっては発見で、大ニュースじゃなくても読まれる記事は作れるんだと学びました。

読者視点に立ってタイトルを選ぶ

奥山 東日本大震災当時の話です。当時私は、新幹線の車内などで流れる「文字ニュース」を担当していたんです。地震が起きてから刻々と変わっていく街や、増えていく犠牲者の数。私は情報が届くたびに、ひらすらその情報を「文字ニュース」に入力していました。その時の話を、震災から10年経った年に「新幹線の文字ニュース終了」という時事ニュースに絡めて記事にしました。

10年前に〝吐き気〟をおさえながら更新した「新幹線の文字ニュース」

奥山 普通に考えたら、震災のことを考える記事なのだから、タイトルに「東日本大震災から10年」という言葉を入れるのかもしれません。ですが、ここではあえて使いませんでした。読者視点に立てば、普段から震災を気にしているとは限りませんよね。大事なことだと理解はしていても、いつも考えているわけではない。だとしたら「東日本大震災」という文字は、かえって読者を遠ざけてしまう恐れがあります。

多くのニュースサイトにはアクセスランキングがありますが、震災や政治、国際問題が上位にくることは多くありません。それでも真面目なテーマを発信しなければいけない時がある。だからこの時はタイトルで「震災」という言葉を使わずに、震災の話を伝えようとしました。

伝え方を変えるだけで多くの人が反応してくれる

奥山 withnewsでは漫画家・深谷かほるさんの『夜廻り猫』という連載をしています。主人公の猫が、心で泣いている人や動物たちから話を聞いてあげる、というお話です。登場するのは有名人ではない、普通の人たち。この漫画は、そうやって日常を描き続けているんです。

「そん時は俺、残るよ」愛するペットから考える戦禍 マンガ夜廻り猫

奥山 そんな中、去年の3月に今戦争が起きたらペットをどうしたらいいんだろう、という回を掲載しました。マンガの中では「ウクライナ戦争」という言葉を使っていないんですが、多くのTwitterユーザーがちゃんと気づいてくれて、コメントで補完してくれたんです。

もちろん戦争報道としては、現地からのルポのほうがわかりやすいのかもしれません。けれど、それと全く違う伝え方もあるということです。

スマホという日常の中に割り込ませる方法

奥山 スマホは常時接続の携帯端末なので、もう日常生活の一部になっていますよね。気合を入れて何かを読む、みたいなものではない。だから、読者の生活時間に合わせたり、なんらかの課題解決につながったりするような要素を記事に入れなきゃいけないと思うんです。

格ゲー業界騒然!パキスタン人が異様に強い理由、現地で確かめてみた

奥山 この記事は、「鉄拳7」という格闘ゲームの世界大会が日本であって、全くノーマークだったパキスタン人が優勝を果たしたことをきっかけに作りました。優勝後に青年が「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」と言い出して、Twitterでバズっていたんです。それこそ我々は新聞社なので、パキスタンの特派員に取材してもらいました。

ーー新聞社ならではですね。普通のネットメディアでは真似できない(笑)。

奥山 実は中身もパキスタンの電力事情や中国との関係などに触れている充実した国際ニュースになっているんですが、見出しの「格ゲー業界騒然」のような要素で目を引くことで、読者の日常に入り込むことができるわけです。

Twitterで記事をシェアしてもらうには?

ーーここまで実例を交えて「読まれる」「つながる」文章について伺いましたが、さらに具体的に、Twitterやnoteで「つながる」記事とはどういうものでしょうか?

奥山 次の記事は、3ヶ月連続で吉野家さんの牛丼を食べたら、どうなるのかを研究したレポートです。

あの研究、ついに結果が出た!吉野家牛丼を3カ月間連続で食べたら…

奥山 吉野家さんというだけで鉄板ネタではあるんですが、Twitterでは午後10時に告知しました。いわゆる飯テロですね。健康を考えると背徳的に感じるこの時間帯が、一番盛り上がるだろうという考え方です。

ウェブメディア全体で考えると、朝に記事を配信して、昼にPVが一番伸びて、という常識があるんですが、こういうネタっぽい記事は、夜に投稿することで、Twitterで大喜利的に盛り上がるだろうと思ったんですね。実際Twitterからの流入がものすごく多い記事になりました。

ーー記事単体で考えるのではなく、Twitter空間でどう消費されるのかを意識したということですね。

奥山 Twitterって「ダラダラとした世界」だと思うんです(笑)。考えてみると、メディアに接触するマインドって、基本ダラダラな感じが実態に合っている気がするんです。我々のようなパソコン通信世代は、デジタルは能動的に触れる世界だと思っていて、だからユーザーは主体的に考えて動いてくれるものと思いがちです。でも実際は、TikTokなどを見るとわかりやすいんですが、ただスクロールすれば動画が流れてくるという、テレビのザッピングに近い状態になっています。このダラダラに合わせるためにも、時間帯の絞り込みやネタ要素が重要になるんじゃないかと思います。

noteで読まれる「noteらしさ」とはなにか?

