野安の電子遊戯工房 ~世の中には、面白くないゲーム存在しない~


 30年にわたって、テレビゲーム関連の仕事をしてきて、つくづく思い知らされたのは、世の中には面白くないゲームは存在しない――ということだったりします。

 実例とともに、いくらでも反論できるであろうことは承知しています。ファミコン発売直後の黎明期には、どこをどう見ても手抜きとしか思えないゲームもありましたし、スマホアプリが世の中にあふれている今も、そんな手抜きソフトは山ほどあるでしょう。さらにいうと、面白いとかそういうこと以前に、個人情報をぶっこ抜くための邪悪なアプリも存在します。

 それでも、わたしは思うのです。

 ちゃんとした企業が世の中に送り出したゲームって、きちんと向き合ってプレイすると、どれも面白いんですよ。「面白くない」と感じるソフトもありますが、それは「プレイしたわたしにとって、面白さがわからなかったソフトだった」にすぎないのです。

 仕事としてゲームをプレイすると、正直、自分で金を出して買おうとは思わないソフトの担当になることがあります。それでも販売元の人たちから、これはこういう層を狙った商品であり、だからこういったところに配慮して作っているんですよ、と説明を受けてから、商品ターゲットの年齢・性別などのつもりになってから再プレイすると、あれ? これってこういうところが面白いのか――と、ゲームの魅力に気付くことになるんです。

 こういう経験を積んでいくと、そうか、自分が楽しめなかったからといって、「面白くないゲームだ」と断じてはいけないんだなぁ――と、そんな当たり前のことに気付いていくんですね。




 たとえば、かつて、キッズ向けのゲームを担当したことがありました。

 部屋から部屋へと移動して、いろんなアイテムを集めて進んでいくアドベンチャーゲームでした。ものすごーくシンプルな謎解き系のゲームです。

 プレイしたとき、わたしは思ったのですよ。このようなゲームの面白さは、どんな謎が用意されているのかによって、面白さが決まるよな――と。当たり前ですよね。だって謎解き系のゲームなんですから。

 でも、それは大間違いだったんです。このゲーム、大人がプレイすると絶対に体験できないような、ものすごい仕掛けが用意されていたからです。

 このゲーム、数分間にわたって何も入力しないでいると、ゲーム内のキャラクターが勝手に動き始めるんです。そして、いずれは謎を解くために必要な場所へ、勝手に移動したりするのです。

 これを知ったとき、わたしはシビれました。

 小さい子供は、いずれゲームに飽きてしまう可能性がある。だから、いったんゲームプレイを放り出されてしまっても、しばらく経ってから画面に目を向けたとき、そこではキャラクターが勝手に動いていて、しかも「ここを調べると、面白いことが起きそうだよ」と言わんばかりの場所に移動していれば、ふたたびゲームプレイの再開してくれるはずだ――と、そんなことまで計算してゲームが設計されていたことに気付いたからです。

 そうすることで、集中力が続かないためにゲームに放り出しがちな低年齢の子供たちであっても、親の力を借りることなく、「ちゃんと自力でゲームをクリアした」という成功体験を得られるところまで、きっちりと導くよう配慮されていたのですね。おお、これは凄いなぁ――と感動したことを、わたし、いまでも覚えています。




 もし、わたしが、このゲームを熱心にプレイし続けただけだったら、この仕掛けに気付くことはなく、「謎解きがシンプルだけど、子供には難しいところがあるかも」などという、ありきたりの評価を下したことでしょう。

 でも、仕事としてプレイしていたにもかかわらず、ふとコーヒーを淹れに席を外したりして、数10分間にわたってゲームから離れるというズボラなプレイをしたからこそ、わたし、ゲームに秘められていた仕掛けに気付けました。キッズ向けに作られたゲームです、という販売元の人の言葉の、その本当の意味にも気づけたのです。

 そこで、ものすごーく飽きっぽい子供になったつもりでゲームに接してみたら、これ、めちゃくちゃ面白いゲームだったんですよ。

 なにしろ、数分にわたって何も入力しないと、止まっていたキャラクターがちょっとずつ動き出して、しばらくすると部屋の中を歩き出して、そのうち部屋から部屋へと移動するようになって――と、ちょっとずつ新しいことをして、こちらの興味を引いていくのですよ。そして、そこでゲームを再開してみると、さほど苦労せず謎が解けるようになっていてストレスが溜まらないのですよ。ああ、これは面白いゲームだなぁ――と、感心しながらプレイすることになりました。




 ここに挙げたのは極端な例ですが、テレビゲームには、こういった「自分以外の人になったつもりでプレイすると、その面白さに気付く」という仕掛けが、けっこう隠されていることがあります。テレビゲームには、幅広いユーザー層を楽しませるよう、いろいろな仕掛けが用意されているため、ふだんの自分のプレイスタイルじゃない方法でプレイすることによって、いつもの自分では体験できない新しい仕掛けに気付くことがあるのですね。

 なので、そんな経験を積んでいくことによって、わたし、世の中には面白くないゲームは存在しない――と思うようになっていったのです。

 何度でも言いますが、もちろん例外はありますよ。面白さなんか度外視した志が低いゲームがあることも知っています。

 それでも、多くのゲームは、たとえ自分が楽しめなかったとしても、プレイする人によって、ものすごーく面白いゲームだったりする可能性が高いので、「世の中には、面白くないゲームは存在しない」といい続けようかな――と、そんなことを思うようになった次第なのです。

(2018/07/09)

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