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『さよならTSUTAYA西新井店』2.B'z『B'z The Best "Treasure"』

「ピアニスト」(と、それ以外の時間を作れず見れなかったいくつかのdvd)を返却しに、俺が再度、TSUTAYA西新井店に行った頃には、更にTSUTAYAの「死」は顕著に加速していた。

写真を見ればわかるように、レンタル品が在庫処分となり、かなり安い金額で叩き売られている。既にかなりのCDが買われてしまっていた。わずかな焦りが出てしまうと、もう止められないかのように、財布と全く相談せず、目に止まったCDを選別する。下手したら、クオリティの割にBOOKOFFよりも安いのだから。

しかし、こういう叩き売りが待ち受けているのなら教えてほしかったものだ。
既に「ピアニスト」を借りる時、実はすでに叩き売られていたこういった段ボールやカゴをあさっていたのだ。その中に懐かしいものを見つけていた。このB'zのベスト、『B'z The Best "Treasure"』だ。
 B'zのベストとしては第二弾にあたるこのアルバム。ドラムのプロダクションなどを聞けばなんとなくわかるような気がするのが、1990年代のシングルの詰め合わせ。あの「短冊CD」ってやつが異常なほどに売れまくった時代だ。俺は最初のベストよりもこの「銀盤」という方に思い入れがある。
 なぜなら、俺がこのアルバムに触れたのは今から15年以上も前(!)の、高校時代のころ。熊本の私立高校の男子寮生だった俺は、いろいろ紆余曲折ありながらも、しっかりそこで高校生をしていた。男子寮には、オタクもいれば、「ヤンキー」(こいつは一瞬だけ入って一瞬で消えた。大変な奴だった。喧嘩早かったし、ガキの頃から確か外人にフェラチオされていたとか笑って言っていた。)、「チャラ男」、「モテモテの美男子」もいた。バリエーションは豊かだった。不思議と自分は分け隔てなくそいつら全員と会話していたように思う。自分をオタクと自負していながらも、オタクと女神転生のカードゲームをしたり、夜中にヤンキーやチャラい連中と、排水のパイプを伝って「脱寮」し、ゲームセンターやcoco壱のカレーや、唐揚げ屋にいくという、正に悪くてもかわいげのある田舎高校生活だった。やっぱ、街は街であるものの、東京に比べりゃ田舎である。
 そして俺は、そんな男子寮生すべてから等しく、CDを借りていた。CD棚をもっていた一番のCD狂いの男からマリリン・マンソンを、スポーツマンからはasian dub fundationを、オタクからはガンマ・レイに代表されるメタル。モテていた長身の男からはMUROといった日本のヒップホップを、そして日本をパンクを借りた。当時の最先端のストロークスは自分の中ではピンとこなかったことを覚えている。そして、その中に、誰から借りたか忘れてしまったが、
B'zのこのベストがあった。


…こう書いているだけで、まるでこのアルバムの「Pleasure'98 〜人生の快楽〜」の世界のようだな、と笑ってしまう。思い出、というのはある種のドラッグより強烈に作用するのかもしれない。今、このB'zというバンドの価値についていろいろ論じる気はない。もしかしたら誰か(というか俺の好きな音楽評論家)がいうように、エアロスミスの低級なエピゴーネンかもしれない。でも、それさえも時間の積み重ねは無効にする。高校生の俺は、何も聞いてやいなかった。価値の判断基準もなかった。その時の音楽は、すべてが輝いていた。歴史的に見れば、90年代の電波に乗ってやったきたこの日本の音楽は、最もコンパクトディスクという媒体が生産され売買された時代として残るのだろう。多かれ少なかれ、TSUTAYAという存在が、その時代の尻馬に乗っかったことは間違いない。貸しビデオ・CD屋は、今その形態を変え、その役割を、違うメディアに譲ろうとしている。spotify。netfrix。間違いじゃない。それらのすばらしさだって、今まさに俺はかみしめている。

だけれども、そのデータストリーミングの世界において、「在庫処分」、「中古落ち」という現象に値するものは起こるのだろうか?その現象が、tofubeatsのような、hardoffでディグできる素材を使って音楽を作る、新しい才能を生み出した。いや、別に心配などしていない。なんとなく、自分たちの「世代」のようなものが、語れる程度に過去の距離に行ってしまった気がするだけだ。そういえば、tofubeatsが数年前~今のシーンのことを…それが音楽だけの話だったかもっと広かったかは忘れたけれど…彼やtomadが「荒野」と呼称したことを思い出し、このアルバム最後の曲「RUN」でもサビで「荒野」のことが歌われているのに気づく。

<荒野を走れ どこまでも 冗談を飛ばしながらも 歌えるだけ歌おう 見るもの全部 なかなかないよどの瞬間も>
(RUN -1998 style-)

「荒野」がいいことなのか悪いことなのかわからない。俺はなぜか会社の敷地の、工場が以前あった、何も使われてない更地を想起する。でも、別にあの十代の「荒地」ってやつに帰る気もなければそもそも帰れやしない。過去というドラッグにだけは溺れたくはない。

<抱き合った仲間ともいつかは はなれていくかもしれないけど 二度とは戻らない時間を 笑って 歌って ずっと忘れない いつまでもあの恋 なくさない 胸を刺す痛みを 汗かき 息はずませ走る 日々はまだ 今も 続く>
(恋心 KOI-GOKORO)

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