ニュークリアエアリア3

 歩いていると気分はましになってくる。冬になろうとする季節、朝6時はもう薄暗い。昨日の夜は雨が降った。夜のうちにたまった温もり。もわっとしたぬるい空気が塊となって、朝が深まるごとにそこらではじける。夜の空気は光と太陽の熱に置き換わっていく。こんな時に死ねたらいいなと考えてみる。去年に看取った父親の死を思ってみる。
 父親が死んだ後に、コメが家に来た。今までになかったルーティンが、はじまった。それまでにあったルーティンが変わったのではなく、学生のとき以来なかったルーティンを経験していた。毎日同じ動きをすると身体のことがわかる。学生時代にはなかった自覚。今日の股関節と膝は思ったより悪くない。
 コメがいつもとは違う道に行きたがっている。一瞬迷って、緩んていたリードが張る。肇は右手の人差し指をくッと手前に曲げて、また記憶に浸るように軌道を修正をした。この散歩には行きと帰りが設定されている。行く道は肇が主導権をもち、帰り道はコメに任せている。ここは往路だ。この3カ月くらいは行く道は同じところを歩いている。帰り道はたびたび変わっていった。

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