ワールドカップ2014の考察(2)~12のスタジアムの気温差について~

ちょっと気になったので、ワールドカップの気温について考えてみた。

まずは、ワールドカップの試合が行われた12の都市の「6月の平均最高気温」をWiKipediaで調査してみた。涼しい順に並べてみよう。

クリチバ     18.3度
ポルトアレグレ  19.4度
サンパウロ    21.7度
ベリオリゾンテ  25.0度
リオデジャネイロ 25.0度
ブラジリア    26.0度
サルヴァドール  26.5度
ナタール     28.0度
レシフェ     28.8度
フォルタレザ   29.6度
クイアバ     30.7度
マナウス     31.0度

下に行くほど気温が高く、「過酷なスタジアム」ということになる。もちろん、2014年が例年通りの気候だったとはかぎらないし、最高気温だけじゃなく最低気温、さらには湿度や降水量なども「環境の過酷さ」に影響するのだろうけれど、あまり細かく考えないことにする。

とりあえずは、6月平均最高気温が高いほど、過酷なスタジアムだ! そんなシンプルな考え方が正しいという前提をもとに、今回のワールドカップについて、いろいろ考えてみようと思うのだ。


まずは、この数値をもとに、データを分析していこう。日本を例にして考えてみる。日本はレシフェ、ナタール、クイアバで試合をした。この3都市の「平均最高気温」は、それぞれ

レシフェ    28.8度
ナタール    28.0度
クイアバ    30.7度

だから、その平均をとると29.2度となる。これが日本の「GLを戦った都市の平均最高気温の平均」だ。名称が長くなってしまったので、この数値を、ここからは「GL気温」と呼ぶことにする。

日本のGL気温は29.2度だったのだから、かなり酷暑の3試合をこなしたことわかる。では、日本以外の国は、どうだったのだろう? ちょっと調べてみよう。



まずはグループCの4か国のGL気温を並べてみる。

コロンビア 27.2度
ギリシャ  27.5度
コート   28.1度
日本    29.2度

おお。GL気温の低い順に並べたら、見事なまでに成績順になった。ブックメーカーなどの事前予想では、「コロンビアが本命。残り3か国は僅差の争い」といった下馬評だったわけだが、その僅差の優劣を分けた要因は「より涼しいスタジアムで試合をできたかどうか」だったのかもしれない。

中でも、日本がもっとも酷暑での試合を強いられていたわけで、となると、やはり日本の成績がふるわなかつた最大の敗因は「くじ運の悪さ」にあったといっていいのだろう。

言い訳するなよ! もともと酷暑の大会であることはわかってたんだから、この暑さを乗り切る力がなければ、ベスト8とかベスト4などの上位には進めないんだよ! という意見もあるだろう。

でも、それは間違いなのだ。12都市の平均最高気温を調べたかぎりにおいて、今大会は、けして酷暑の中の大会ではない。「酷暑の試合ばかり」だった日本戦を中心にワールドカップを見ているから、そう感じるだけなのだ。



ためしにベスト4に残った国を見てみよう。それぞれの国のGL気温を並べてみる。

オランダ   22.5度
アルゼンチン 23.1度
ブラジル   25.8度
ドイツ    28.3度

……ほら。「GLで、暑い地域での試合で苦しんだ」と紹介されることの多いドイツですら、日本よりも良好な環境だったことがわかる。それ以外の3ヵ国にいたっては、そこそこ涼しい気温の中で試合をしてきた国ばかりだ。

ベスト4に「強い国が残った」というのはまぎれもない事実なのだけれど、より正しくは「強い国の中で、疲弊することの少ないスタジアムで試合をしてきた国」が残りやすい大会だった、ということなのだ。

ベスト4に残るほどには下馬評が高くなかったオランダが、すいすいと勝ち残ってきたのは、オランダのGL気温が22.5度(32ヵ国中でも2番目の低さだ!)と、他国よりも疲弊していなかったからなのだろう。だから他国と比べても選手に怪我人が少なく、みんな元気で、決勝Tでもロッベンは走りまくれたというわけ。120分の試合で、最後にキーパーの交代枠を残すという奇策が使えたのも、このためだ。

アルゼンチンのGL気温23.1度というのも、全体で6番目の低さだ。まったく運動量のないメッシを、他の10人の運動量でカバーするという「歪な戦術」でありながら、それでも破綻せずに勝ち残れているのは、他国よりも良好な気候のもとでの試合が多かったからだろう。この有利さを最大限に生かし、ついに決勝まで駆け上がったのである。

……と考えていくと、GL気温28.3と、全体で5番目に劣悪な気候の元でGLを戦いつつ、きっちり決勝まで勝ち残ったドイツの凄さには、あらためて驚かされる。この国は、ほんと化け物であるよ。



