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神戸からのデジタルヘルスレポート #5 (DrChrono/Labdoor/Naluri Hidup/Alodokter/Reify Health)

Cobe Associeの田中です。
ひっそりエイベックス社の新規事業コンテストで賞を頂いたりしました。ありがたいです。

先週は第4回とイスラエルデジタルヘルススタートアップの紹介と大忙しでしたが、今回は通常営業で区切りの第5回です!
今回も元気にデジタルヘルススタートアップを紹介していきます!

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1. DrChrono:4千万人以上参加のEHRプラットフォーム

企業名:DrChrono
URL:www.drchrono.com
設立年・所在地:2009年・サンフランシスコ
直近ラウンド:Debt Financing($10m、2018年12月)
調達金額:$28.7m

EHR。Electronic Health Record。電子健康記録。普段生活をしていると聞き慣れない言葉ですが、デジタルヘルスの領域ではここ何年も取り組まれているテーマです。
簡単に言うと、医療機関を超えた診療情報の蓄積と利用を目指して、各医療機関で得られた様々なデータを電子的に記録しておきましょうね、ってやつです。

DrChronoはこのEHRを扱う統合プラットフォームで、当初は電子カルテなど一部の医療事務に関わる部分をiPad上で提供することにフォーカスしていましたが、現在は多機能・マルチデバイスの統合EHRプラットフォームへと進化しています。具体的には、

・電子カルテの記入
・診察・外来における患者予約
・メモの音声読み上げ
・患部の写真撮影
・処方箋の記入と薬局への転送
・各種検査結果の参照
・顧客への請求

などが可能です。
外部アプリとの連携も盛んで、Squareのような決済系からComplete Anatomyのような患者教育系、Updoxのようなコミュニケーションツール、OutcomeMDのような患者アウトカム確認ツールなど30以上の外部サービスと連携しています。企業向けクラウドで15年に上場したBOXは提携先でありながら、投資家として前回ラウンドに参加していたりします。
これらのアプリを組み合わせることで、より一層プラットフォーム感が強まっていて素晴らしいですね。

サービスとしての実績もここ数年ぐーっと伸びており、現在4,160万人の患者情報を登録しており、年間30億ドル以上の医療費をプラットフォームを通じて処理しています。当初は医師1~5名程度の小規模クリニックを相手にしていましたが、現在は大規模病院はもちろん専門施設向けにもソリューションを展開しています。
元々Y Combinatorの2011年クラスへの参加企業だった同社、すごい成長性ですね...!!

Youtubeチャンネルも積極的に活用していて、上記のような顧客ケーススタディからサービスの使い方・チュートリアル、カンファレンス動画まで相当数の動画を上げています。導入速度を高めるために、医療系コンサルタント向けのDrChrono教育プログラムも無償で提供していて、外部リソースを営業にがんがん活用していますね。

EHRの中に含まれる一つのデータチャネルが電カル(電子カルテ。EMR: Electronic Medical Record)ですが、日本における普及率は全体で34.4%に留まります
600床以上の大病院(神戸中央市民病院で768床)だと導入率9割を超えるのですが、200床未満の中小規模病院だと導入率は10~30%程度とまだまだ紙管理が一般的。この時代に...

DrChronoがぐっと伸びたのも、2011年に米国政府がDrChronoを”Meaningful Use”(有効利用)として認定し、同社アプリを扱う医師に対して4万4千ドルの報奨金を提供したこと。その背景には、オバマ政権が電子カルテの普及を後押ししていたことがあります。

流れに任せていても業務の粘着性もあり電子化はなかなか進みません。かつ、様々な職種が入り乱れる病院という場では施設全体に対してリーダーシップを発揮することの負担も大きいです。
電子化のインセンティブ設計、頭を捻らないと行けない部分ですね。

2. Labdoor:サプリメント特化"カカクコム"

企業名:Labdoor
URL:labdoor.com
設立年・所在地:2012年、サンフランシスコ
直近ラウンド:Series A(2016年11月、$3.4m、FLOODGATRE)
調達金額:$10.8m

米国のサプリメント市場、どのくらいの大きさだと思いますか?
その規模なんと414億ドル(2016年)で、機能性食品・飲料市場まで広げると約600億ドルの市場とされています。そして前年比6%以上のペースで伸び続けている、と。
そんなサプリメントに関わる課題が、LabdoorのWebでぱっとまとめられています。

・一番売れているらしいけど品質には偽りありじゃない?
・有名人が愛用しているらしいけど安全なの?
・含有度最大とかいているけど効かなかったよ?
・医師に薦められたけどテストされているの?

などなど。何が入っているかわからんし、効くかわからんし、まぁ玉石混交っぷりがすごいと。このあたりは日本でも同じような現象がありそうですね。
(話が逸れますが、癌患者さんにインタビューしていると薬局で謎のサプリメントを薦められて購入しちゃっていたりして、心が痛みます...)

