野安の電子遊戯工房 ~「キムタクが如く」に見る、コンテンツの巡る思想の激突~


 『キムタクが如く』と呼ばれるソフト(正式名称は『JUDGE EYES:死神の遺言』)が発表されたことによって、ネット上に木村拓哉さんそっくりの顔をしたキャラクターの画像が山のようにあふれ出しました。

 ジャニーズ所属タレントさんの多くはネット上での肖像権管理が猛烈に厳しいため、本人そのものの写真はネット上にほとんど存在しないにもかかわらず、本人そっくりのキャラクターの顔だけが膨大にあふれ出すという、人類史上たぶん前代未聞の状況が訪れたよね――というのが、昨日のコラムの概略でございます。

 これって、すごーく興味深い現象です。なので、もうちょっと掘り下げて解説していきますね。

 というわけで、このコラムは、昨日のコラムと繋がっております。いちおう、それぞれ単体で独立したコラムになっていますが、お時間に余裕のある方は、双方あわせてお読みくださいませ。




 この興味深い現象が起きたのは、それがコンテンツビジネスにおける思想の激突の結果だからだ――という側面があると思うのです。

 テレビとか新聞とか雑誌とか、それらの昔ながらのメディアというのは、「コンテンツの権利を囲い込む」ことで富を生み出すビジネスです。囲い込むという言葉に悪意を感じる人は、「囲い込む」のところを「守る」と置き換えてくださいませ。

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 という権利を主張して、そのコンテンツが生み出すお金を独占することでビジネスを成立させるのが、従来のメディアの基本フォーマットだ、ってことですね。

 これは、なにひとつ間違った考え方ではありません。コンテンツビジネスというのは、そういうものだからです。テレビ番組などが動画サイトに転載されると、それは自分たちの利益を損なうことになるのだから、それは権利違反だ! と主張して削除するわけです。それは著作物の権利を守るという意味において、きわめて正しい行動です。

 しかし、インターネットを主戦場とするコンテンツビジネスには、もうひとつのビジネスのやり方があります。みんなの手で、どんどん情報を拡散してね! という思想によってコンテンツの魅力を広げていく方法です。コンテンツの画面写真や動画を、視聴者たちがネットに乗せる行為を許容することで、このビジネスは成立します。

 どちらのビジネスが正しいのか? といった話をしたいのではありません。双方にメリットがあり、デメリットがあるのですから、一概に決めつけることはできません。

 とはいえ、ネットが普及しまくった現在では、後者の「どんどん拡散させていくビジネス」のほうに勢いがあるといっていいかもしれません。

 権利を守ることでビジネスを成立させるテレビ局などを主戦場とするタレントさんよりも、いろいろな人の手で情報が拡散していくネットの世界で名を挙げたユーチューバーのほうが、いまでは子どもたちや若者層たちからの人気が高く、より支持されているという現実が、「どんどん拡散させていくビジネス」の勢いを物語っています。




 だから、『キムタクが如く』は興味深いコンテンツだと思うのですよ。

 主演の木村拓哉さんは、テレビや映画という、コンテンツを囲い込む(厳密に守る)ことでビジネスを成立させている業界で第一線に立ち続け、日本で知らない人はいないほどの知名度を得た本物のトップタレントです。しかも、ネット上での肖像権管理を、日本でもっとも厳しく(つまり世界でもっとも厳しい)規制してきた事務所に所属するトップタレントでもあります。

 そんな人物が、テレビゲームという、いろいろな人が自由に情報を発信することを是とするコンテンツビジネスに足を踏み入れてきました。それこそが、このソフトを語る上での、ものすごーく大事なポイントなのだと思うのですよ。

 なんか、これを皮切りに、日本の芸能界では、いろんなものが動き出すことになるような気がします。




 だって、ちょっと考えてみてくださいよ。

 木村拓哉さんがゲームのキャラクターになるということは、木村拓哉さんの二次創作物が世の中にあふれる、ってことでもあるのです。

 ゲームをプレイした動画に「実況主がコメントをかぶせていく」というのは、いまでは当たり前の実況スタイルです。それって、木村拓哉さんそっくりのキャラクターが活躍する動画が、二次創作の素材になるってことでもあるんですよ。木村拓哉さん(のそっくりなキャラクター)は、実況主にとっての「視聴者を楽しませるための素材」という位置づけになるんですね。

 たとえば、実況主が木村拓哉さんのモノマネをしながら、『キムタクが如く』を実況するからこそ面白い! みたいな動画だって出てくるでしょう。ゲーム内の木村拓哉さんのセリフと、実況主の木村拓哉さんのモノマネによるダブル・キムタクな動画ですね。なんか面白そうだなぁ。その動画、すごく見たいぞ(笑)。

 このように、いまの時代にゲームの主人公になるということは、「コンテンツを囲い込む」という世界でトップに立ったタレントが、そういった立場になることを許容し、こっちの世界に足を踏み込んできたったこととイコールなんですね。これは凄いことだよなぁ、と思わずにはいられません。

 このゲームソフトがビジネス的に成功したならば、そりゃもう、これを皮切りに、日本の芸能界でいろんなものが動き出すと思うんですよね。なんか新しい未来が始まるような、そんな気がします。

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