今度は、準々決勝で去ることになった4ヵ国を見てみよう。同じようにGL気温を並べてみる。

フランス   23.6度
ベルギー   23.9度
コロンビア  27.2度
コスタリカ  27.8度

ベスト4の国と比べると、ややGL気温が高い国が目立ってきた。どうやら準々決勝に「GL気温27度」の壁があったようだ。それを超えていた2ヵ国は、ここまでは善戦したものの、ついに体力切れとなったのだろう。(何度もいうが、ドイツだけは、その壁をぶち壊して勝ち進んでいるけれど)

こうしてGL気温を見てみると、今大会でベルギーが躍進した秘密も見えてくる。ベルギーはGL気温が低く、ほとんど疲弊しないまま決勝Tに進んできた。しかも決勝Tの初戦の相手は、疲労困憊のアメリカ(GL気温は、32ヵ国中の最悪の29.3度)であり、ここも下すことができたのだ。

ただ、準々決勝の対戦相手が「ベルギー以上に涼しいスタジアムばかりで試合をしてきたアルゼンチン(GL気温は23.1度)」だったのが運のつき。しかもアルゼンチンの決勝Tの1回戦の会場は、6月の平均最高気温が21.7度のサンパウロだった。ベルギーは、まったく疲弊していないアルゼンチンと激突し、倒されたのである。



ちなみに、もっともGL気温が低かった国は、どこだったのか?

アルジェリアだ。その数値は、驚きの20.9度である。なんだよそれ。10月の関東地方の平均最高気温くらいじゃないか。日本は平均29度オーバーの都市での3試合をこなしていたというのに……。

そんなデータを知っておくと、決勝Tの1回戦で、アルジェリアがドイツに善戦できた理由が見えてくる。アルジェリアは、GLでもっとも疲労していなかった国だ。しかもGL最終戦は、12都市の中で、もっとも涼しいクイチバでの試合(平均最高気温は18.3度)だった。

一方のドイツのGL気温は28.3度。しかもGL最終戦は、平均最高気温28.8度のレシフェでの試合だった。疲労度の差は歴然。あのドイツが「延長戦で、アルジェリアよりも先にバテてしまい、あわやPK戦に持ち込まれそうになった」という失態を演じたのは、これが大きな要因なのだろう。

逆にいうと、それほどのハンデを背負いながらも勝ち切ってみせた、ドイツの底力がわかる試合だったともいえる。ドイツは決勝Tの2戦目でも、GL気温23.6度と、自分たちよりも疲労が少ないフランスを相手に苦戦しつつ、きっちりと逃げ切っている。

ただ、いつもは憎らしいほど安定しているドイツなのに、決勝Tの1、2試合目では、最後の砦であるノイアーが目立っていた。これは決勝Tに入り、つねに「相手よりも疲労度が高い」というハンデを背負いながら戦っていて、だからノイアーのところまで攻め込まれているということなのだろう。



さらに、ベスト16で散った8か国のGL気温も見てみよう。

アルジェリア 20.9度
ナイジェリア 22.8度
チリ     25.8度
ウルグアイ  26.4度
ギリシャ   27.5度
スイス    27.8度
メキシコ   28.8度
アメリカ   29.3度

ベスト4進出国や、ベスト8で敗退した国と比べると、さらにGL気温が高めの国が目立ってきた。あらためて書くが、ベスト4に残った4ヵ国の中で、3番目にGL気温が高かったブラジルでさえ、GL気温は25.8度だ。ここで去った8ヵ国は、「気温が高い中で、ものかごくがんばったけれど、ついに力尽きたのだろう」と分析してもよさそうだ。

惜しかったのはGL気温が22.8度で、つまり体力が温存されていたはずのナイジェリアだろう。しかし決勝Tでの対戦相手は、こちらもGL気温23.6度と、さほど疲労していないフランスだった。もっとGL気温が高い国と激突していれば、ベスト8に行けたかもしれない。

あと、特筆すべきはアメリカだろう。GL気温は驚異の29.3度。これは日本よりも高く、32か国中でトップタイ(もうひとつはイタリア)の過酷さだった。疲労しまくるGLを戦い、きちんと突破し、決勝Tに進んできたのだから、大拍手である。



というわけで、結論。

今大会では、GL気温が高かった国――つまり酷暑のスタジアムでの試合を強いられた国は、のきなみ「希望していたよりも下の成績」で脱落させられた大会だった。思っていたよりも上の成績に行けたのは、「そこそこ涼しいスタジアムでの試合を割り当てられた国」ばかり。そういう大会だったのだ。

身も蓋もないことをいうならば、今回のワールドカップで上位に進出したければ、「GLで、涼しいスタジアムでの試合が割り当てられる」という「くじ運」を持っていることが絶対条件だったのである。

日本は、GL気温が25~6度のところに振り振られたなら、ベスト16やベスト8まで行けたかもしれない。22~3度のところなら、さらに上も目指せたかもしれない。ヨーロッパ遠征でベルギーやオランダと互角にやりあえたことからもわかるように、いまの日本サッカーは、「走り回れる気温」の中でなら、そこそこの強国とでも渡り合えるからだ。

