金融=営業、なのか

就活生に話を聞くと、度々このような言葉を耳にします。
「金融は営業職しかない」

私は現在金融畑の人間ではないのですが、そんな私でもこれらの言葉を聞いたことはあります。

結論から言うと、そうではないというのが結論です。
特に就活生時代に業界研究を割と本気でやっていた私は、金融業界も当然視野に入れていました。
ですが結局、金融系の会社で頂いた内定は全て営業以外の職種でした。個人的に、金融=営業というイメージはやや極端な気がしますね。

では、どんな職種があるのか。この記事を通じて金融業界志望の方々が最低限押さえておきたい知識と、具体的な職種のイメージを掴んでください。


金融における「市場」

よく「株式市場」という言葉を耳にしますね。この「市場」というものは、金融の世界では大きく2つに分類されます。

まず、プライマリー市場。これは新しく発行される株式や債券などが、公開市場へ流されるまでの間を指します。例えばスタートアップ企業がIPO(株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすること)をする際や、大企業が新たに株式を発行する際はこのプライマリー市場に属することになるわけです。

次に、セカンダリー市場。これは既に発行されている株式を、不特定多数の投資家間で売買されている状態を指します。私達が想像する「株取引」は、多くの場合このセカンダリー市場での取引を指すことが多いです。

一般的な金融商品の営業は、既に発行されている株式や債券をやりとりすることが殆どです。これらの金融商品は概ね利率が何%で、購入時手数料が何%、といった条件があらかじめ決まっています。この部分を指して、大抵の人は「金融の仕事=営業」というイメージを持っていると考えられます。

表に出てこないプライマリー市場

さて、この話を踏まえて金融業界の職種をざっくり見ていきたいと思います。

プライマリー市場に関わる仕事は「投資銀行」「金融商品開発」「リサーチ」の3つが代表的です。
投資銀行、外銀や大手証券会社では一般的にIBD(Investment Banking Division)とも呼ばれます。これは主に企業の資金調達やM&Aのサポートを行う部署です。
ここで言う資金調達とは、主に社債や株式を発行することで投資家にそれらを買ってもらい、キャッシュ(現金)を調達することを指します。株式を購入した場合は返済をする必要がありませんが、社債は債券なので返済義務があります。こういった特性を組み合わせたり、企業の経営状態を加味してどのような資金調達方法が最適化を判断するわけですね。
また近年はM&Aの活発化から、M&Aに関する業務がIBDでのトレンドになってきています(実際私が就活した際は、「M&Aがやりたい」という志望動機を持つ学生が多かった印象です)。例えばピッチブックと呼ばれる資料を用いて業界の傾向や競合他社の動向などをレポートしたり、実際にM&Aの執行を手伝ったりします。
IBDはこのピッチブック作成がとにかく大変だそうで、夜遅くまで仕事をすることが殆どだそうです。まぁ確かに一回のM&Aや資金調達で最低でも数億から数十億は動くわけですから、致し方ないとも言えますが。
そういうこともあり、IBDの部署は年収が高い傾向にあります。特に外銀なら20代で1000万円なんてザラにいますし、内資でも殆どの場合1000万円を超えます。
その分IBD部門はどの会社でも超人気・超難関です。内資は一応新卒一括採用をしていることが殆どですし、インターンも年に数回行われています。しかし外銀は基本的にデスク採用(部署の人員に空きがいたら採用活動をする)というスタンスの会社も少なくないそうで、かつ英語面接やケース面接といった独自の面接を行う傾向にあります。

次に金融商品開発、これも一般的にはストラクチャリングと呼ばれます。これは字の如く、金融商品の開発を担当する部署になります。
金融商品は大きく「株」「債券」の2種類に分かれますが、実際はこの2つの下に更なる分岐があります。例えば……
   株⇨普通株式・優先株式・劣後株式
   債券⇨普通社債・優先社債・劣後社債・国債・仕組債・外債
など、一口に株と言ってもその種類や性質は様々です。さらにはこの株や債券は為替や金利と同様に「原資産」というジャンルに内包されるのですが、この原資産を組み合わせて作成する「デリバティブ」という金融商品があったりします。
簡単に言うと、「お菓子Aとお菓子Bをそれぞれ販売するのとは別に、それらを纏めた『パーティー用セット』を作る」みたいなことでしょうか。
ストラクチャリングの部署では主に、このような金融商品の開発を行っています。A社に売る金融商品のセット、すなわち「A社専用パッケージ」を作るイメージですね。
ちなみに余談ですが、ストラクチャリングは現在AIの活用も視野に入れられている部署として有名です。簡単に言えば過去の事例をAIに学習させることで、最適な金融商品の組成に生かすわけですね。

