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脳血管 #2-5 頚部頸動脈


総頚動脈

 総頚動脈は、右は腕頭動脈から、左は大動脈弓部から分枝します。左右とも、頚椎の4~5番目前後で、頭の表面に向かう外頚動脈と、頭の中に向かう内頚動脈に分かれます。

頚動脈

 総頚動脈分岐部から内頚動脈起始部にかけて頸動脈洞があります。頸動脈洞は血圧変動を甘受する圧受容器として働きます。また、総頚動脈分岐部には頚動脈小体があります。この部分は、血液の化学組成変化を感受する化学受容器で、ここからの情報は呼吸中枢や循環中枢を介して呼吸や拍動に反射的変化を起こします。

 頚動脈洞が刺激、圧迫を受けると、圧受容体が圧上昇を感知し、舌咽神経が延髄孤束核に伝え、孤束核から迷走神経背側核に伝え、迷走神経が過剰な反射を起こします。心臓の洞房結節や房室結節に伝え、心臓の動きが抑制され、徐脈、血圧低下が起こり、脳循環血液量が減少して失神状態に陥ることもあります。CEA術後やステント留置後にも発生することがあります。

頚動脈分岐部


外頚動脈

 外頚動脈はおもに頭皮、硬膜、舌、耳など頭の表面を栄養する動脈です。しかし、脳神経を栄養したり、内頚動脈とネットワークを持っていたりすることもあります。また、内頚動脈閉塞患者のバイパス手術で、浅側頭動脈を用いることもあります。

 外頚動脈から分枝する主な動脈は、①顎動脈、②浅側頭動脈、③上甲状腺動脈、④舌動脈、⑤顔面動脈、⑥上行咽頭動脈、⑦後頭動脈、⑧後耳介動脈の8本あります。

①顎動脈

 深側頭動脈や蝶口蓋動脈、中硬膜動脈などに分岐します。中硬膜動脈は棘孔を通って頭蓋内に入り、硬膜の栄養血管になります。頭蓋骨骨折によって損傷すると急性硬膜外血腫の責任血管になります。

②浅側頭動脈

 浅側頭動脈は頭皮を広く栄養します。STA-MCAバイパス術(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)の際に使用される動脈です。

③上甲状腺動脈

 甲状腺の栄養動脈です。

④舌動脈

 舌の栄養動脈です

⑤顔面動脈

 顔面の栄養動脈です。

⑥上行咽頭動脈

 咽頭の栄養動脈です。

⑦後頭動脈

 後頭部の頭皮の栄養動脈です。

⑧後耳介動脈

 耳介後部への栄養動脈です。

虚血時の側副血行路

 外頚動脈の枝は内頚動脈や椎骨動脈と吻合を持っています。これらの吻合は内頚動脈や椎骨動脈が閉塞した際に側副血行路として脳循環血液量維持のために重要な役割を持っています。たとえば、内頚動脈閉塞時に、顔面動脈、浅側頭動脈、中硬膜動脈などから眼動脈を介して血流を維持することがあります。

内頚動脈

 内頚動脈は脳を栄養する動脈です。頚部では分岐せず、側頭骨の頚動脈管から頭蓋内に入り、眼動脈、後交通動脈、前脈絡叢動脈と枝を出した後に、椎骨脳底動脈系とWillis動脈輪を形成し、前大脳動脈と中大脳動脈に分かれます。

 この血管は、不整脈などで心臓にできた血栓が流れることで急に詰まることもあります(心原性脳塞栓症)。内頚動脈は大脳全体を栄養するための核となる血管ですので、とつぜん詰まると、広範囲に脳虚血が起こり、致死的な脳梗塞を起こします。t-PAを発症4.5時間以内に投与、もしくはそれに引き続き、脳梗塞が完成する前に血栓をカテーテル治療で取る血栓回収療法を行います。

 内頚動脈の起始部は動脈硬化によって徐々に細くなり、一過性脳虚血発作やアテローム血栓性脳梗塞を起こすことがあります。動脈の内壁にプラークと呼ばれるコレステロールを主成分とする物質が付着し、徐々に狭窄が強くなります。プラークが大きくなると表面が裂けて、プラークの破綻を起こします。破綻すると表面に血漿案凝集が生じ血栓を形成します。できた血栓が大きくなって血管が狭くなるか、血栓の破片がその先の細い血管に詰まるかするため動脈狭窄や閉塞を起こします。

 脳梗塞の再発予防として、抗血小板薬などの内科治療を行います。抗血小板薬はプラーク破綻の際に血小板凝集を抑えて、血栓の形成を抑制します。狭窄が70%を超えたときはに追加して、アテロームを血管の内膜ごと摘出する内膜剥離術(CEA)や細くなった部分を動脈の中からステントという金属の管で広げる頚動脈ステント留置術(CAS)を行います。徐々に血管が細くなってきて脳の血流が足りなくなったときは、外頚動脈から出る浅側頭動脈と中大脳動脈をつなぐバイパス術(STA‐MCAバイパス術)を行うことがあります。

内頚動脈から分岐する動脈

①前脈絡叢動脈(anterior choroidal a)

 前脈絡叢動脈が内包後脚の後部に分布します。この動脈の閉塞では下肢に向う皮質脊髄路などが障害されます。内頚動脈と後交通動脈の分岐部付近より分岐するため、内頚動脈後交通動脈分岐部脳動脈瘤のクリッピングを行う際に、前脈絡叢動脈をクリップで挟まないように注意が必要になります。

②眼動脈

 眼動脈は、内頚動脈の大脳部より分岐する動脈の1つです。頭蓋腔において内頚動脈が脳硬膜を貫通する前に蝶形骨の前床突起の内側で分岐します。視神経の下外側に沿って走行し、視神経間を通過して眼下に入ります。そこから様々な動脈に分岐しながら、網膜などを栄養します。

 眼動脈に関連する疾患に、一過性黒内障があります。一過性黒内障は、「見えなくなった」「視界が真っ暗になった」「霧がかかるように白っぽくなった」症状が出現し、その状態が数分間続いて改善します。原因は、血栓が飛んできてこの眼動脈を、もしくは眼動脈の血流そのものが低下することによって起こります。いずれの場合も、頚動脈狭窄が背景にある隠れている場合があります。

 この原因の多くは、眼が見えなくなった側の頸動脈に動脈硬化があって、その動脈硬化の一部がはがれて血栓となり、血液の流れに沿って眼動脈を詰まらせることによって起こります。血栓が詰まった場合は、その後血栓が粉々に砕けて流れ去ったり、溶けて消失したりすることで血流が再開し、何事もなかったかのように元に戻ります。この一過性黒内障というのは、脳梗塞の前触れといわれている危険なサインです。

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