野安の電子遊戯工房 ~SNSがもたらしたオタクの可視化と、それに伴う世の中の変化~


 いま思うと、とんでもなく的外れな分析だったことは明白なんだけど、その昔、"オタク"というのは「男子の属性」だと思われていた時代があったんですよね。

 かつて、"オタク"というのは、一般的には「アニメやコミックなどの趣味に没頭する男子」を指す言葉だったんですよ。20世紀あたりまでは。女子の"オタク"なんてものは、ほとんど存在しなかったかのように語られてたりしたんです。

 とんでもない話ですよね。

 そもそも、少女マンガというジャンルが存在しているのだから、マンガに親しんでいる女子がたくさんいることなんか、データ上からも明白ですもんね。存在しないことにしてどーする、という話です。




 このように、"オタク"には男子しかいない——とまではいかなくても、圧倒的に男子が多いかのように世間一般で認識されていたのは、男子の"オタク"が、かなり以前から、きちんと可視化されていたからなのでしょう。

 かつて、男子は、ほぼ全員が働きに出たし、出産・育児などで家に居続けることもなかったし、金銭的にも女子よりも多くのお金を得られていました。そういう社会だったわけです。

 だから男子のほうが、いろんな場所に顔を出す機会が、自然と女子よりも多くなり、なので「へえ。こういう趣味のヤツがいるんだぁ」と、世間から発見されやすかったのでしょう。

 特定の趣味に没頭している男子は、たくさんいる——ということが世の中に発見されてしまっているので、無理に隠す必要はなく、だから男子は「特定の趣味に夢中であること」を、それなりに堂々と口にすることができたのでしょう。その一方、女子は、それを口にすることを、なんとなくためらっていた傾向があったのだと思います。女子がオタク的趣味に夢中になっていると、変なヤツと思われかねない——という不安を感じなくてはいけない時代があったわけです。

 わたしの体験談になりますが、20年くらい前に、ゲーム関連のオフ会などに顔を出したら、そこには当然のように女子も参加していたわけですが、いざ会話していると、けっこうな比率で、ゲーム好きであることを彼氏には隠していると笑っていました。なので、好きなゲームが発売されると、「風邪を引いてしまって家から出られないことにしている」という嘘をついたりしていたようです。ああ、女子って大変だなぁ、と思ったものです。




 でもまあ、時代は変わりました。

 SNSを通じて、誰もが自分の趣味について発信するような時代がやってきたからです。

 そしたら、なんのことはない、「特定の趣味に没頭しているタイプ」というのは、男女関係なく、たくさんいることが、きちんと可視化されたわけですよ。この結果、日本という国は、男女を問わず、みんな"オタク"であることが世間一般に周知されたといっていいでしょう。

 いい時代になったものだなぁ、と、心から思います。




 ただ、世の中がみんな"オタク"であることが周知され、つまり自分がどれほど特異なジャンルに夢中になっていたとしても、必ず同志が発見できてしまう時代が到来したことにより、ネット上には、ちょっとした変化が起きているような気がしています。

 ひらたく言うと「説明する人」が減ったんですよね。

 かつては、何か話題になったコンテンツがあると、「この作品は、こういうところが魅力的で、ファンたちはこんなふうに楽しんでおりまして~」と、その作品(やジャンル)を知らない人に向けて解説するような文章を目にすることがあったんだけど、そういうの、最近、ちょっと減っているような気がします。

 そんなことしなくても、かんたんに同志を発見できるからかもしれません。

 こうして、ネット上には「すでに知っている人に向けて語る言葉」ばかりが増えてきたなぁ——と、そんなふうに分析している昨今です。




 それが「いい」とか「悪い」とか言っているのではないですよ。そういう時代になったのだなぁ、と思っているだけです。

 ただコンテンツの作り手側になって考えると、昔のように「いい作品さえ作れば、その作品の魅力を、まだ知らない人に向けて広報してくれる人」が減ったというこになりますから、ちょっとだけ大変になってきているのかもしれないなぁ、とは思います。

 つまりSNSが普及した今は、コンテンツ制作側が、自ら「これは、こういうところが魅力的ですよ!」と、ちゃんと解説しないといけない時代になっているのかもしれませんね。なんか無難なオチになりましたが、まあ、本日はこんなところで。

(2018/03/26)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?