神戸からのデジタルヘルスレポート #74 (治療のデジタル化 1/4)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は治療プロセスのデジタル化に貢献するサービスをいくつかご紹介していきます。
1. DrDoctor:外来患者向けの予約管理
DrDoctorは、外来治療を行っている患者を中心に、クラウドベースの患者状態管理ツール(彼らの言葉では"Patient Engagement Platform")を提供しています。そのコアにあるのは、患者ごとの症状や必要治療を踏まえた予約最適化で、「予約したのに来院しない患者」を最小化しつつ、同時に不必要な外来の削減にも貢献しています。
コロナ禍で多くの患者が受診できなかった昨年、英国では2021年3月までに2千万件の外来予約が見送られたとされ、その外来を従来からの方法ですべて解消しようとすると4年半かかるとNHSは見積もっていました。しかしDrDoctorは、デジタルプラットフォーム上で診察が必要かどうかを患者に尋ねたり、患者の症状が悪化していないかどうかを遠隔で確認したりすることで患者のトリアージを行い、上記外来予約在庫の解消を8ヶ月で実行できると表明しました。
限りある医療資源の効率的な配分の重要性が叫ばれている昨今、シンプルながらも効率的なオペレーションの実現を支援するデジタルプラットフォームの必要性は臨床現場でも高まっています。
2. Wellframe:在宅ケア支援プラットフォーム
このレポートシリーズ #2でご紹介したこの企業、治療管理文脈で改めてご紹介です。ブラックストーンに買収された医療ヘルスケアソフトウェア企業・HealthEdgeが21年10月にWellframeを買収、界隈をざわつかせました。
改めてどんなサービスを展開しているのか、ご紹介します。
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創業者であるJacob Sattelmairはハーバードとオックスフォード大学で学んだ超がつく程のエリートで、パブリックヘルスの専門家・研究者です。創業前にはRunKeeperでのProduct ManagerやDossia(世界初・最大のPHR事業者)でのリサーチ/戦略部門でのディレクターを務めていました。
2011年にWellframeを創業した彼が選んだサービス開発領域は、患者さんの在宅ケア支援です。2020年、Mediumで創業者ストーリーが取り上げられていました。
Wellframeは医療者が立てた退院後・在宅期間中のケアプランを基に、日々行うべきチェックリストを作成します。
・何を食べるべきで、何を避けるべきか
・どのような運動をどの程度すべきか
・どのような自覚症状があるのか
・いつどの薬を飲むべきか
さらに、患者の疾患や生活環境ごとに教育動画も提供します。
入力された患者ごとのデータは医療機関・医療者の画面では集計されて表示され、次回の来院時の問診などに活用されます。気になる症状があれば、医療者側からメッセージや電話を通じて患者に介入することもできます。
データ解析という視点で、AI・機械学習の活用にも積極的です。
3. My possible self:メンタルヘルス向上対話モジュール
My Possible Selfは、認知行動療法(CBT)を取り入れたメンタルヘルスアプリを開発しているイギリスのスタートアップ。わずか8週間でストレス、不安、うつ病を軽減するプログラムを提供しており、その効果を示す臨床研究も行われています。下の動画でどんなユーザー体験なのかが簡易的にわかります。
英国はNHSが積極的にデジタルヘルス利用を進めていますが、同社のサービスもNHS認証をばっちり受けています。
2021年10月の世界メンタルヘルスデーにあわせて、運動や瞑想に関する動画やPodcastも公開。コロナ禍での世界的なメンタルヘルス悪化にも対策を取ろうとしています。
アプリなので個人利用でも全然問題ないのですが、職場向けのプログラムも並行して提供しています。前の職場ヘルスシリーズとの相性も良さそうですね。
4. Mymee:自己免疫疾患向けの16週間デジタル治療プログラム
Mymeeは、自己免疫疾患による慢性症状を改善するための16週間のデジタル治療プログラムを提供しています。個人向けのみならず、企業や保険会社向け用のプログラムも提供しています。「マイミー」という名前の由来は、自己免疫疾患に苦しむ人々が自分自身を取り戻すのを助けるという、Mymeeチームの願いを表しているそうです。
利用の流れとしては、①痛みや倦怠感等、なぜその症状が発生しているのかをアプリ追跡でモニタリングし、②専属コーチと共に症状の理解とコントロールを行い、③自身で症状をセルフコントロールできる状態にする、といったものです。モニタリング▶理解▶対策という王道プログラム。自己免疫疾患の症状は生活に支障をきたすことが多く、まずはそれを理解し、パーソナライズされたプログラムで改善することを目的としています。
重症筋無力症や線維筋痛症等のmymeeを利用・体験した自己免疫疾患の方々の記事も掲載されています。こういう声が上がってくるのは素晴らしいですね。
5. Dynosense:多機能ヘルススキャナー
Dynosenseは、日常生活をより健康にするための心電図、血中酸素濃度、呼吸数・呼吸量・呼吸効率、中心温度などを測定する多機能ヘルススキャナー装置を開発し提供している企業です。60秒未満でバイタルサインを測定できる特許取得済みの健康スキャナー、体組成スケール(Adore)等の機器を用いて身体情報をウォッチングし、AIでクラウドに送信され、医療チームへ連携されます。「Dyno」は、幅広い健康データをキャプチャできる世界初の完全に統合された多機能健康スキャナー技術で、特許取得済みのDynosenseを代表する機器です。
上記の機器たちで収集されたデータは、以下のようにアプリ上で健康状態を視覚化されます。データはヘルスクラウド(DynoCloud)で分析され、それぞれのユーザー患者にパーソナライズされます。
中国・香港向けのWebページも準備されているので、大きな市場なんでしょうね。
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