ワールドカップ2014の考察(1)~有利なスタジアム・鬼門のスタジアム~

ワールドカップ2014・ブラジル大会は、「割り当てられたスタジアムによって、大きな有利不利が生まれた大会」であるようだ。

ブラジルの国土は南北に広い。ほぼ赤道直下のマナウスと、南緯30度あたりのポルトアレグレでは、大きな気候の差があり、1試合あたりの疲労度が大きく違ってくる。

このため、「直前に涼しいスタジアムで試合をした国」と「直前に酷暑のスタジアムで試合をした国」との対戦では、一方が大きなハンデを背負うことになるのである。

ためしに、スタジアムごとに「そのスタジアムで試合をした国の、その直後の試合の成績」を調べてみたところ、「次の試合で勝ちまくれるスタジアム」がある一方、「次の試合で、苦戦しまくるスタジアム」があることが、驚くほどクッキリと見えてきた。

せっかく調べたので、ここで紹介することにする。

まずは「そのスタジアムで試合をした直後に、いい成績を出している」という、いわば有利なスタジアムを、データとともに紹介しよう。

(注:この文章は準決勝前に書かれたものであり、その時点でのデータに準拠しています)



有利さ1位 サンパウロ(アリーナ・デ・サンパウロ)

 6月平均最高気温 21.7度
 6月平均最低気温 12.3度
 6月の月間降水量 60.0mm     (Wikipediaから抜粋。以下同)

もっとも有利なスタジアム。今大会は「酷暑の大会」と思われているが、ここは違う。涼しい気候のスタジアムなのだ。

すでにグループリーグ4試合、決勝Tの1試合が行われたが、そのピッチに立った国の「次の試合での敗北はゼロ」である。成績は5勝3分。試合をするチームを疲弊させず、ゆえに「次の試合における驚異的な勝ち運を授けるスタジアム」とでも呼ぶべき存在になっているのだ。

たとえば今大会で、開催国ブラジルをもっとも苦しめた国といえば、チリで決まりだろう。決勝T初戦でブラジルと激突し、PK戦で涙を飲んだが、120分の死闘を演じ、開催国を相手に引き分けに持ち込んでいる。このチリのグループリーグ最終戦、つまり直前の試合がサンパウロだった。あの死闘は、チリの疲労度が低かったからこそのドラマだったのである。

なお、この良コンディションのスタジアムは、準決勝の「オランダ-アルゼンチン」の舞台でもある。


有利さ2位 ベリオリゾンテ(ミネイロン)

 6月平均最高気温 25.0度
 6月平均最低気温 13.4度
 6月の月間降水量 14.1mm

ここも驚くくらい有利なスタジアム。最高気温は25度まで上がるものの、夜には13度前後まで下がるのだから快適である。他の都市と比べても月間降水量が圧倒的に少ないようで、天気の安定度ではナンバーワンかもしれない。

これまでにGL4試合と決勝Tの1試合が行われたが、このピッチに立った国の次の試合の成績は5勝2分1敗。ひとつだけ敗北があるのが画竜点睛を欠くところだが、これが「イランのGL3戦目」であることを知れば、その疵には目を瞑ってもらえるだろう。

恐ろしいのは、2引き分けの内容だ。そのうちのひとつが「10人になりながらのPK戦での勝ち抜け」となったコスタリカ-ギリシャ。もうひとつが「10人になりながら粘りの90分ドロー」となったギリシャ-日本なのである。このスタジアムは選手を疲弊させず、その国に「次の試合で、なにがあっても負けない運」を授けるのかもしれない。

ちなみに、ここは準決勝「ブラジル-ドイツ」の舞台でもある。


有利さ3位 フォルタレザ(カステロン)  

 6月平均最高気温 29.6度
 6月平均査定気温 22.1度
 6月の月間降水量 160.1mm

上記の2都市とは違い、ほぼ赤道直下にある酷暑のスタジアム。このようなスタジアムではチームが疲弊し不利になる、というのが今大会の一般的な傾向なのだけれど、ここだけは例外。このピッチに立てた国は、じつは大ラッキーだった。

