祝辞独白(2024.3.22)

今月はたくさんのうれしいことがあった。
全部残しておきたいけど先に、一昨日あった友達の結婚式のことを日記につけたい。
なんだかぼんやりしてしまってうまく言えないけど、祝辞という形で言葉を残す。
良いことばかりは言えない、気が早いエンドロールに近い、本人には決して届かない。
ひとりで綴る、長いお祝いです。

友人へ

この度はご結婚おめでとうございます。
いやーなんか、なんかめちゃくちゃ驚いた。
驚いたしぼーっとしてるし、でも一番は、うれしい気持ちでいっぱいです。


君とは、古い喫茶店のアルバイト同士として出会いましたね。
私は専門を中退してしまってフリーターで、君は大学生で、年齢はひとつ下だけど随分怖い印象があって苦手でした。
そんなことないって言うかもしれませんが、あの時の君は妙に尖っていて、人間を必要か不必要かで判断するような目をしていました。
私は完全に『不必要』と判断されていて、挨拶はすれどろくに話もしませんでしたね。
私自身もひどい人見知りなのもあって自分から話しかけるようなこともせず、シフトがかぶっている時は淡々と仕事をするだけの間柄でした。


それでも月日が経ち、戦場のような日々を共にこなしていったからなのか、ある日の仕事中の落ち着いた時間、めずらしく君は私に話しかけてくれましたね。
「いつも使っている洗顔料のパッケージを間違えてメイク落としを買ってしまった、使わないのでいらないか」という内容で、思いもよらなかった話の内容に私はウェ…ア…アリガトウゴザイマスみたいな生返事しかできず、あがった後の更衣室で(ちゃんと返事できなかった…)と反省したのを覚えています。
あれから何年も経って、パーフェクトホイップの洗顔とメイク落としのパッケージはだいぶ見分けがつくようになりましたね。
さすがに未だに間違えることがあったら遠慮なしに笑ってやっかんな。


ぽつぽつと話せるようになった頃には適当に時間も経ち、私も喫茶店を辞め、君も就職したと聞き、しばらく交流はありませんでしたね。
どこで再会したかもうはっきり覚えていないけど、ちょうど私たちが働いていた時のバイト同士は仲が良かったのもあって、久しぶりにみんなで集まった時の飲み会だったような気がします。
どうしてだったのか、先に帰る他のみんなをちょこちょこ見送って、私と君と先輩1と先輩2とで遅くまで残って飲んで、それをきっかけに4人で集まることが増えましたね。


定期的に集まるわけでもなし、でも夏と年末と新年にぼんやり連絡を取り合って集まる4人で、会って飲んで話して、たまに終電を逃してカラオケで一晩過ごして「身体が痛ェ」などと言い合う、どこにでもありそうで貴重な時間を過ごしました。
ラインの、グループラインという仕組みができた時、君は4人のグループを作り名前を
『〇〇(自分の苗字)ファンクラブ』
と恥ずかしげもなく付け、訳もわからずあわてて登録した私に
「なんだぁ、お前が俺のファン1号かぁ〜」
などとラインを送ってきて、もう、完全にこのやろうでした。
4人の中で一番年下だからなのか時折発揮する末っ子パワーがすさまじく、誰も何も言わないまま、グループ名は未だにそのままですね。
愛されてる自信ありすぎだろ。


よく笑ってよくしゃべる割に君は自分の話はあまりせず、話をふられても
「いやいや、俺はいいんすよ〜」
といつもさらっと流していましたね。
いつも一緒に飲んでいる先輩1は酔っ払ってしまうと非常に面倒くさく、なぜなのか君は彼女がいるかどうか毎回しつこく聞かれていましたね。
王道のネタみたいなものだったのかな。
その度に「俺よりこいつっすよ、お前どうなんだよ」と私にキラーパスを渡してきたこと、結構根に持っています。


4人でいる時はまだしも、ふたりで話す時は当たり障りのない話ばかりでしたが、数年前に一度だけ、当時君が好きだった方があまり誠実でなく、嫌なふられ方をしてしまった時、どうしてなのか私につらい気持ちを話してくれたことがありましたね。
あの時も4人で飲む約束をしていて、残りのふたりは仕事で遅れるから先にお店に入って待っていようという時でした。
先にお店に入ったし一杯いただいていようか、という時に急に「俺さぁ…」と話してくれたのを覚えています。
好きな人がいたことも知らずうまくいかなかったことも知らず、ただただ話を聞くだけだったけど、適当な付き合いの年数が経っていた中で初めて、君が本音を話してくれた瞬間でした。
その後遅れて先輩たちがやってきた時にはもう「おつかれさまです、何飲みます?」といつも通り笑って話していたけど、もし勘違いでなかったら、当たり障りのない会話を重ねる中でも少し、少し信用してもらってたのかなと思いました。
私の勘違いかな、どうだろう。
本当にしんどくて、誰でもいいから話したかっただけかもしれないし。


それから時間が経って、相変わらず時々4人で会って、どうでもいい話を繰り返し。
本当になんも変わらないような顔をしていながら、8月の終わり。

これよなー

結婚式なんじゃないかってすぐわかったよ。
すぐわかったけど、いや報告義務とか一切ないんだけど、あまりにも途中経過を知らなさすぎて、びっくりした。
自分のことを話さずに突然結果だけ持ち出してくるの、時と場合によってはマッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッジでよくないです。
この場合がいい例。


