野安の電子遊戯工房 ~テレビゲームとは「時間を制御する娯楽」のことである(その3)~


 テレビゲームは、プレイヤーが時間の流れを停止できたり、時間が流れるスピードを変えたりできるという、独特の特徴を持つ娯楽なんだよね。

 ――という話を、これまで2回にわたって書いてきましたが、本日はその完結編です。「アクションゲームにおいて、時間の流れを変化させる」という仕組みの先に、ちょっと面白そうなゲームの未来があるんじゃないかなぁという、そういった話です。

野安の電子遊戯工房 ~テレビゲームとは「時間を制御する娯楽」のことである(その1)~
野安の電子遊戯工房 ~テレビゲームとは「時間を制御する娯楽」のことである(その2)~

 ひとつひとつのコラムは独立したものになるよう書いていますので、今回だけを読んでも問題ありませんが、興味のある方は、上のリンクから「その1」「その2」をご覧くださいませ。




 では、本編です。

 わたし、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の戦闘が大好きなんですよ。

 敵の攻撃をドンピシャで避けると、ぷぉぉぉぉん――という音とともに、ゲーム内での時間の流れがゆっくりになるのが、すっごく気持ちいいんですよね。その瞬間、世界がスローモーションになるのですよ。降下中に弓矢で狙いをつけるときにも、同様の現象が訪れます。

 これって、トップアスリートの人たちが、極限まで集中力が高まったときに「周囲がゆっくり動いたように感じる」という、いわゆるゾーンと呼ばれる感覚の再現だよなぁ――と、そんなことを感じたりもしました。

 この気持ちよさは、今後のテレビゲームは、もっともっと採用してほしいなぁ、と心から思っております。





 ねんのために書いておきますと。

 アクションゲームの中で、こうして「時間の流れがゆっくりになる」というのは、昔からときどき採用されている仕組みではあります。

 格闘系のゲームに多いけど、必殺技を出すときなどに、ふっ、と時間の流れが止まり、「●●●●!(必殺技の名前)」といった文字が挿入されてから、バババババッ! と格好いいアクションによる必殺技が繰り出されるような演出をするものもあります。

 さらに古い話をすると、古典的名作シューティングのひとつ「グラディウス」シリーズでは、大量の敵、大量の弾が画面内に飛び交うとき、ゲーム全体がスローモーションになるという演出がありました。厳密にいうと、それはコンピュータの限界に達したことによる「処理落ち」という現象ではあるのですが、それが演出の一部としてゲームに組み込まれていたわけです。ちょっぴりメタですね。

 とまあ、アクションの途中で「時間の流れがゆっくりになる」という演出は、これまでにもいくつかあったのですが、やはり「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」が、その気持ちよさで、頭ひとつ抜きんでているかなぁ、と思っております。

 必殺技を出したりするときではなく、ごく自然なアクションの中で、ふっ、とスローモーションになるのがいいんですよね。慣れてくると、それが狙って出せるようになる。その瞬間、プレイヤーは時間の流れを超越した存在になれる。これが、ほんと気持ちいいんですよ。




 なので、この気持ちよさは、今後のゲームでどんどん採用されるといいなぁ、と思うのですよ。

 そんなことを思っていたら、どうやら6月22日発売の「マリオテニス エース」の中に、ちょっと似た仕組みが採用されているらしいので、わくわくしながら発売を待っているところです。

 どうやら、そこでは「エナジー」というパラメータがありまして、これを貯めることで特殊な技が出せるようなんですよね。そして、そのとき、どうやら時間の流れを止められるようなのです。時間が止まっている間に「狙いを定める」というアクションを行い、時間が動き出すと、そこにショットを打つ――といった動画が紹介されております。

 いやあ、これは凄いな。

 「ゼルダ」は1人プレイ用のゲームだから、時間の流れをゆっくりにしてしまっても他のプレイヤーには迷惑はかかりません。その世界の中にいるのは自分だけですからね。でも、こちらは対戦ゲームだから、その瞬間、「相手の動きすら止めてしまう」ことになるわけです。対戦相手側からすると、自分の動きを止められてしまうわけですよ。

 こんな仕組みを採用しながら、きちんとした対戦型ゲームとして成立させるってのは、ちょっと凄いです。まだ発売されてないからわからないけど、これって、つまり対戦するプレイヤーたちが、互いに「時間を止めあいながら戦う」という試合になるってことですもんね。

  だとすると、それってJojo対Dioじゃん。スタープラチナとザ・ワールドの対決じゃん。

 そんな仕組みを、テニスというスポーツを素材にしたゲームに織り込んでくるあたり、ほんと任天堂ってのは「ぶっ飛んでる」会社だなぁ、と思いますよ。ファミリー向けっぽいイメージに皮をかぶったゲームの中で、とんでもないことを実現しようとしております。

 だからこそ、なのでしょうか。このゲーム、ひとことも「テニスゲーム」と名乗ってないんですよね。ちゃんと「テニスバトル」と名乗っている。このあたりの言葉のチョイスは、ちょっと面白いですね。




 というわけで。

 今後のアクションゲームには、こうした「時間の流れを止めてしまう」「時間の流れをゆっくりにしてしまう」といった仕組みが、どんどん取り入れられるようになるんじゃないかなぁ、と思います。各メーカーが、そんな挑戦を始めんじゃないかなぁと。

 10人とか20人とか、大人数が参加するバトルロワイヤル系のゲームで、このような仕組みがあると面白そうですよね。各自が数個ずつ、「ピンチの時のみ、ゲーム内に流れる時間をスローモーションにできる権利」を持ったところからスタートするゲームですね。

 絶体絶命のピンチのとき、その権利を行使する――というのが一般的な使い方なんだろうけれど、そうすると、そのプレイヤーとはまったく関係ない場所にいる人も、「突然、自分がスローモーションになってしまう」わけですよ。もし、テンポよくボタン操作をしなければならない状況で、予期せずスローモーション化が発生してしまうと、いきなり操作ミスが発生してしまい、「ふざけんなよ」と苛立ったりすることもありそうです。うん、これはこれで、ちょっと面白いんじゃないかなぁ。

 そうやって「時間の流れを変化させる」という仕組みを、うまく勝ち抜くための戦略の中に織り込んでいく――という攻略法が生まれるのかもしれません。「うわ。この人、そこで時間を止めるのか。斬新だ」みたいな賞賛を浴びるプレイが誕生する可能性もありますね。

 うん。こういうゲーム、ちょっと遊んでみたいなぁ。




 最後に。

 この「時間を止める権利」の数を、プレイヤーによって変化させると、それがハンデとして機能するような気もします。上手い人は1回しか止められないけど、下手な人は5回止められる、みたいな差を付けると、実力差のあるプレイヤー同士の対戦が、均衡したものになるんじゃないかなぁと。

 というわけで、こういった仕組みは、今後、どんどん採用され、磨かれていくんじゃないかなぁと想像している昨今です。テレビゲームという「時間を制御する娯楽」ならではの、面白そうな発展の方向のひとつが、ここにあるような気がします。

(2018/06/06)

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