奥山 2020年に、当時高校生だった鈴さんという方が、新型コロナウィルスが蔓延し始めたころの空気感を書いた記事です。地方で感じた格差や問題点を指摘しつつ、でも誰かを悪者にすることもない、独特の空気感で書かれています。

段落の区切り方や、一つのセンテンスのボリューム感など、テクニカルな意味でも文章が上手ではあるんですが、なにより自分という当事者の目線で書いていることがいいなと思いました。自分の周りを書くことだけで新型コロナを語るというのは、ありそうでなかった。一般的なユーザーがnoteを始めようと思った時も、最初は自分の体験から書き始めることが多いと思うんですね。

ーーそれがnoteらしい書き方なんじゃないかということですね。記事を書くとなると、どうしてもメディアに掲載されるような記事を想像して、背伸びしてしまいますが、鈴さんのように自分の経験を書くのがnoteらしいと。

奥山 すごくnoteらしいし、今時だと思います。でも、そうやって個人の話を書いていても、その背景には国の制度や、地方独特の価値観がにじみ出ますよね。

ーーnoteを始める時に、みなさんによく「私は文章力がないから……」と言われるんですが、それは問題じゃないんですね。

左・モデレーター:徳力さん 右・奥山さん

奥山 希少性と再現性という、本来、対立する要素が同居できる時代だと思っています。昔の新聞は、希少性こそが大事で、再現性がなければないほど、その価値が上がると思われていました。鈴さんの記事は、他にも同じような境遇の人がたくさんいたはずです。でも、それは鈴さんではない。それぞれの体験に共感ポイントは必ずあるし、その体験はその人だけのものなんです。ミスターミニットさんの一日密着だって普通の話だと思うんです。でも読む人は希少性を感じてくれます。

指標を求める会社に理解を促すには

ーー指標ばかりみるとよくない、という話がありましたが、それでも企業は数字をほしがりますよね。奥山さんの場合はどのように理解してもらっていますか?

奥山 社内的な評価のために重視する数字は、やっぱりあります。withnewsも、ちゃんと伸びている数字を、生存戦略として用意しています。社内的に意味がある=メディアが存続する=世の中に貢献できる、という論理展開で、数字もちゃんと求めてきました。一方で、他の目標もあらゆる手を使って確保しました。それはメディアに対する思いだったり、世の中に伝えたいことだったりする。それが何であってもいいんですが、一つの指標に全てを背負わせずに、いろんな角度から目標や指標を提示するといいと思います。

「読まれる」「つながる」文章を身につける方法

ーーこれから「読まれる」「つながる」文章を書けるようになるコツってありますか?

奥山 デジタルは情報がすごい勢いで流れていくので、面白いと思ったこともすぐ忘れます。だから私は、気になった記事はスプレッドシートにまとめて、自分用のリンク集を作っています。それだけだと見なくなるので、1ヶ月に一回くらいアウトプットの機会を作るんです。友達間でもいいし、会社でそういう発表会を作るのでもいい。世代が違うと全く違うニュース記事が出ることもあるので、やってみると結構楽しい。そうした取り組みをやっていくうちに、自然と「読まれる」「つながる」記事の傾向が見えてくるはずです。

ーーなるほど、これは試してみたくなりますね。みなさんもぜひやってみてください。本日はありがとうございました!

※敬称略

▼この記事のもとになったイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

ゲストプロフィール

奥山晶二郎さん
サムライト取締役CCO
withnews 創刊編集長

2000年、朝日新聞入社。初任地は佐賀。山口、福岡と勤務して2007年の社内公募をきっかけにデジタル部門へ異動。「asahi.com」の編集に携わり、「朝日新聞デジタル」立ち上げに関わり、動画、データジャーナリズム、SNS連動企画などを担当し2014年にwithnewsをスタート。withnewsコラム「マスニッチの時代」連載中。共著に『フェイクニュースに震撼する民主主義』(大学教育出版)。2021年7月に『Web編集の教科書』(朝日新聞出版)を上梓。


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interviewed by 徳力基彦 text by 大熊信

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