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卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう

(※以下の文中、敬称略で失礼します)

2023年12月30日、自分が茜空にかけた最後の言葉は、
「楽しかったね、今日は楽しくできた?」
だった。
数秒後、間髪入れずに返ってきた言葉は、
「楽しかったよ。だからさ、今日は私泣いてないでしょ? そういうことだから!」
だった。

立ち位置に貼られた右足/左足のマークを後ろにして、背中にいつもと変わらない笑顔を感じながら、テーブルの上に置いたダウンジャケットを乱雑に取り上げて…ふと目をあげると、川瀬あやめと最後の言葉をかわそうと長蛇の列をなす、ukkaファンの姿が飛び込んできた。

2023年9月26日 18時ちょうど。
あまりにも突然、その発表がアナウンスされた。

卒業? そんな予兆など微塵にも感じられなかった中での発表だった。
信じたくないこと・認めたくないことが目の前に突きつけられたとき、なんとか自分を納得させられる理由を探す。
「なぜ?どうして?ホント?」
リンク先のアナウンス画面をスクロールしていくと、その後半に冷酷な答えはあった。

活動していく中でukkaとして私が出来ることはもうないと思い

2023/9/26 川瀬あやめ卒業のお知らせ - ukka オフィシャルサイト


この日からさかのぼること3週間ほど前。
茜空は、毎日続けていたブログとtiktokの更新をいったんストップすることをブログで明かした。

ただ、「終わり」ではなく「続けるため」のお休みです。

このメッセージとともに、一遍の動画をtikTokとインスタにあげた茜空。
それが自分のすべての意思といわんばかりに。
そして、茜空は沈黙に入った。

後に川瀬あやめ配信で明かされた話によると、卒業をメンバーに伝えたのは、夏が本格化する前(7月の沖縄遠征よりも前)だったという。
2023年前半は、ライブ現場が、コロナ禍よりも前のレギュレーションに徐々に戻っていった期間だった。
2月のO-West。fishbowl、タイトル未定の3マンで、久しぶりに客席からの声出しを真正面に浴びた川瀬あやめは、その後長い間、その様子が収められた動画を固定ツイートにしていた。

「ちょっとずつ戻ってきてるね」
春ツアー、新譜発売、フェス対バン、そして沖縄。近いうちにまた、あの頃と同じ熱量に戻るんじゃないかという期待とともに、目一杯に駆け抜けていった季節は、気がついたら秋から冬に近づいていた。
あれは全て、終わりの始まりだったのか。

そして、どこかヒリヒリした気持ちを抱えた3ヶ月が始まった。

9月30日、川瀬あやめ卒業発表から数日を経ての、ワンマンライブ。
12月のフルアルバムリリースと、それなりの数のリリイベが発表された。
アイドルを辞めていく間に、それなりの期間と、ファンと会う機会が多く用意されているというのは、恵まれていることだ。
多くのアイドルが、唐突な幕引きでステージを去っていく中で。

10月に入っても、茜空が文字でなにかを表現する機会は少ないままだった。
何かが変わっていく、目の前から何かが消えていく、そのことについて認めたくない気持ちは、いつしか、考えたくないという心理にたどり着く。
いつ以来だろうか? 何か文字にしたいという衝動を、たとえばブログやインスタの行間に、パフォーマンスのあそびの隙間になんとか見出そうとする試みは自分もしばらくはやめようと思った。

10月14日、キネマ倶楽部のワンマンライブで、新メンバーとして、スタプラ研究生から中学生ふたりが、11月から加入することが発表された。
このライブの前日、不摂生がたたって高熱にぶっ倒れた自分は、ここに立ち合ってはいない。
その時の写真を見る限り、紹介されたふたり(宮沢友・坂井小春<若菜こはる>)の立ち姿は、まったく緊張していないようにも、まだまだ所在なげなようにも見えた。
スマホ画面の先に、少しだけ、終わりの先が見えた気がした。

10月25日、川瀬あやめは23歳の誕生日をむかえた。
茜空は、インスタストーリーで、川瀬あやめとの2人の写真を掲載した。
その写真には、タグ付けも、綺麗にかざった言葉もなかった。
ただ「Happy Birthday」の文字だけがあった。

