ニュークリアエアリア2

 やることが多くなって、急かされる気分になると肇の機嫌は悪くなった。今日は朝から落ち着かない。そういう時は、すぐにでもエアポケットのようなシェルターや何もしない時間に浸りたくなる。
「Do not panic」
 三郎の家の2階の部屋から降りる階段上の壁、ちょうど目線の高さで目立つところに、力ない筆跡で書かれた張り紙があった。今はその階段もなければ、家もない。10年以上前のことで度々思い出すくらいだ。クールダウンでもなく、なんで英語なのか。パニック禁止。本の引用なのかもしれない。でも、肇はその時の三郎が捕えていた世界をよく理解していたつもりであった。分かりすぎて、その張り紙について聞きもしなかった。肇は三郎に話しておけばよかったと、この日は後悔した。


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