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愛人契約書解説

※この文章は創作物であり著者ならびにいかなる人・組織の人生、業務の実態とは関係ありません。

愛人契約書解説

前文

1項

 パパ活とか、援助交際とか、愛人関係とか、男と女が一定の距離を持って付き合うことは、互いに全人格的にすべてをさらけ出して付き合う事、例えば婚姻関係とは、別に存在します。婚姻も社会に向けた一つの契約と言えますが、愛人関係においてお互いの距離を規定するために互いの間に契約書を取り交わすことが大事です。
 ここに示す「愛人契約書」は男と女の異性間の愛人契約について記述しているものであり、同性同士の愛人関係については、想定していませんが、参考にすることはできるでしょう。

2項

 民法90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」とあります。ここでいう法律行為とは、愛人契約における「契約」にあたります。愛人という行為が公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)ないし社会通念に反していると現在の日本社会では考えられていますので、愛人関係に関する契約(法律行為)は、無効とされます。契約違反を元に相手に対して訴訟を起こすことは不可能でしょう。
 なぜ愛人行為が公序良俗に反しているかというと、配偶者のほかに恋愛やセックスの対象を確保するという目的が、一夫一婦制に反しているため、と考えられているからです。一夫一婦制というものは法律上そういう言葉があるわけでなく、法律では重婚を禁止していることによります。[i]
 では、男と女の付き合い方の一つである婚姻関係についてはどうでしょうか[ii]。最高裁昭和44年10月31日判決においては『「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべきであり』とあり、夫婦という男女関係も社会観念、社会通念に照らして存在するものだということがわかります。すなわち、夫婦関係も愛人関係も、その時代時代で変化する「社会通念」というもので変化していくといえます。
 したがって、前文の第2項においては、愛人契約を、移り行くものである公序良俗・社会通念に適合しているかどうかの判断を留保しています。この場合の留保とは、明確に判断をしないという意図をもって結論を出さないということです。
 ただし、人としてもっとも尊重されねばならない人権という視点で互いの人格とその権利行使を愛人行為に優先されるものとして規定しています。

愛人行為

1項

 婚姻(結婚)は、「婚姻とは○○である。」という風に、憲法や法律などに定義されていません。例えば、憲法第24条1項にはいきなり「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」とされていますが、婚姻そのものの定義はしていません。前項に述べたように婚姻も社会通念上のものであり、その定義は時代によって変わっていくものなのでしょう。大島梨沙氏は、厳密な意味で日本における「婚姻」の社会的正統性は、

“「当事者が国家への情報提供に同意した」ということと、「当事者の一方が他方の氏を名乗ることに同意した」ということによってしか正当化できないことになる。”[iii]

「法律上の婚姻」とは何か(4), 大島梨沙,

と述べています。
 愛人契約書では、「愛人行為」を定義しています。「自由意志」「恋愛行為」「金銭譲渡」が3つの要素です。ただし、この3要素は婚姻についても当てはまります。
 「自由意志」は、互いの自由な思いを基にすること。「恋愛行為」とは第2項にあるように好意を表出しながら同時間・同空間を共にすること。この二つは婚姻においても同じ意味を成します。
 「金銭譲渡」については婚姻と愛人とは違いがあります。婚姻関係にある場合にも、金銭譲渡は生じます。専業主婦の場合は夫から妻へ生活費を譲渡しますが、これは愛人契約の場合と同じです。しかし、共働きの場合は夫と妻の収入の差を考えて、一方から他方へ金銭的譲渡がある場合もあるでしょうし、両者の収入が生活費を上回るのであれば、預金といった形で資産として残すこともできます。
 愛人行為においては、男から女に対して「一方的に」金銭譲渡が発生することになります。いずれにしても金銭的非対称性は婚姻・愛人ともに生じるものです。

2項

 愛人行為において大切なのはお互いを大切に思う気持ちです。ほれ合う、と言い換えてもいいでしょう。基本的に愛人行為は男から女へ金銭が流れるというところは非対称な関係です。しかし、互いに互いを思う気持ちがなければ、良好な人間関係は成り立ちません。愛人行為においても相手に対して好意を、本心であれ嘘であれ、表に出して同じ時間・同じ空間を共にして幸せを感じることが重要なことです。これは婚姻関係と同じです。また、愛人行為も婚姻もともに性行為を伴うことも同じです。

手当額

 一般的に契約において、金銭的な項目は一番重要な要素です。
 ここでは、基本契約料として月々の金額、一度会うたびに支払われる金額、一度の性行為ごとに決められた金額を表示しました。そのほかに、契約を締結したときに支払われるもの(賃貸住宅における礼金のようなもの)とか、契約を解除するときに支払うもの(いわゆる手切れ金)といったものを契約条項に入れることも可能で当事者間で検討すべき項目です。

