ニュークリアエアリア5

 次の日、今から2週間も前のことだが、このルーティンが行われるようになってはじめて与高は玄関にコメを迎えに来なかった。コメの足をぬぐうことなく家に入り、リビングにいた与高に向かっていたコメの後姿を見送った。コメをあやしながら、肇には見向きもしなかったが、学校へは行ったようではあった。
 大人として、親として何かを話さなくてはならないと思っているが、肇は何を話していいのか分からなかった。美紀は与高が学校に行かなくなることを不安がってはいるが、もし行かなくなったとしても与高の決定を守ると腹が決まっている。このことについてまだ三紀と話し合えたわけではないが、肇はそういう母親としての揺るがない三紀のことは分かっていた。肇は与高に対して、何をしなければいけないのか、何をすべきなのかがなかった。
「学校に行きたくないなら、行かなければいい」
 肇にとってはそれだけの事であったが、それだけでは大人として親としての与高との関わりがあるとは言えなかった。その言葉の後を続けなかった。


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