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スタートアップにとって、大型資金調達より大変なこと

スタートアップと投資家 カネ余りで規律に緩み」(日本経済新聞2019年5月24日)

起業家として、耳の痛い記事です。

新しい事業を築くには、大きな資金が必要です。数年前までは、スタートアップが数千万円の資金を調達することすら難しく、数億円の資金調達はビッグニュースでした。

しかし、巨額の資金を調達して大きな事業を築くシリコンバレーの仕組みが理解されるについて、日本でも数十億円の資金調達も可能になりました。それでも、この記事で紹介されているような、10億円を超える資金を調達できる恵まれたスタートアップはごく一握りです。日本の多くの起業家は、今日も資金調達に奔走しています。

運良く大型の資金調達に成功しても、次には、さらに高い壁が立ちはだかります。実は、「資金を調達すること」よりも、「資金を有効に活用すること」の方が難易度が高いのです。

例えば、10億円の資金を調達したと仮定します。その10億円を有効に活用するのは何が必要でしょうか?ざっと挙げてみると、次のようになります。

(1)プロダクト作りを優先順位を決めて進めていく仕組み
(2)デジタル・マーケティングやテレビCMを大胆かつ繊細に実行していく仕組み
(3)それらの担い手である、エンジニア、デザイナー、マーケター、セールス、カスタマーサポート、コーポレートスタッフを採用する力
(4)優秀な人材が、チームとして力を発揮できるような組織づくり
(5)1円1円が有効に活用されているかを検証するためのデータベースと分析の仕組み
(6)事業の成長に合わせて、リスクや法令遵守の状況をモニタリングする仕組み

一言で言えば、「経営の仕組み」が必要となります。

スタートアップにとって、資金調達には大きな労力が取られます。(資金調達は起業家にとっての「フルタイム・ジョブ」と呼ばれるほどです。)このため、10億円の資金調達を行った段階で、こうした「経営の仕組み」がすでに出来上がっているスタートアップは極めて稀です。ですから、資金調達を完了したら、気を緩めることなく、直ちに「経営の仕組み」を築き始めていく必要があります

ところが、現実には「経営の仕組み」を築くことよりも、別のことに気を取られがちです。

起業家のほとんどは、創業してからしばらくの間、事業のアイデアやサービスの話をしても誰にも相手にされない、という時期を経験します。心理的にも経済的にも苦しい時期が、半年から数年続きます。

その後、大きな資金の調達に成功すると、周囲との関係が一変します。たくさんの人たちが「手伝いますよ」と声をかけてくれるようになります。メディアからの取材も受けるようになります。起業家は、「ようやく世の中から認められた」という感覚を持つようになります。

起業家も人間ですから、世の中から相手にされない時期が続いた後に、突然、提案を受けるような立場になると、「やっと認められた」という高揚感と安堵感から、ついついこうした話に耳を傾けたくなります

そんな精神状態でいろいろな提案を受けると、それらを鵜呑みにしてしまいがちです。分不相応なオフィス高価なロゴや「ブランドづくり」高額な営業支援システムのご提案を受けます。また、「ちょっと意見交換させて下さい」と大企業からたくさんお声がけを頂きますし、ここ数年は、日本政府から声もかかるようになりました。

(ちなみに、こうした提案をしている側も決して悪意があるわけではなく、「普段サポートしているような大企業だけでなく、スタートアップも支援したい」という善意からのご提案であることが多いです。スタートアップ向けに大きく割引をしてくれることもあります。しかし、それでもスタートアップにとっては不相応である、というのが難しいところです。)

実は私自身も、3年半前に6億円の資金調達を行った直後に大きな失敗をしており、その時の記念の品をオフィスに飾って、自分への戒めにしています。

大型の資金調達を完了したらすぐに、「経営の仕組みづくり」に取りかかることが大切です。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45207920U9A520C1SHA100/

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