個人情報の表出・取得・秘匿

1項

 愛人行為を続けていく上で、互いを信頼・信用していくことは、他の人付き合いと同様に大切なことです。それは、互いをよく知り合うということとも言えましょう。しかし、愛人契約という行為は、あくまで契約ですから一定の条件下(その一番は手当ですが)の下で行われるものなので、恋愛や婚姻と違って全人格的に互いをさらけ出す必要はありません。愛人行為を続けるにあたって不具合な情報は相手に伝えないほうが良いことさえあるでしょう。したがって、自身の個人情報を相手に伝えることは任意にしています。
 ただし、インターネット時代ですから、仮に相手の本名を知っていれば、ネット検索をすれば、聞かされていない相手の個人情報を手に入れることがあることは避けられません。(自分の本名を相手に伝えるのは十分に気を付けないといけないことです。)また、知ってしまった相手の個人情報を相手に確認しても、本当かどうかを答える義務はないことにしています。これは、上に書いたように行為を続けていくにあたって不都合な情報をお互いに持たないという考え方から来ます。
 たとえ、返事に嘘が含まれていてもそれを相手に問わないという項目も入れました。この項の最初の「互いを信頼・信用していく」とは、愛人契約に限って言えば「相手を疑わない」と言い換えることができるかもしれません。恋愛も婚姻も同じかもしれませんが。

2項

 [前文2項]で、社会通念の移ろいを前提に、この契約書の有効性についての判断を留保していますが、それでも社会通念を前提とした契約である部分は残っています。その社会通念とは、甲(戸籍性が男)が男、乙(戸籍性が女)が女の、それぞれの性別ごとに過去からの社会通念上求められる“性的なふるまい”を前提としていることです。しかしながら、この「性的なふるまい」すなわち性のあり方(セクシャリティ)に多様性を認めていこうとする社会通念が醸成されつつあります。LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダ、クエスチョニング)とか、Aromantic(アロマンティック)・Asexual(アセクシャル)といったものです。
 「そんな性的マイノリティが愛人契約をするわけ、ないじゃないか」と考えたいところですが、そうとも言えないのが、愛人行為における金銭的非対称性から起こることです。女性が金銭的援助を求めて自らのジェンダーを隠して恋愛行為をおこなう、ということは十分考えられます。
 本項は、女性が自分のジェンダーに合わない行為によって障害が発生した場合、相手にその責を問わないということを明示したものです。ただ、これは女性にだけ向けたものではなく、男性も女性のジェンダーについて十分に理解をしましょうという意味合いもあります。そして、セクシャリティの違いを了解した愛人契約というものもアリとして、その際は覚書を交わすように追記しています。
 また、知ってしまった相手の個人情報は(セクシャリティにかかわらず)お互いのほかの人に知らせてはならないことは、言うまでもありません。

行為の制限

 お互いに相手から求められた行為に対して変更・中止を求める権利を認めることは、仮に金銭的非対称があるにしても、互いを尊重して楽しい時間を過ごすために重要なことなので、一項目を立てています。

税制への対応

 愛人行為における手当は所得でしょうか?むろん所得であり、手当は金銭贈与を意味し、贈与税の対象となるのは、言うまでもありません。また、金銭でなく、高額な物品の提供(数百万もする自動車など)も贈与税の対象になります。
 男性が手当相当を自分の経営する会社の経費で落とし、税務監査に指摘され、それをもらった女性が贈与税申告をしていなかったとして、税務署の査察が入る、といったことも、考えられます。
 愛人行為であろうがなかろうが、個人間の金銭贈与には気を付けたいものです。

契約期間・更新

 契約期間の終期を明確にするこは、契約上の義務の存否に関する紛争を防止するとともに、契約期間にピリオドを打つことで愛人関係に区切りがあることをお互いに確認し、付き合いを円滑にすることができます。本文では、1か月毎の自動継続とし、契約最終期日を定めています。契約期間の設定方法は様々ありますので、文献を参照されるとよいでしょう。また、契約最終期日を決めても、新たに新しく同じ人と愛人関係を結ぶことは否定していません。

契約の解除

 「愛人との別れ方」などど、インターネット検索をするとたくさんの方法が出てきます。ポールサイモンの「恋人と別れる50の方法」という有名な歌もあります。別れる段になってハタと気づいて慌てる人も多いようです。「いつでもきれいに分かれるように」愛人契約の解除についてはここで明示しています。
 どんな理由であっても、別れたいという言葉を相手に伝えると同時に、関係は終了する、ということです。また、伝える方法は、直接口に出す、手紙やメッセンジャーやLINEなど文面にして、さらに他人に頼んで(この場合他人に愛人関係を伝えることになりますので、十分に配慮しなければなりませんが)など、限定していません。
 契約の解除にあたって物的・金銭的要求(手切れ金や、渡した金やプレゼントなどの返還)をしない、と本文にはありますが、互いの了解によって、手切れ金や、金品の返還をあらかじめ決めておくことも、契約ですからありえるでしょう。

効力

 愛人契約が互いのどのような契約を制限・束縛するものでないと、最後に確認しています。ただ、不貞行為が「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと[iv]」と判例で示されている以上、法的契約関係でないとはいえ、否、法的契約関係でないからこそ、婚姻関係に対して影響を(それも相当大きな)及ぼすことは互いに認識しておかねばならないでしょう。

愛人契約書については「愛人契約書」をご参照ください。


[i] 第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。[ii] ここでは同性同士の婚姻については述べることを差し控えます。
[iii] 「法律上の婚姻」とは何か(4) : 日仏法の比較研究, 大島梨沙, 北大法学論集, 64(2), 230[199]-180[249], 2013-07-31
[iv] 最高裁第一小法廷昭和48年11月15日[判タ303号141頁]


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