10月終わり、渋谷でのトークイベントに茜空が出演した。
グループを離れたソロ仕事で、観客として茜空を見るのは久しぶりだな。
そして「いま」「そこに」茜空がいる実感を感じたのも、思いのほか久しぶりな気もしていた。
そして、こんなブログを文字にしてみた…けれど、いま読み返すと、暗中模索で、帰着点を見失っている文章にも見える。
https://note.com/noueebcswitched/n/n52e4c1facd45

10月最後の日曜日、スタプラフェスが横浜アリーナで大々的に開催された。オープニングアクトで、スタプラ研究生がステージに立った。
大人数ゆえ、遠目では誰が誰だかわかんない、
元B.O.L.Tの2人くらいが見分けがつく中で、なんか手足の長いオーラの強い子が目についた。
宮沢友だった。
青山菜花に向けてペンラを振っている横の友人につぶやく。
「来年は、宮沢友の時代ですよ」
友人は期待どおりの、(またかよ)呆れた顔でこちらを振り向く。
終わりの先じゃなくて、違う物語がそこにはある気がした。

この日、ukkaは、12月に発売されるフルアルバムから「Rising Dream」を初披露した。
広い横アリのサブステージで、強い照明を受けた6人のシルエット。
茜空は、インスタの「歌って踊って駆け回って楽しかったです」というシンプルなメッセージとともに、ももクロのメンバーを含む、別グループの多くのアイドルとの写真をあげていた。

11月に入り、ukka現場では、川瀬あやめ「卒業」カウントダウンモードがより一層強くなってきた気がした。

11月4日、村星りじゅ、川瀬あやめの生誕ソロライブが行われた。
村星りじゅのパフォーマンスの”芯の強さ”、川瀬あやめの愛のこもった”これまでを総ざらえする”、それぞれの単独ソロライブは、個のつよさを改めて感じさせるものだった。
8年半、ただただ鍛錬を積んできた演者のつよさを感じさせるものだった。
「ここまで、やるべきことをやってきたんだよな」改めてそうも思った。

秋も深まり、季節外れの真夏日のなか、フルアルバムの中身が徐々に明らかになっていった。
冬至に近づくなか、リリイベの数を重ねれば重ねるほど、日没の時刻が徐々に早くなっていることを身をもって実感する。
一曲一曲がリリイベやライブで初披露されるたび、カードが一枚一枚めくられていく感覚とともに、残ったカードが少なくなっていることを感じる。「あと何曲だろう」考えたところで、時が待ってくれるわけじゃない。

いつしか、茜空はステージ上のMCで、多くを語らないようになっていた。やわらかな眼差しで、ときに芹澤もあの失敗談に笑みを浮かべ、ときに葵るりの出トチリ上等のトークを受け流し、ときに村星りじゅとアイコンタクトをかわすけれど、ステージ上で、自分から話をふくらませることは少なくなっていた。

11月5日、大宮でのリリイベ特典会は、(自問自答《お悩み》に対する一言動画)というレギュレーションだった。「終わりゆくものに、どうやって別れを告げるのかずっと自問自答しています」というお題をぶつけてみた。

満面の笑みで、言葉ひとつひとつを慎重に選びながら話す、画面の中の茜空。
”今”しかない、”今のわたし”から目を離すな、と何度も繰り返し伝えてきた茜空に、近づこうとすればするほど、風に書いてきたつもりの文字が雲散していく。

12月に入った。
ただでさえ、身の回りも慌ただしく過ぎ去っていくなか、否応にも「今月末」のXデーが頭の片隅に常にある。

2020年12月、桜井美里が卒業を発表した。
あの1ヶ月間、知り合ったばかりの仲間から、桜エビ~ずの歴史やエピソード、そんな過去を聞いてまわった。
そこには懐かしむ話もあれば、やらかしちゃった話もあった。
それはそれで楽しかったけれども、過去をそれほど知らなかった自分には、そこに答えがないということがわかっただけだった。