その秘密は試合順にある。GL4試合が行われたが、そのうちの3試合は、戦った6ヵ国が、その次に「直前に、最大の鬼門・マナウスで戦った国」との試合を組んでもらえていた。詳しくは後述するが、マナウスこそが「鬼門中の鬼門」であり、チームを疲弊させまくるスタジアムなのである。

この6ヵ国は、フォルタレザでの試合で疲労させられたものの、次に「より疲労したヘロヘロのチーム」との対戦になっていたため、そこで5勝1敗という好成績をマークすることに成功。ここで勝った5ヵ国は、すべて決勝Tに進出している。

ここで試合をしたのに、幸運を引き当てられなかったのは、GL3戦目で試合をしたギリシャくらいか。疲労を抱えて決勝Tに進み、負けこそしなかったものの、10人になった相手を崩せずに、PK戦で涙を飲んだ。ちなみに、その相手は、直前に涼しいスタジアム(ベリオリゾンテ)で試合をし、疲労度が低かったコスタリカだった。



さて。このような「そのスタジアムで試合をすると、その次の試合の成績がよくなる」というスタジアムがあれば、その逆に「ここで試合をすると、次の試合で苦戦しまくる」スタジアムも存在する。

というわけで、ここからは、そんな「鬼門のスタジアム」も紹介しよう。こちらは北部(赤道に近い場所)に固まっている。酷暑のため疲労してしまい、次の試合は、ぐずぐすの内容になってしまうのだと推測できる。



鬼門度1位・マナウス(アレーナ・アマゾニア)

 6月平均最高気温 31.0度
 6月平均最低気温 23.0度
 6月の月間降水量 113.6mm

疑いの余地なく、今大会ナンバーワンの鬼門。アマゾンのど真ん中にある、ほぼ赤道直下のスタジアムである。平均最高気温がダントツに高いのみならず、平均最低気温が23度(サンパウロの平均最高気温より高い!)という過酷な環境が、訪れたチームを疲弊させた。

ここではGL4試合が行われたが、このピッチに立った国のその直後の試合結果は1勝6敗と散々だった。疲弊度が半端じゃないのだろう。このスタジアムで試合をした8ヵ国中、6ヵ国がGLで消えてしまった。

しかもイタリア、イングランド、ポルトガル、クロアチアといった強豪国・中堅国の決勝T進出を潰しているのだから、その鬼門っぷりは凄まじいばかり。決勝Tに進んだ2ヵ国もべスト16で消えており、ここで試合をするクジを引いてしまった国は、運が悪かったとあきらめるしかない。


鬼門度2位・レシフェ(アレナ・ペルナンブーコ)

 6月平均最高気温 28.8度
 6月平均最低気温 21.6度
 6月の月間降水量 389.6mm

マナウスと肩を並べるほどの鬼門スタジアム。最大の鬼門・マナウスと比べると涼しく感じるかもしれないが、サンパウロの平均最高気温が21.7度なのだから、その過酷さがわかるはず。昼も夜も暑く、しかも12都市中でダントツの降水量を誇り、天気は不安定であるようだ。

GL4試合、決勝Tの1試合が組まれたが、このピッチに立った国で、直後の試合に90分で勝利した国は、ひとつとして存在しない。

これはドイツですら例外ではなく、GL最終戦をここで戦ったドイツは、決勝T初戦でアルジェリア相手に大苦戦を強いられている。どうにかこうにか延長戦で振り切ったものの、レシフェの直後の試合で勝利したのはドイツだけであり、他国の成績は3分(コスタリカの延長PK負けを含む)4敗となっている。