Labdoorは、自社で各サプリメントを購入した上で成分や安全性などを独自検証し、消費者向けにスコア化しています。ラベル表記の正確性や成分純度、消化吸収性などがそのスコアの要素となります。
わかりやすい表記だ。

日本でも、トレーニング系Youtuberの方が同サービスを紹介していたり。わかりやすいです。タンパク質含有量、大切。

Labdoorは2012年にRock Healthを、2015年にY Combinatorを卒業しています。Labdoorが検証した製品のみのマーケットプレイスも運営しており、もともとは送客・アフィリエイトが収益の中心でしたが、近年は自社で在庫を抱えて直販を始めています。既に9千フィートの倉庫を運営しているとか。
更にはサブスクリプションモデルの導入に向けて動いているとのことで、この不透明な市場の正常化に向けて、期待大です。

3. Naluri Hidup:生活習慣病・メンタルヘルス改善のための認知行動療法コーチング

企業名:Naluri Hidup
URL:www.naluri.life/en/
設立年・所在地:2017年、マレーシア
直近ラウンド:Seed(2018年1月、500 Startups等が参加)
調達金額:$258k

認知科学行動療法をベースにした疾患改善・治療のためのコーチングプログラムを提供しているのがNaturi Hidupです。対象としている疾患は肥満糖尿病心疾患うつストレス性疾患で、いずれもメンタル状態や習慣改革、行動変容が必要になる疾患です。

糖尿病や心疾患、おくすりでの治療も必要なんですが、食事や運動などを含めた生活習慣改善も服薬と同じか場合によってはそれ以上に重要だと感じます。しかし、なかなか変えづらいんですよね、食事や運動の習慣というのは...

Naturi Hidupは、個々の患者に合わせてパーソナライズされたメンタル支援プログラムを通じて行動改善を図ります。

Providing customized programs to individuals to help them become mentally stronger and resilient

無料でも日記プランなどは使えるものの、月額RM150(4,500円程度)を課金すると無制限のプロコーチングを受けることが可能になります。

個人プランだけではなく法人向けにも展開しており、保険会社・雇用主・病院と連携してリスクのある被保険者や従業員向けに予防医療プログラムや慢性疾患患者向けのリハビリプログラムを提供していたりもします。
米国同様、健康経営のインセンティブは東南アジアのほうが強そうですね。

オンラインコーチングのサービスが日本でもボコボコ出てきているので、認知行動療法にフォーカスしたこのスタートアップにも合わせてご注目あれ、という感じです!

4. Alodokter:月間1,200万PV医療メディア+医療プラットフォーム

企業名:Alodokter
URL:www.alodokter.com/
設立年・所在地:2014年、インドネシア・ジャカルタ
直近ラウンド:Series B ($9m, 2017年11月、Softbank Ventures Asia等)
調達金額:$12.1m

2019年3月に$65m(約70億円)を調達したオンライン医療相談のhalodoc。2万人の医師が登録しており、インドネシア初のユニコーン企業・Go-Jekとも提携しています。

そのhalodocの有力な競合とされているのがこのAlodokterです。

同社は基本となる事業として月間1200万PVの医療情報プラットフォームを運営しています。数千に及ぶ医療・ヘルスケア等に関する記事を提供しつつ、患者の疑問に医師が答えるQ&Aを累計で10万以上掲載しており、信頼できる医療情報のプラットフォームとなっています。

さらにこのプラットフォームを発展させ、”a fully-integrated healthcare ecosystem”を構築することを目指しています。サービスプラットフォーム上では医師へのチャット相談を行いつつ、AIベースでの症状判定も実施可能です。さらにはオフラインでの診察予約や診察データの管理も可能になります。

例によってyoutubeをみてみたら、スタートアップのチャンネルなのに登録数が14万も!Youtubeチャンネルでも医療情報の発信を進めているんですね。医師が直接情報発信をしてくれるようで、ありがたい。

CEOのNathanael Faibisの経歴を見ていると、自分と年齢がほとんど変わらないことに驚きました...
私も頑張らなきゃ!

5. Reify Health:臨床試験サポートツール

企業名:Reify Health
URL:www.reifyhealth.com
設立年・所在地:2012年、ボストン
直近ラウンド:Seed(2014年3月、Asset Management Ventures等)
調達金額:$430m~

薬や医療機器の開発プロセスで必ず必要となるのが臨床試験です。その試験の最終段階では実際の患者さんに参加いただいた上で治験を進めることになりますが、その課題の一つに患者さん集めに苦労することが上がれています。

米IT(情報技術)サービスCognizant(コグニザント)のリポートによると、募集期限までに十分な患者を集められなかった治験は約80%に上り、第3相で打ち切られた治験のうち、患者の不足が打ち切りの理由だった治験は約3分の1を占める。(日経

Reify Healthが提供するプロダクト・StudyTeamでは、治験を実施するCROや製薬会社と患者の間での関係性を改善し、治験患者の参加率を高めることに貢献します。同社のWebページで紹介されている記事によると、StudyTeamの活用によって治験への患者参加率が23%が向上したとのこと。素晴らしい改善度だ...!!

創業チームはジョンズ・ホプキンス大学のメディカルスクール在籍時に、トレーニングの一環として治験プロセスに参加したことで、治験における効率性が上がらないこと、患者が先進的な治療にアクセスできる機会が限定されていることに問題意識を持ち、同社を創業したとのこと。
ソフトウェア開発においてはバイオファーマ会社の知見を存分に活用。2017年にはグローバル治験にも対応できるStudyTeamをリリースし、トップ20の製薬会社や大規模研究施設などとの契約を続々と決めているようです。
素晴らしい実績だ。

少し前に読んだジェトロのテキサス・メディカルセンター(TMC)紹介の記事でも、治験の非効率性とそれに対するデジタルヘルスの活用事例が扱われていました。

またTMCでは、人工知能(AI)を使った数多くの臨床試験と適切な患者のマッチングが行われており、従来は手作業で数カ月を要していたこのマッチング作業を、数分で行うことができるようになった記事

このようなみんなが幸せになるミスマッチの解消に、テクノロジーが使われていくといいなぁと心から思います。
いざ、デジタルヘルス!

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こんな感じで、第5回でした。
noteマガジンにもしてみたので、もしよかったらフォローしてください:-)

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