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メイド服のタカミー 第二話

前回のあらすじ
埼玉県秩父郡荒川村、伊弉諾・伊弉諾(イザナギ・イザナミ)の時代から神事を司ってきた
櫻井家の領主・櫻井賢の命令を受け、メイド服に身を包み偵察に向かった髙見澤俊彦は東京駅の通路で壁に吸い込まれるように消えた。

第二話
終始大勢の人々が忙しく通過する通路の壁一枚隔てた裏側は、空気も光も質量も押し潰されたかのような空間だった。
宇宙飛行士が受ける重力のような感覚が髙見澤を襲い、鼻腔は呼吸できなくなり、リボンを結んだ襟元は締め付けられ、アイラインと付け睫で飾られた瞼も眼圧の上昇により固く閉じられ、突き刺さるような強い痺れがメイド服を着た全身を激しく巡った。
両足で立っている感覚は急速に落下し、美しい巻き髪崩れて針金のように逆立った。

遠退いてゆく思考の中で、櫻井、坂﨑と出会ったキャンパスが思い浮かんだ。
櫻井とは顔は見知っていたが、繋ぎ合わせてくれたのは坂﨑だった。領主と部下とはいえ、実質的に三人は意見の相違など無縁の仲のよい友人で、いつも共に歌い、下らない冗談で笑っていた。
「必ず戻るから。コロナから世界を救う手懸かりを掴んで。今年こそ、武道館…で…、歌を…っ……」

ドスン、と鈍い音で頭蓋骨が振動した。その後からじわじわと体が打ち付けられた感覚が追い付いてきて、思わず歯を食い縛った。髙見澤は直ぐに目を開けられなかったが、そこが敵地であることは理解できた。

そして、視力が効かない不安を抑えながら、音速ジェット機と鳥の羽ばたきが一緒になった様な音に気付き、意識を集中した。

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