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カフェと海と南国気分(たまには、夫婦で)

ひさびさに夫とふたりで過ごせる日を捻出して、海へ行った。

私が海へ行きたいと言ったのだ。

先月のわたしの誕生日には娘がまさかの入院となり、自分たちも体調を崩してなかなか大変な日々であった。ようやく日常を取り戻したいま、遅めのバースデー企画で希望を叶えてもらうことになった。

福岡市内の家から、車で1時間ほど。糸島へ向かう。

道中、ランチに行くお店を検索する。

普段ならば和食大好き、海辺なら漁師の海鮮丼チョイスのわたし。でも今回は、せっかくの機会なのでちょっとした南国リゾート気分を味わいたいと、海の見えるカフェへ向かうことにした。

* * *

11時のオープン前に到着。店の前のベンチに座って、店が開くのを待つ。すでに数組が同じようにゆったりとオープンを待っていた。

連日の酷暑で、この日もじわじわと暑い。暑いのだけれど、待っているあいだ、それほど嫌な暑さは感じていなかった。街で感じるようなビルやコンクリートからの照り返し、じゅうじゅう焦げるような熱さがないからだろう。海からの風が、心地よく抜けてゆく。

11時ちょうど、お店がオープン。店に入ると、テラス席か室内かと聞かれる。テラス席にも心惹かれるが、これからもっと暑くなるかもねと今回は室内に。待っていたかいあって、海の見える窓際の席へ案内してもらう。

あえてホットのシナモンティーをオーダー。ティーポットのドリンクは、ふたりでシェアするのにちょうどいい。食事メインで利用したいとき、こういう選択をしたりする。今回は夫チョイスだったが、わたしも賛成。

なんとなく絵になるなぁ、と思って、一枚撮ってみる。

こうやって、優雅に食卓の写真を撮るなんて、いつぶりだろう。本当に、もう思い出せないくらいにひさしぶりだ。はい、ちょっと失礼しますよ。そう夫に言い訳しながら、いそいそと配置を変えたりしてもう一枚。

容赦なく食器を「ブンッ」と投げ飛ばす1歳児との食事は、毎回が戦闘態勢だ。家では何枚食器を割り、牛乳や味噌汁の飛沫を浴びたことか。外食ともなれば、いかに姫のご機嫌を維持するか、だけを全力で考える。でないと大暴れで大変なことになる。のんびりとカメラを構える余裕は、まず、ない。

黒砂糖を入れたら、ぷくぷく……と小さな泡を出して溶けてゆく。その様子がおもしろくて、ついシャッターを切ってしまう。いや、だってほんと、こんな悠長に撮れる機会、めったにないんだもの。その貴重さが身にしみている。苦笑気味の夫は、それでも妻の性質とこの時間の貴重さをよくわかっているから、もはや何も言わずにぬるく笑ってくれている。

わたしはロコモコ、夫はグリーンカレーを頼んだ。ぱしゃりと数枚撮ってカメラをしまい、味に集中する。写真を撮るのが好きといっても、こういうときは多くても5枚くらいまでしか撮らないと決めている。自分も早く食べたいし、相手といっしょに食べたいし。作り手だって、冷めるより早く食べてほしいだろうと、家で毎日ごはんづくりを担う身としては思うし。

ハンバーグはフォークを差し入れると、じゅわっと肉汁が溢れ出した。噛めばお肉の旨味が感じられてよい感じ。それにやっぱり、こういうカラフルで華やかなワンプレートは、わかりやすく南国気分があがって嬉しいものだ。

運ばれてきて、目で見てわくわくして、ああ、どこから食べようかな!とこどもみたいにちょっとはしゃいじゃう。旅の気分、異国の気分。いつも同じようなメニューばかりしか作れない自分には、こういう非日常が大切だ。

* * *

食事のあと、目の前のビーチを少し散歩。人のまばら具合が嬉しい。

かつて、海辺のまちに住んでいたことのあるわたしは、こういう砂浜へ来ると当たり前のように裸足で海に入りたくなってしまう。

ひとしきり写真をとって遊んだら、夫に「はい」とカメラを預け、サンダルを抜いで海へ入る。じゃぶじゃぶ。

ああ、海だなぁ! ダイレクトに体に触れる波に、感動する。

水を吸った砂の、たぷたぷとした表面の上を、ぺたぺたと歩く。ざざざん、と波がくる。水の感触。そして波が引いてゆくときの、足のまわりの砂がさらわれて、自分が取り残されてゆく、その感触。

さらに個人的なおすすめは、全身が無理な日でも、足だけでなく手を海に浸すことだ。

手にはさらに繊細な触覚があるからか、はたまた、ただのわたしの思い込みかは知らないが、手を海に浸すと、足だけよりもさらに、五感がばぁぁっ、とひらく感じがする。

手を浸して、波の下で、底の砂をつかむ、放す。引き波とともに、砂がまた、さらわれてゆく。

この海は、どこまでも続いているのだなぁ、と思う。大自然に溶けて、国境も溶けて。自分が世界に溶けてゆく。そんなシームレスな感覚が、からだをここちよく襲ってくる。

街の暮らしでは気づかずに閉じている感覚を、海はそっとひらいてくれる。

↑ “海賊王に、オレはなる……?”

* * *

一歩引いて見ている夫に、「入らない?気持ちいいいよ」と聞いてみる。

「いや、今日はいいかなぁと思って」と苦笑しながら言う彼に、「いやぁ、いいよぉ、五感がひらくよぅ!」と、よくわからないコメントで誘う。

夫は笑って、心を決めたらしい。

「いやいや、そんな五感がひらくだなんて、ゆうてますけどもそんなわけが」とエセ関西弁で言いながら、ニヤニヤと私に荷物を預け、靴を脱ぎはじめる。海へと歩いてゆく。そのまま無言で足を浸し、手を浸す。

「・・・・・・」。

そしてこちらを振り返りながら第一声、「ひらくわ!こら、ひらくわ!」と叫ぶ。壮大なノリツッコミをありがとう。わーくだらん夫婦!と自分で思いながら、とりあえずハハハ、と笑いは止まらない。

みなさん、夏ですね。

毎日仕事や家事に追われているとなかなか、そんな時間もとれないかもしれませんが。あまり暑くない時間帯を選んで、ちょこっと海へお散歩、おすすめです。なんか閉じてるその気持ち、ひらきます。


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info

・カフェ「SUNSET」:福岡・糸島にある老舗のビーチカフェ。詳細は公式ホームページへ。

・二見ヶ浦:「SUNSET」から道路を挟んで向かい側にあるビーチ。水が澄んでいてきれいだった。

・ちなみに別の記事で書いた素敵な木の手作りおもちゃ屋さんは、この旅の道中に見つけたもの。帰り道、ここで娘へのお土産を買っていった。子連れファミリーや、ものづくり好きな方は必見。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。