あの時からでも、もう3年が経っている。

12月8日、川瀬あやめのラストソロライブ。
いま振り返ると、アイドルとしての集大成はこの日のステージが全てだったように思う。
客入SE『Never Forget』で流れてきた懐かしい福田明日香の声。 『バラライカ』で思い出した久住小春。 そして、ソロで披露されたukkaの最新曲『カノープス』 いま見ているものが、アイドルの系譜のど真ん中で進化を続けていることを確認できた夜だった。
ステージでアイドルを全うしていく姿を見送れることの幸せと、見送るしかないっていう悔しさと。 やっぱりずっと「ukkaとして私ができることはない」という一言が脳内には引っかかったままだった。
『初恋サイダー』で幕をあけた”絶対的アイドル”の姿は、SHISHAMO『明日も』で、等身大の女性に来月から戻っていく様子にも見えた。

そうしているうちにも時は進んでいく。
刻一刻とラストワンマンが迫るなか、リリイベもいよいよ残りわずか何日となった。
12月23日、渋谷タワレコCup Studioのリリイベ。
CD発売後のここが、『つなぐ』と『スーパーガール★センセーション」のライブ初披露となった。
『つなぐ』は、川瀬あやめの卒業を意識して作られた楽曲だった。
この日と翌12月24日のお台場リリイベ。2日間で披露された『つなぐ』は、ただただ別れゆく仲間たちへの悲しみにあふれていた。

12月30日、有楽町ヒューリックホール。
6人体制の最後を見守っていたのは、ホールを埋め尽くしたファンと、水春・桜井美里を含む関係者だった。
それは、本当に見事な幕引きだった。
この日だけのために、川瀬あやめがデザインした衣装を着て、この場所に全ての過去を置き去りにしていく、そんなライブのような気がした。
かつて水春が、6人だったukkaのために振付をつけた『時間。光り輝く螺旋の球。』

客席で、かつてとは少しだけ色合いが異なる長針短針が、6人で時を進め続けているのを、水春が初めて客席から見ていた。
いまの6人でないとたどり着けない、代替可能性がつけこむスキなどない、そして二度と戻れないライブ。
そして、自分の中で桜エビ〜ずというグループは終わりを告げた。

1月24日、新体制お披露目ライブから数日をおいて、4ヶ月ぶりに更新された茜空のブログは、下記の文章で始まっていた。

2023.12.30
ukkaの一つの物語が終わりました。

そして2024.1.21
新たなukkaのページがめくられました。

1月21日、恵比寿リキッドルーム。
overture "we are…"で2人の新メンバーを迎え入れた新体制7人のukkaは、『つなぐ』からこのライブを始めた。

イントロのリズムに力強く重なるバスドラムのもと、薄暗く照らされた照明のもと、円形の7人がゆっくり歩きながら交差していく。
ゼロの位置からフロアをまっすぐに見つめて、歌い始めたのは、結城りなだった。

いつもの朝でも なぜかドキドキした

ukka『つなぐ』

若干、緊張した面持ちで、フレーズを歌いきった瞬間、6人の『つなぐ』がゆっくりと確実に、7人に受け継がれていった。

君に会えてよかった
そろそろ手を離すよ

ukka『つなぐ』

12/30、6人が3組に分かれて、向かい合って手を交差させる振付は、1/21には7人が真正面の客席に向かって手を伸ばす振付にかわっていた。
渋谷タワレコCutUpで、川瀬あやめと向かい合いながら、涙で声を詰まらせた村星りじゅは、ほんの少しの微笑みをたたえながら、まっすぐに客席の最後方を見つめていた。

だけど(だけど)
さよなら(さよなら)

12/24のお台場リリイベで、川瀬あやめに向かって顔をくしゃくしゃにしながら「さよなら」と歌った葵るりは、1/21満面の笑みで若菜こはると相対して「さよなら」を言い切った。

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めんどくさいことを言うんだとしたら、2024年1月21日、7人のukkaが『つなぐ』を歌い終えたときに、ひとつの物語が終わったんだと思う。
そんなもん、どっちでもええやん?
そう、どっちでもいい。

でもね素敵な過去があるから進める今があります。
今を見るか見ないか、皆さんが選んでいいんです
私はいつでも今が素敵なんだってここで証明して待っています。

2024年1月24日 「茜空」

今を見続けること、今を選んだこと。
いつしか、また雄弁に文字で挑発してくるようになった茜空がそんな風に言うんなら仕方ない。

まだ見えてない景色
何度だって見に行こうよ

ukka『Overnight Rainbow』

2024年2月16日現在。
いまのukkaには、未来と希望しかない。
心からそう思う。

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