【芸人辞める確率日記③】7年間のレギュラー番組を終えて
7年間ほぼ毎週やってきたネットのゲーム番組を降りることになった。
最後の出演を終えるまでnoteの更新を控えていた。控えたというより書いては消してどう書こうか迷っていたという方が相応しいかもしれない。
とりあえず最後は納得のいく終わり方が出来て本当に良かった。
終わってみての感想は自分だけじゃ続ける事は出来なかったしいろいろな人の助けがあったなと思える。
初めて番組に出た時は〝コメントを読む〟という事がわからなかった。
ネットの生放送番組と言えばコメントが流れそのコメントを読み上げたり質問に答えたりリアルタイムで視聴者とやり取りするのが特徴的だ。
しかし当時の僕はまったくネット番組なる物を見てこなかったのでそのシステムをわかっていなかった。
記念すべき第一回放送ではコメントがたくさん流れた。
「だれこいつら?」
「芸人?見たことない」
「はやくゲームやって」
「雑談いらねぇ」
ほとんどこんなコメントだったと記憶している。
まあこれはほとんどのネット番組で必ずと言っていいほど言われる売れてない芸人へのコメントで、ある種お決まりの流れである。
まずはこのコメントへの対応で芸人の実力が試されると言ってもいいだろう。
当時の僕はコメントへの返しどころかコメントを口に出して読んでいいのかもわかっていなかった。
ただただ画面に流れるコメントに目を向け辛辣なコメントを目にしても何事もなかったかのように振る舞う事しか出来なかった。
そんな時間がしばらく続くと当然こんなコメントで埋め尽くされた。
「コメント読めよ」
「なんで読まねーんだよ」
「都合の悪いことはスルーしてますw」
当然コメントは読んでいる。が、読み上げていいとも知らない僕は頭の中で
『ずっと読んでるよ!どうしてほしいの!』
と心の叫びを上げていた。
台本にある事しか喋っていけないと思っていた僕は台本にあった2、3行のみのセリフを口に出しその日の収録を終えた。
正に出演者としてレベル1での始まりだった。
しかしそんな使えない激弱芸人にもありがたい事に第二回放送のお声がかかった。
僕は前回の経験で〝コメントを口に出して読んでいい〟という事を知った。そう経験値を得てレベルが上がったのだ。
二回目の放送を前に僕は自信に満ち溢れていた。
「コメント読めば余裕っしょ」
そう思って二回目の放送に臨んだ。
二回目の放送ではまずこんなコメントが流れた。
「またコイツらかよ」
「もういいよお前ら」
「はやくゲームやれよ」
まあ当たり前だろう。コメントスルーの置物を誰が快く受け入れるだろうか。
しかし僕は心の中で不敵な笑みを浮かべていた。
『きたきた。まあ読み上げるから待ってなさいよ』
前回持ち合わせていなかった〝コメントを読む〟という強力な武器を手に入れた気になっていた僕は自信満々にコメントを口に出して読んだ。
「もういいよお前ら」と読み上げ自身で笑った。
「またコイツらかよ」と読み上げ自身で笑った。
何も大した返しはしてない。けどそれで良かったのだ。流れが好転するのが見えた。
〝こいつらコメント読めるじゃん〟
というネット番組原始時代かと思うようなレベルの低いハードルを超えた事で視聴者が我々を認めつつあった。
しかしそうなると次なる試練がやってきた。
レベル2の強敵〝質問〟だ。
コメント読んでくれるならと質問を大量に投げかけてきた。
「ゲームはいつからやってる?」
「いまレベルは?」
「好きなキャラは?」
当然ゲームは少し触った程度だ。しかしゲームを全然知らない事がバレるとどんな目に合うかわからない。迂闊にこの質問は答えられないぞとまたもや質問をスルーしてしまった。当然またコメントがイナゴの大群のように押し寄せてくる。
「おい答えろよ」
「ゲームやってねぇだろ」
「都合の悪いことは無視しますw」
痛烈なコメントで画面は埋まった。
イナゴに襲われたエジプトの民の気持ちが少しわかった気がした。
初期の方は毎度毎度の放送回が試練だった。機材トラブルがあり音声のみで30分つなぐという回もあった。
カンペを読まなすぎてバンバンスケッチブックを叩かれてその音が放送に入るなんて事もあった。
ゲームにとても似ている。小さい試練を一個づつクリアしてレベルを上げていった感覚だ。
少しづつレベルを上げて1人でも番組進行を出来るようになり、飛び抜けた面白さこそないものの安定して配信を出来るようにはなっていった。
そして最後の出演は全部が試される日になったと思う。
過去にテンションが最初の30分しか持たない事は何度もあった。機材トラブルで焦る姿も見せまくってきた。ゲームに集中して黙ってしまう事もあった。
実際にラストの放送では軽い機材トラブルも起きた。
しかしそれらの課題を全部クリアし最後の放送を約2時間一人でやり切る事が出来た。
もちろん完璧な出来とは言わない。セリフを噛んだり台本をガッツリ読んで下を向いたりしていたが初めて出演した時の自分と比べたら比にならないくらいの成長だったと思う。
ただこれは自分だけの力じゃない。レベルがめちゃくちゃ低くても根気よく使ってくれたアソビモさんやどうにか面白くなるよう企画や台本を練ってくれたスタッフさんの力があってこそだ。
ここも担当していたゲームに似ている。
僕が矢面に立ち敵に向かうアタッカーだとしたらそれを支える回復役がいたり魔法使いがいたりと協力して敵に立ち向かうのだ。
スタッフさんの支えが相当大きかった。
台本はいわば作戦だろう。そして僕の場合スベって空気をぶち壊すなんて事も多々あった。するとスタッフさんは映像技術という名の魔法を駆使し僕を画面から消してくれたりもした。強力な魔法で音声を変換したり星にしてくれた事もあった。
辞める事が決まりここまで続けてこれたのは何だったんだろう?と思い返してみるとスタッフさんの力が相当大きかった事に気づいた。
それともちろん視聴者さんだ。素人同然の振る舞いの出演者だったが当時から見続けてくれた人もいる。見る人ががいなくなれば当然番組も続かない。
今回自分にとって大きな仕事の終わりを迎える事で自分の力だけでここまでやって来るのは不可能だったという事への気づきが大きかった。
バイトにしても私生活にしてもそうなのだろう。成果に対してなんらかの誰かのサポートは必ずあると思う。
今後それを念頭にいろいろな事に挑戦していきたいと思う。
現時点で芸人を辞める確率....1%
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