彼女に、なんだったらもう籍は入れているので奥様に合わせたいと言われ、ちょっとおろおろしながらも9月の半ばに5人でごはんを食べましたね。
私は知らない人が苦手なのでひどく緊張して、いやしかし友達の奥様の前で粗相は…という気持ちによりさらに緊張し、全然目を合わせられませんでした。
奥様は明るく自己紹介をしてくれたのに下を向いたままぼそぼそしゃべることしかできない自分が居た堪れず、普段飲まないビールと八海山をめちゃくちゃに飲んで『神』になってしまった私は、君のことをまぁまぁ責め立てたそうですね。
そうですね、という言い方をしているのはあとから先輩に聞いた話だからです。
結婚は本当におめでたい、しかしなぜ経過を隠す、こっちが今回どれだけ緊張しているかわかるかいいかげんにしろ、彼女の時から紹介してほしい、結婚式の場所ってどこ?などと好き放題言ったそうですが、全然覚えてなくてごめん…
やたら話すか黙るかの激二択コミュニケーションしか取れなくて本当にごめん…


奥様はかわいくて、頭の回転が早い方だと思いました。
話をきちんと聞いて、物怖じせずはっきり話せる素敵な方ですね。
読書が好きと聞いて、おすすめの本として教えてもらった飛鳥井千砂さんの『タイニー・タイニー・ハッピー』、すぐに買ってなんの気なしに読んだけど、あとあと知ったこととしてはこの本は奥様がとても好きで、ぼろぼろになっても大切にしている本だということ。
自分にとってそんなに大切にしている本を、初対面の人間におすすめしてくれるということが、もう彼女の人間性を物語っているような気がしました。
信頼に値する、素晴らしい方です。


そこからの半年はあっという間にすぎて、気づけば結婚式の日になっていましたね。
慣れないヒールとちょっときついワンピースと共に初めて新郎側友人として参列することとなり、私はひどく緊張していました。
受付でご祝儀をお渡しした時
「新郎様よりご参列の皆様にお手紙がございます」
といただいた手紙には『〇〇ファンクラブ 会員No.1』と宛名が記載されており、ちょっと力が抜けました。
降格したい。


挙式は、慎ましやかで形式ばったところがなく、本当に美しい時間でした。
お互いがお互いに宛てたお手紙が、本当によかった。
君がお手紙を読んでいる時、君を見つめる奥様のお顔が本当に綺麗で、見惚れるほどでした。
私は未だに愛とはなんぞとわからないままでいますが、ふたりが愛し合っていることはわかりました。
言葉にするのは恥ずかしいですね。
しかしそれ以外に形容できない、ふたりの間には愛以外ないと確信しています。


私は、私たちは、君が結婚するとは思っていませんでした。
なので連絡がきた時本当に驚いたのです。
それは私たちが知っている君が、家族や家庭というものにどちらかといえばいいイメージがなく、長年のひとり暮らしで生活スタイルへのこだわりも強く、あまり人に縛られるのを良しとしない性格だからです。
それは挙式の時の奥様へのお手紙の中で、自分でも言っていましたよね。
でも
「僕は、君といるためならこの生活を変えてもいいと思ったのです」
という言葉の中にすべてが詰まっている気がしました。


挙式の後のパーティー会場で、新郎新婦それぞれが今回のゲストを紹介してくれる時間に、君は私たちのことを
「昔のバイト先でお世話になった…なんていうか、仲間です」
と紹介してくれましたね。
面倒くさい先輩1と、どちらかといえば口数の少ない先輩2と、どうしようもない私の3人は生ぬるい顔をして頭を下げるしかできなかったけど、バイトの先輩後輩ではなく、仲間と形容してもらったことは照れくさいながらもうれしいことでした。
私に至っては『不必要』のカテゴリィから仲間になれたのだから大出世です。
いつだって一緒にいたわけではないし、胸の内をなんでも話し合った仲というわけでもない。
それでも、私たち4人なりの関係性は積み重なって、自分では気づかない間に仲間と呼んでいただけるまでになったのですね。


たくさんの方々がふたりを祝福する素晴らしい式でした。
いい式でしたね。
私たちは、私は呼んでいただけて光栄でした。


受付でもらった手紙に
『ファンクラブは脱会不可だからな!これからも変わらずみんなで飲もうな!』
と書いてくれていましたが、申し訳ない。
私はそれは難しいことだと思っています。
君が素晴らしい奥様と出会って生活を変えたように、今後の私たちも変わっていくのは当然だと思うからです。
でもそれは決して悪いことではないよね。

もう今までのように4人で会えないかもしれない。
でも今の君が『変わらず会おう』と言ってくれた現実がある。
また会えないかもしれないことと、変わらず会おうと言ってくれたことがうれしい、ということは同時進行なので、どっちがどうというわけでもないのです。


ファンクラブは5人になって、この先6人になったり4人になったり3人になったり、もしくは10人!みたいにもっと増えたりするかもしれないから、そんなに暗い未来ばっかりでもない。
でもできたら、今世が無理なら天国で(っていうと大袈裟かもしれないけど)
また4人で会いましょう。
どうかわかってもらいたいのですが、これは決して、君の素晴らしいパートナーを嫌がっているというわけではないのです。
ないのですけれども。
変わっていく日々の中を、少しだけ戻りましょう。


門出に立ち会えて、本当に光栄でした。
どうか、どうかふたりがしあわせでありますように。
仲間のしあわせを願えること、とても幸福に思っています。
尽きぬ感謝と共に。


2024.3.20    ニコより





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