見出し画像

ウルティマ実録小話、剣(ケン)か犬(ケン)か。

彼、ライデン少年は、2006年11月16日の昼間に、誠島の禅都に生まれた。初めてPCを買い、セットアップをしてもらい、すぐにウルティマオンラインをインストールしてゲームを開始した。
まだ職業ごとのチュートリアルクエストが存在していた頃である。

ライデン少年は侍のテンプレートでゲームを開始、途中、クエストで中華龍に踏み潰されたりしながら、無事チュートリアルを終え、誠島から出られるようになる。
目指すは最も人が多いと言われていたヘイブンの街だ。

ムーンゲートをくぐり、夜道を照らす灯りを頼りに、道なりに北上していく。

たどり着いた街は、禅都とは比べ物にならないくらいの人で溢れていて、とても賑やかだった。
そして物珍しげに街を見回すライデン少年は、ついに目にしてしまうのである。

cu sidheを。

a cu sidhe



cu sidhe(クーシー)。人を乗せて走る大きな犬のような獣である。
ライデン少年が生まれた当時から今に至るまで、調教師達に人気の種だった。
街のあちらこちらに、飼い主のそばに佇み、また飼い主を乗せて歩くクーシーがいた。
そして大変厄介なことに

ライデン少年は動物が大好きだった。

ライデン少年の夢は、立派な剣士になる事だった。だから侍テンプレートでゲームを開始したし、愛刀であらゆる敵をなぎ倒す未来の自分を疑いもしなかった。

そう、この時までは。

今、ライデン少年の脳裏には、クーシーに乗って野を駆ける自分の姿が相当に美化されて映し出されていた。
乗りたい。あのふかふかした生き物に跨りたい。

まだ覚束ない指でキーボードを叩き、ガチガチに緊張しながらも勇気を出して、ローブ姿の美しい女性──勿論横には立派なクーシーが佇んでいる──に声をかけた。

「その犬は、どこで売っていますか?」

しかし、返ってきた答えは、この犬は街で売ってはおらず、野生のものを捕まえてくるしかない。
そして調教師として相当の修業を積んだもののみが飼いならすことができる、というものだった。
あっちの飼い主も、そこの飼い主も、もちろん自分もそうした調教師なのだと。

つまり、侍である今のライデン少年には、クーシーに乗るすべはなかった。

調教師になるには、動物を扱うスキルはもとより、魔法のスキルも要求される。
しかしライデン少年は侍だった。魔法の知識はゼロである。
調教師になるには、魔法と調教のスキルを磨かねばならない。それに加えて剣や戦術、受け流しのスキルまでは到底覚えきれない。

剣(ケン)か犬(ケン)か。二つに一つ。



「僕、調教師になります!」

ライデン少年は即答した。
それほどまでに、どうしても、どうやっても、彼はクーシーに乗りたかったのである。

その為に剣の道をヘイブンの道端に捨てた。

ヘイブンに着いてから、時間にしてだいたい30分くらいの出来事である。




このように自由に生き方を選べる素敵なMMORPG「ウルティマオンライン」、ただいま基本無料でプレイ可能です。

*余談*
実は剣とペットを両立させられるテイマー戦士なるビルドがあるとライデン少年が知るのはまだ先の話だし、クーシーよりもかわいいペットの存在を知り、そっちにゾッコンになることも彼はまだ知らない(ちゃんとクーシーに乗れるようにはなった)。

ゾッコンになってしまったペット、a bake kitsune




"(C) Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA, EA GAMES, the EA GAMES logo, Ultima, the UO logo and Britannia are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved."

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?