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32歳でラップをやってしまった男の2016年の記録①<そもそもの起こり→社会人ラップ選手権>

俺は、自分が音楽をやる側につくなんて、思ってもみなかったし、

そんなことはするまい、と、芝居をやりだしてからずっと思っていた。

音楽が本当に好きで、そこからの影響を芝居でやってきたつもりで、

音楽をやってしまったら、もう芝居なんかする必要ないじゃん。

そう思っていたのだ。(確か河原雅彦も同じこと言ってた気がする)

大学の終わりごろからDJをやり始める。Qバートや、DJ shintaroみたいに、スクラッチで音楽を作り出すDJではないし、元からビートマニアでDJには憧れていたから、演劇やってる何人かに白い眼をされたが、俺はDJをやり、様々な友人を得て、パーティをやれた。

でも、音楽をかける側になっても「する」側にはならない。そこは固く決めていた。

しかし、今回、「HEIAN MCZ」という芝居をやることに決めた。

平安時代の歌人をラッパーに見立てる、というような無理な話だ。まあ、自分で考えたのだけれど。

それをやるにあたり、俺は「8mile」のような、バトルをよりリアルに体感できる芝居にしたいと思ったし、ちょこちょこラップが出る映画を見た。でも、やはり今、『フリースタイルダンジョン』で話題になっている、今のバトルの現場を見たい、と思い、そこに向かった。取材気分だった。

それで来たのがきっとこの時の戦極のスパーリングだ。MCニガリ、lick-Gといった、動画で見たような面子がそこらへんにいた。そして、何より混んでいた。ドリンクを頼むのも大変だったし、一回り年の離れた人間のクラウドにいるのも少しつらかった。

しかし、一回戦二回戦の戦いをぼーっと見てて思ってしまった。

(これくらいなら、俺でもできないか?)

しかし、まあここまでならきっとたんなる見物客としていなくなっていたんだが、ふと、この会場でたしか、「社会人ラップ選手権」なるものがあることを、スマホかなんかで見たんだと思う。

敷居の低い大会だと思ったし、そんなにうまくない人でも構わない、という触れ込みであった。松島とも、ここらへんの塩梅だろうな、もしかしたら、ここで俺たちの芝居に出てくれそうな人もいるかもしれないぞ、と。

俺は単身この社会人ラップ選手権の予選(オーディション形式だった)に向かった。

だけど、正直、自分の中ではなんか変な気持ちだった。社会人ラップ選手権、単なる社交としていけばいい。しかし、自分は、高校の頃からEMINEMが好きだった。MC漢の最初のフリースタイルの映像には衝撃を受けた。おこがましい気持ちと、オーディション近くの渋谷familyコンビニで楽しそうにラップしているメンツを睨んで思っていた気がする。

「ラップってのは、そんなんじゃねえよ」

浪人時代、完全に暗黒でバイトをしながら家賃1万5000円の小菅のアパートで、狂った隣人の声に呻きながら生きてた2003年ごろ、EMINEMの主演する「8mile」を映画館で見に行き、俺は「lose yourself」のリリックを暗記できるくらいになっていた。あれが自分の中のヒップホップだったし、いわゆるチャラいヒップホップではなく、MSCや降神といった、あの頃の暗いイメージが自分の好きなラップ音楽にはあった。現実じゃないような暗さ。
まあ、そもそも、そこを求める人間もいないが、自分の中の何をラップにレぺゼンさせるかと言ったらそこだ。

オーディションはすぐ終わった。俺はそこで人生初めてのラップをやった。
ここ最近は、すぐ動画にあげられてしまうが、なくて幸いだ。
面白かったのはその後だった。それぞれが、ラッパーでもない、そこらへんにいる社会人たちだった。そして、最初からあまり群れてなかった一人ひとりが、集まって、自然とサイファーが始まったのだ。俺も、(あのコンビニにいたチャラいやつらはいないな…)と確認して混ざっていた。いつの間にか、ラップをやりたい奴らは全員宮下公園に移動し、マイクもビートもないのに延々と、2時間以上もサイファーしていた。これは本当のことだ。

そのあと、みんなで人気のない昼間の居酒屋でビールを飲みながら、オーディション結果を待った。結果は自分は落選。そこにいた半分くらいが、本戦にコマをすすめていたと思う。その中の一人が俺たちの中で後々「ゲスタク」と言われるKAWATAKUで、8080boyに渾身のパンチラインを本戦でぶち込み、決勝までいった。面白いことに、今回の芝居、8日のゲストラッパーがこの第一回大会で優勝したpennyと、彼とベストバウトを繰り広げたCOYASSさん。

そして、何より、最初にサイファーをした人間の中に、芸能活動をやり、役者をやっていた小池こと、MC muhammadもいた。彼は、今回俺の芝居で舞台に立つ。そして、フライヤーにどどんと居を構えている。

間違いなく、今回の芝居の土台は、第一回ラップ選手権にある。

<HEIAN MCZ 予約はこちらから>

http://teiji-zangyo-z.main.jp/heian-mcz/

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