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脳血管 #2-6 皮質枝動脈


皮質動脈の解剖

 皮質動脈とは大脳半球を表面から栄養する血管を指し、前大脳動脈(anterior cerebral artery:ACA)、中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)、後大脳動脈(posterior cerebral artery:PCA)から分岐します。皮質動脈は表在枝動脈や主幹動脈とも呼ばれます。

中大脳動脈

 中大脳動脈から内頚動脈から分岐し、前頭葉と側頭葉の間のくも膜下腔(シルビウス裂)を外側に向かい、その後2本(時に3本)に枝分かれして上に向かいます。分岐する皮質動脈は大脳半球の外側約1/2の広い範囲を支配しており、内側部分(前大脳動脈)と後頭葉(後大脳動脈)を除く、大脳半球の大部分が中大脳動脈の栄養する範囲にあたります。中大脳動脈からの穿通枝の中で重要な動脈は、レンズ核線条体動脈で、錐体路の一部である内包や放線冠に血液を送っています。中大脳動脈が栄養する範囲は広いので、血管が詰まる部位によって運動麻痺、感覚障害、失語(運動性・感覚性)、失認、視野障害など多彩な症状が出現します。

 中大脳動脈は水平部(M1)部の外側端で2本もしくは3本に分岐します。これらはさらに分岐しながらSylvius裂奥深くを島皮質に沿って(島部:M2)、そして弁蓋に沿って(弁蓋部:M3)走行し、やがて脳の表面に顔を出します(皮質部:M4)。

中大脳動脈 分岐

 中大脳動脈の皮質動脈は放射状に分布しており、時計回りに眼窩前頭動脈、前前頭動脈、中心前溝動脈、中心溝動脈、頭頂動脈(前・後)、角回動脈、側頭後頭動脈、側頭動脈(前・中・後)、側頭極動脈から構成されています。

中大脳動脈 皮質枝

前大脳動脈

 前大脳動脈は、通常は左右にそれぞれ1本ずつあり、前頭葉の内側と頭頂葉の内側に血液を送っており、大脳半球の前内側部を支配し、帯状回などを栄養します。

 前大脳動脈は前交通動脈を出したのちに脳梁を取り囲むように走行し、脳梁周囲動脈と呼ばれます。脳梁周囲動脈からは、前頭眼窩動脈、前頭極動脈、内側前頭動脈(前・中・後)、傍中心小葉動脈、内側頭頂動脈(上・下)が分岐します。内側前頭動脈は約1/2の例で脳梁辺縁動脈という共通幹を持ちます。

前大脳動脈 皮質枝

 前大脳動脈は、部位によってA1、A2、A3、A4、A5と5つの区域に分類されています。前交通動脈は、A1とA2の境目から出ており、左右の前大脳動脈をつないでいます。A2とA3の境目のあたりで、血管の分岐部に脳動脈瘤ができることがあります。

後大脳動脈

 後大脳動脈は脳底動脈の先端からはじまり、内頚動脈からの後交通動脈と吻合してウィリス動脈輪の形成にかかわります。後交通動脈の発達の程度によっては、内頚動脈から後大脳動脈が枝分かれしているように見えることもあります。後大脳動脈の皮質動脈は後内側下部を支配しており、視覚野などを栄養します。脳幹や視床などに穿通枝を出しており、視床病変の原因血管になる事があります。

 後大脳動脈は中脳を取り囲むように後方に走行します。その途中で海馬動脈、下側頭動脈(前・後)を分岐し、そのあと頭頂後頭動脈と鳥距動脈の2本に分岐します。鳥距動脈は烏距溝内に入り込み、視覚野を栄養します。

後大脳動脈 皮質枝

分水嶺とは

 分水嶺とは前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈の支配領域のちょうど境界の部分です。この領域は血行力学的に分水嶺(watershed zone)となりますので、脱水や低血圧などで大脳全体の脳血流が低下した場合、最も虚血に陥りやすい部位になります。

分水嶺

脳軟膜血管吻合

 前大脳動脈・中大脳動脈・後大脳動脈は、それぞれの皮質枝動脈同士で吻合を持っています。これを脳軟膜血管吻合(leptomeningeal anastomosis)といいます。脳軟膜血管吻合は、普段は機能していません。

 たとえば、Willis動脈輪より末梢の脳血管が閉塞した場合にはWillis動脈輪は側副血行路として機能することができません。その場合、皮質動脈の末梢同士の細かな吻合である脳軟膜血管吻合が側副血行路になります。中大脳動脈が閉塞した場合、前大脳動脈や後大脳動脈の末梢から脳軟膜血管吻合を介して逆行性に血流が補われます。

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