英語学習の目標設定

英語学習の目標をどこに定めるかは、人によって違います。英語圏に留学する人、仕事で英語を使う人、英語で論文を書く人、英語を教える人、翻訳や通訳の仕事をする人、とりあえず必要ではないけれども勉強したい人など、それぞれ異なった事情を抱えています。

そこで私が開催しているワークショップで目標にしているのは「普通の速度で聞き取りと会話ができること」です。これは将来的に、どんな立場で英語を使う人にも必要な条件になるはずです(というか、普通の速度の英語が理解できなかったら本当はお話にならないのです)。でも、従来の学習方法ではどんなに頑張っても到達できなかった目標でもあります。

「他の人もできないんだから、そこまでやる必要はない」と主張する人もいます。ここで考えてみてください。「他の人」って誰ですか?周りにいる日本人ですよね。日本人の平均的な英語の能力は、控えめに表現しても先進国にはあるまじき水準ですから、英語圏では「あるまじき水準」だと思った方が良いのです。「他の国の人も訛っている」と言う人も多いのですが、「訛っている」のと「普通の速度で意思疎通ができない」のは別の話です。

そこで「私はXXや○○の米国本社で管理職を務めた。英語はそこそこで良いことを経験している」と言い張る人もいます。若手ではなく40代以上の人がほとんどなので、かなり立派な肩書の持ち主ではあります。それも考えてみましょう。

XXや○○のようなグローバルな大手AI企業にはかなり大きな日本支社がありますから、米国本社でも、日本語ができる管理職の人はもちろん必要です。AIのように変化の速い業界は、必要な知識と経験を持つ人材が不足しています。だから英語に難がある人でも、その他の能力があれば良い仕事に就くことができたわけです。人材確保が難しければ、雇う側も妥協が必要なわけです。でも、それはあくまでも過去の話です。将来的にずっと同じ状態が続くはずはありません

私が通訳を始めた頃は、片言の英語を話す人でも東京で時給5000円ぐらい稼ぐことができました。それで慢心した人は今ではみんな淘汰されています。私が翻訳や通訳の仕事で生計が立つようになってからも勉強を続けた理由は、当時の市場の評価や試験の成績とは関わりなく、自分の英語の運用能力が充分でないことを自覚していたからです。充分な能力がないのに、とりあえずお金がもらえることに満足するのは危険です。「普通の英語の速度で会話ができない」状態で、充分な語学力があると考えるべきではありません

これから英語環境で仕事をしていく日本人が自分に必要な語学力を検討する場合、比較の対象にするべきなのは、英会話学校で席を並べる人たちではありません。日本の外で自分と同じ仕事をしている同年代のアジア人です。中国人も韓国人も、若い世代の語学力は一時代前とは比較になりません。英語も日本語も自国語も堪能でアメリカの大学院を出ている人たちが、東京や香港やシンガポールのオフィスでアジア支部を統括するような状況はもう現実になっています。アメリカにおいては、アジア人の平均所得と学歴は白人を超えています。

日本の中にいると感覚的にわかりにくいことは多いかもしれませんが、私は日本の語学環境には本当に危機感を持っているのです。中学から6年間の間違った勉強をしている上に、それを是正する動きは全くありません。しかも語学の勉強には10年単位の計画が必要で、付け焼刃ではできません。10年後の世界はもう目の前に迫っています。それを念頭に置いて目標を設定しましょう。

「普通の速度で聞き取りと会話ができること」

どう考えても当たり前の目標だと思いませんか。








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