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棚田オーナー制度とweb3の融合が拓く、新たな農業の可能性

先日、新潟県上越市へ訪問してきました。

そこで、「みんなで持つ田んぼプロジェクト」として、web3や新技術を掛け合わせた棚田オーナー制度の実現可能性について考える機会がありました。今回は、既存の棚田オーナー制度の事例を調査した結果をもとに、その可能性について紹介していきます。


棚田オーナー制度とは?

棚田オーナー制度とは、田んぼのオーナー権を購入する仕組みのことです。基本的には年会費を支払い、1口あたりの金額に応じて、体験する権利やそこで収穫されたお米を受け取る特典が得られます。この制度を通じて、棚田を皆で守り、年間を通して運営していくことができるのです。

既存の棚田オーナー制度の中から、3つの軸で参考事例を紹介していきます。

事例1:高単価モデル - 静岡県浜松市の取り組み

静岡県浜松市では、「久留米木の棚田」プロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、年会費5,000円を支払うことでサポーターになることができ、50組限定で募集しています。サポーターになると、以下の特典が得られます。

  • 棚田米2kgの提供

  • 年2回の会報誌の送付

このプロジェクトの特徴は、高単価な価格設定にあります。他のプロジェクトではキロ単価が500円から1,000円程度なのに対し、久留米木の棚田では5,000円で2kgの米が提供されるため、キロ単価は2,500円となります。この価格設定は、他には見られない高単価モデルとして参考になるでしょう。

事例2:企業版オーナー権 - 新潟県見附市の取り組み

新潟県見附市では、「明晶棚田プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトの特徴は、企業版オーナー権を設けている点です。企業版オーナー権は1口25万円と高価格ですが、480kgのお米が提供されるため、キロ単価は約500円となります。
また、個人オーナー権も設定されており、1口26,000円で60kgのお米が提供されます。オーナーは年間を通してイベントに参加することができ、5月上旬の田植え祭りでは田植え体験を、11月の大収穫祭では収穫体験を楽しむことができます。

事例3:雪室貯蔵による差別化 - 上越市の取り組み

上越市の「細野村の棚田」プロジェクトでは、3万円の価格設定で60kgの玄米が提供されます。これは他の棚田オーナー制度と比較しても、キロ単価500円と標準的な価格設定ですが、雪室貯蔵による差別化が特徴的です。雪室に貯蔵することで、米の品質を高め、付加価値をつけることができます。この取り組みは、上越市ならではの特色を活かしたものであり、他の地域でも参考になるでしょう。

web3技術との融合が拓く新たな可能性

これらの事例を踏まえ、web3技術を掛け合わせることで、棚田オーナー制度にどのような新たな可能性が生まれるでしょうか。

1. NFTによるオーナー権の証明

NFT(非代替性トークン)を活用し、各オーナーに固有のトークンを発行することで、オーナー権の証明とすることができます。例えば、1反の田んぼに対して30個のNFTを発行し、30人のオーナーに販売するという仕組みです。このNFTは、収穫米の受け取りや体験イベントへの参加の際に使用できるほか、オーナー間で自由に売買や譲渡が可能となり、オーナー権の流動性を高めることができます。
また、米の生産過程をブロックチェーン上に写真データなど記録することで、信頼性を醸成できます。消費者は自分が支援するお米の生産地のストーリーをブロックチェーンを通して可視化できます。

2. トークンエコノミーの導入によるインセンティブ設計

棚田オーナー制度独自のトークンであるFT(代替性トークン)を発行し、制度内での経済圏を形成することも可能です。例えば、1トークンを5kgの米に相当するように設定し、オーナーはトークンを自由に消費したり、譲渡したりすることができます。これにより、オーナー権の流動性が高まり、より柔軟な運用が可能になります。
オーナーは、田植えや稲刈りなどの作業への参加や、イベントへの参加によってトークンを獲得し、そのトークンを収穫米の購入や制度内でのサービス利用に使用できます。貢献に応じたトークン付与により、オーナーの活動へのインセンティブが高まることが期待できます。

3. DAOによる運営への参加と意思決定の分散化

オーナーによるDAO(分散型自律組織)を組成し、制度の運営や意思決定に参加できる仕組みを導入することで、オーナーの主体的な関与を促進することができます。オーナーは、田んぼの運営方針や資金の使途などに関する議論や投票に参加でき、DAOの運営に貢献したオーナーにはインセンティブとして、上記で紹介したFTが付与されます。オーナーの主体的な関与が促進され、よりコミュニティ主導の運営が実現できます。これにより、オーナーの制度への愛着と帰属意識が高まることが期待できます。

課題と展望

一方で、NFTやFTの活用には課題もあります。NFTやFTを扱うにはweb3ウォレットが必要であり、ハードルが高いと感じる人もいるでしょう。いかにしてハードルを下げ、幅広い人々に参加してもらうかが重要なポイントになります。しかし、現時点では、棚田オーナー制度にNFTやFTを掛け合わせたプロジェクトはまだ類を見ません。新規性が高く、新しい田んぼの仕組みを作っていくモデルケースになる可能性があります。上越市の「みんなの田んぼプロジェクト」では、こうしたweb3技術を活用したプロジェクトを進めていく予定です。

おわりに

棚田オーナー制度とweb3技術の融合は、まだ構想段階ではありますが、大きな可能性を秘めています。NFTやFTの活用により、オーナー権の証明やトレーサビリティの確保、持ち分の流動化、分散型の運営などが実現できるでしょう。一方で、web3技術を掛け合わせる意味や効果については、まだ不明な点も多くあります。引き続き情報をチェックしながら、アイデアをブラッシュアップしていくことが重要です。上越市の「みんなの田んぼプロジェクト」が、新しい農業の在り方を示すモデルケースとしていきます。
ぜひ、日本初となりうる、web3と棚田オーナー制度を掛け合わせた取り組みを一緒に企画していければ幸いです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

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