日本は「キャッシュレス後進国」か?

 2019年に予定されている消費税率の10%への引き上げに関連して、クレジットカードなどのキャッシュレス手段による消費金額の一部をポイント還元する政策が予定されている。個人消費の反動減を抑制するとともに、諸外国に比べて「遅れている」、日本のキャッシュレス決済を推進しようという狙いもあるようだ。

 この「遅れている」の認識の根拠は、経済産業省が2018年4月に公表した「キャッシュレス・ビジョン」における下記の各国比較グラフである。日本のキャッシュレス決済比率は18.4%と諸外国に比べて遅れている様子が示されている。この決済比率は果たして現実を反映しているのであろうか?

 このキャッシュレス決済比率は、「キャッシュレス支払手段による年間支払金額」を、GDP統計における「家計最終消費支出」で割って算出されている。

 分子の「キャッシュレス支払手段による年間支払金額」は国際決済銀行(BIS)の年次報告書(Statics on payment, clearing and settlement systems in the CPMI countries)が原典だ。報告書の中には、非銀行部門(non-banks)におけるキャッシュレス決済手段の金額が各国別で掲載されている。そのうち、電子マネー決済額(E-Money Payment Transactions)とカード決済額(Card Payments (except e-money))の合計額が分子となる。

 しかし、上記の合計額は各国の非銀行部門のキャッシュレス決済手段の最大でも1割に満たず、日本については2%未満だ。日本では圧倒的に銀行間システムを用いた決済額が多い。分子の「キャッシュレス支払い手段による年間支払金額」には、銀行振り込みは含まれていないのである。

 さらに、電子マネー決済額は、上記図に掲載されている11ヵ国のうち、中国など5ヵ国はデータが存在しない。米ドル換算の金額は、なんと日本が一番多いという結果になっている。キャッシュレス決済では、中国のスマホ決済のエピソードが必ず紹介されるが、上記の比較図にはこのデータは含まれていないのである。

 分母の「家計最終消費支出」にも問題がある。消費額(厳密には国内家計最終消費支出だが)の4分の1は、住居・電気・ガス・水道である。これらは銀行引き落としでの決済が一般的ではないだろうか。これも立派なキャッシュレス決済であろうが、分子には含まれていない。

 しかも、住居・電気・ガス・水道の支出には、現実には消費されておらず、GDP統計の決まりによって計上されている「持ち家の帰属家賃」(国内家計消費の16%)が含まれている。実際に支出していない金額が分母に含まれていると、それだけキャッシュレス決済比率は過小になる。

 さらに、日本の電子マネー決済額にもカバーされていない部分がある。非接触型ICチップを決済したプリペイド型電子マネーのうち、8社から提供されたデータを集計しているが、乗車や乗車券購入に使われているものは含めていない。こうした運賃支払いを含む「交通」関連の消費は、消費額の1割を占める。

 このように、世の中で注目されている「キャッシュレス決済比率」は過小推計である可能性が高いのである。

 本日(14日)の日本経済新聞電子版での独自調査で、「日々の買い物で使う金額のどれぐらいをキャッシュレスで決済しているか聞いたところ、全国平均は43%だった」という記述があったが、こちらの方がよっぽど実感に近い。政策を推進するのであれば、EBPM(証拠に基づく政策立案)を徹底してほしいものである。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38951680U8A211C1SHA000/


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