そして最後にリサーチ。こちらは単にリサーチと呼ばれることが殆どです。企業の経営状況や市場全体の動向など、金融市場に関する様々な情報を取り扱っています。

以外と知らないセカンダリー市場

次にセカンダリー市場に属する部署ですが、これは大きく「マーケッツ部門」と「営業部門」が所属していると考えて良いでしょう。

まず「マーケッツ部門」、時々GMと略されることもありますね。ここでは基本的に会社の資金を用いて株・債券の取引を行ったり、機関投資家(企業や富裕層)に対して金融商品のセールスをしています。
このマーケッツ部門の職種がやや複雑で、大きく「セールス」「トレーダー」「セールストレーダー」という3つに分類されると思ってください(名称は企業によって異なります)
まずセールスですが、これは先程申し上げたように機関投資家に対して直接営業をし、金融商品を購入してもらう仕事となります。営業という仕事内容だけを切り取れば「営業部門」と同じように見えますが、実態はかなり違います。GMに所属するセールスは基本的に個々人で顧客のポートフォリオ(資産の配分表)をある程度握っており、それに合わせて営業を行っています。
次にトレーダーですが、これはイメージしやすいですね。会社の資金を用いて実際にトレーディングを行う職種です。1ロット数億円の取引を個人で行うため、損益に対する感度が人一倍重要なポジションでもあります。またセールスが獲得してきた売買案件を実際に執行するのもトレーダーの役割です。この点が重要で、セールスは顧客と交渉して購入金額を確定し、トレーダーにそれを伝えます。するとトレーダーにとっては、いかにこの購入金額よりも安く金融商品を市場から仕入れるかが鍵になります。
やや難しいかもしれないので、具体例を出してみます。セールスのAは顧客Bとの交渉で、X社の株を一株10万円で購入する契約を取り付けました。そしてAはそれをトレーダーのCに伝え、CはX社の株を一株8万円で購入できたとします。すると一株あたり2万円がCの生み出した利益になり、8万円がAの生み出した利益になる、という仕組みです。
このように、セールスとトレーダーの業務は密接に関わっています。そのため会社によってはトレーダーという職種を細分化し、企業の資金を用いて取引をする側を「トレーダー」、セールスの獲得した案件を執行する側を「セールストレーダー」ということもあるそうです。
またGMはトレーダー・セールスという2軸に加えて、「株or債券」「国内or海外」という分類が為されます。そのため一口にトレーダーと言っても「国内株式トレーダー」「外国株式トレーダー」「国内債券トレーダー」「海外債券トレーダー」という4種類が存在することになりますので、ご注意ください。
なお余談ですが、基本的にGMの社員の方々はチームごとにどの業界の債券・株式を取り扱うか決まっています。また外債と内債ではさらに特徴が異なりますので、しっかり研究しましょう。

そして最後に営業部門。こちらは単に営業部と呼ばれることが多いですが、これも「リテール営業」と「ホールセール」に分けられることが殆どです。
リテール営業はその名の通り、一般人に対して金融商品の営業をします。一方でホールセールは企業や法人に対して金融商品を営業します。1ロットあたりの取引額はGMのセールス部門にやや劣りますが、それでも数百万〜数千万レベルの取引が日常的に行われています。
ちなみに会社によっては対企業の部署であるIBD・GMをまとめてホールセールと呼ぶところもありますが、私が調べたところ「ホールセール」は企業や法人に対して金融商品を営業する仕事を指すことが多いようです。

まとめ

ということで、金融業界(特に証券会社)の仕事は営業以外の方が多かったりします。正確にはクオンツと呼ばれる市場分析部門があったり、近年はエンジニアリングをトレーディングに活用するトレンドがあることからエンジニア部隊を抱えることもありますが、基本的に金融業界の仕事は上記のものに大別されます。
金融業界志望者はぜひ、業界研究の一助にしてください。

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