しかし29.2度では無理だ。日本の武器である運動量で勝負することが不可能になり、すると個の力(とくにDF)の差が出てしまう。日本の良さが、まるで出せないのである。



だから残念な結果になってしまったけれど、これほど酷暑の(しかもスタジアムによって極端な有利不利がある)大会は、めったにないことなのだから、今回は「運が悪かった」と分析しても、たぶんバチは当たらないと思う。

原因は酷暑にあるのだから、たとえ結果が出なかったからといって、これからの進化の方向性を変える必要はない、ということだ。

GL気温が28度を超えた国は7つあるものの、ベスト8まで進めたのはドイツだけなのだ。GL気温が29.2度と、ドイツよりも過酷なGLでの試合を強いられた日本が、目標であるベスト8まで進みたかったのであれば、「いまのドイツよりも、もう少し上のレベルの戦闘力を持つ」しか方法はなかったということ。無理ゲーにも、ほどがある。

まあ、将来的には目指す目標なのかもしれないが、まだまだ先の話だろう。ならば、しばらくは、いまの方向性での成長を目指すのが、もっとも正しいことなんだと思う。



最後に、すべての国のGL気温を紹介しておく。グループごとに、数値が低い順に並べておいた。


グループA

○ブラジル  25.8度
●クロアチア 27.2度
●カメルーン 28.3度
○メキシコ  28.8度

三ヵ国のGL気温が27度を越えており、開催国ブラジルだけが圧倒的に有利だったことがわかる。ブラジルの突破は順当過ぎる結果といえるだろう。そんな中、気温のハンデを乗り越えてGLを突破したメキシコは立派のひとこと。ただしGLで疲弊したためか、ベスト16で散ることに。


グループB

○オランダ    22.5度
●オーストラリア 22.8度
●スペイン    23.3度
○チリ      25.8度

かなり涼しいスタジアムに恵まれたグループ。もっともGL気温が低かったオランダが順当に勝ち抜けた。なお、スペインが敗退したとき、「今大会は、強国が酷暑にやられる大会だなぁ」みたいな声もあったが、スペインは涼しい地で戦ったのに、勝手に自滅しただけである。本当に酷暑に見舞われたイタリアなどは「いっしょにするな!」と激怒していい。


グループC

○コロンビア 27.2度
○ギリシャ  27.5度
●コート   28.1度 
●日本    29.2度

他グループと比べても、GL気温の高さが尋常じゃない。その中でも、最も酷暑での3連戦を強いられた日本は、ほんと、くじ運が悪すぎたということ。このグループは、どこも疲労度満点のゲームになってしまい、結果として、GL気温が低い2国が突破していきましたとさ。


グループD

●イングランド 25.9度
○ウルグアイ  26.4度
○コスタリカ  27.8度
●イタリア   29.3度

イタリアだけが大不運に見舞われていることがわかる。このGL気温の高さゆえに、イタリアは撃沈したのだ。こうしてみると、イングランドはGL気温が低く有利だったはずなのだが、初戦に酷暑のマナウスで試合をし、そこで溜めた疲労が抜けきらないまま連敗したのが運のつき、だったようだ。


グループE

●ホンジュラス 22.9度
●エクアドル  23.1度
○フランス   23.6度
○スイス    27.8度

スイスが圧倒的不利をはねのけて、GLを突破したのは立派のひとこと。ホンジュラスとエクアドルが不甲斐なかった、ともいえる。GL気温が高い2ヵ国が勝ち抜けることになったけれど。上位3ヵ国の気温差は小さいので、実力あるフランスの1位抜けは順当ともいえる。


グループF

○ナイジェリア       22.8度
○アルゼンチン       23.1度
●イラン          23.3度
●ボスニア・ヘルツェゴビナ 27.4度

気温面での不公平さが際立つグループ。いくらなんでも、ボスニア・ヘルツェゴビナが不利すぎるだろう。アルゼンチン、ナイジェリアと競い合ったものの、気温差のハンデは覆せなかったということか。こうして、なんのかんのあったけれど、GL気温が低い2か国が順当に抜けた。


グループG

●ポルトガル 27.8度
●ガーナ   27.9度
○ドイツ   28.3度
○アメリカ  29.3度

グループCに匹敵する酷暑に見舞われたが、4か国のGL気温の差がもっとも小さく、つまり「もっとも公平なグループ」だったといえる。だからドイツが順当に勝ち抜けたが、酷暑による疲労は蓄積していたようで、決勝Tの1、2回戦で「らしからぬ大苦戦」をしたのは、みなさんご存知の通り。


グループH

○アルジェリア 20.9度
○ベルギー   23.9度
●韓国     23.9度 
●ロシア    24.7度

涼しさに恵まれたグループ。こうしてみると、GL気温が突出して有利だったアルジェリアが、決勝Tに進出したのも納得である。疲労度がまるで違ったことだろう。ベルギーともども、決勝Tで「力を出し切って、納得して散る」ことができたのも、GLで疲弊しなかったからだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?