今回のWCで、日本に運が向いていなかったとすれば、この鬼門スタジアムが初戦に割り当てられ、つまり「もっとも勝ち点を計算したかったギリシャ戦が、この鬼門のスタジアムの直後の試合」になってしまったことに尽きる。初戦を涼しいスタジアム(ベリオリゾンテ)で試合をしてきたギリシャは、日本ほど疲弊しておらず、ゆえに10人になっても90分を逃げ切ることに成功したのだ。


鬼門度3位・ナタール(ドゥーナス)

 6月平均最高気温 28.0度
 6月平均最低気温 21.0度
 6月の月間降水量 210.0mm

日本ではGL2戦目の舞台として有名。世界的にはスアレスの噛みつき事件があったスタジアムとして有名だろうか。ここも、なかなかの鬼門といえる。

3番目に赤道に近いスタジアムであり気候は酷暑。レシフェと同じく降水量が多く、つまり「雨がちの湿った空気のまま、延々と一日中暑い」という環境であるようだ。GL4試合が組まれたが、ピッチに立った8ヵ国の、その直後の試合の成績は1勝3分3敗と散々なもの。直後の試合で勝利したのはギリシャだけである。

こうしてみると、日本は1戦目と2戦目で「酷暑の鬼門スタジアム」での連戦を強いられ、めきめきと疲弊させられたのだなぁ……ということがわかってくる。これが無勝利に終わった最大の要因なのだろう。今大会の日本は、かなり「くじ運が悪い国」だったのである。


鬼門・番外編 クリチバ(アレナ・ダ・バイシャーダ)

 6月平均最高気温 18.3度
 6月平均最低気温 7.8度
 6月の月間降水量 98.1mm 

とくにチームを苦しめたわけじゃないけれど、番外編として紹介したいスタジアムがここ。というのも、ここでGLの試合をした8ヵ国中、決勝Tに進んだのはアルジェリアとナイジェリアだけという、なんだかなぁ……なスタジアムだからだ。

気候的には「もっとも涼しい」スタジアムであり、観客はさぞかし素晴らしい試合が楽しめたのだろう……と思いきや、そもそも強国がほとんど訪れなかった。上記2か国の他には、イラン、オーストラリア、韓国、ホンジュラスといった、いわゆる「アウトサイダー」たちの試合ばかりが組まれたスタジアムなのだ。

ここで試合をした強国といえばスペインのみ。ここで試合をした南米の国はエクアドルのみ。そのスペインもエクアドルもGLで消えてしまったわけで、このあたりに住む人は、なんか盛り上がらなかったなぁ……と思っているかもしれない。



というわけで、スタジアムによる有利不利のお話でした。

日本の惨敗を受けて「選手選考が悪かったのでは」「監督が悪かったのでは」「戦術が悪かったのでは」など、なにが悪かったかの要因探しが始まっている昨今だが、こうしてデータを見てみると、究極的には

「くじ運が悪かった」

というのが、もっとも正しい分析なのだと思う。今大会は、どこが対戦相手なのか? ではなく、どのスタジアムで試合をするか? が明暗を分けたのだ。GLの1、2戦目に鬼門スタジアムを引き当ててしまったことが、日本にとって最大の不運だったといえる。


ちなみに、GLの初戦・2戦目で、ともに鬼門スタジアムを引き当てるという不運に見舞われたのは日本だけではない。あと3ヵ国ある。

ひとつがカメルーン。初戦マナウス→2戦目ナタールという試合順で疲弊させられ、最終戦の相手は開催国ブラジルだった。今大会で最悪のくじ運に見舞われた国といっていいだろう。GLで敗退した。

もうひとつがイタリア。初戦マナウス→2戦目レシフェ→3戦目ナタールという、鬼門をコンプリートしていく強烈なスケジュールだった。しかも3戦目の相手は、強敵のウルグアイだ。そのウルグアイの2戦目は「有利さナンバーワン」のサンパウロでの試合だったのだから、もはや勝ち目なし! である。そこで「噛つかれて、試合に負け、GLで消えることになった」のだから、踏んだり蹴ったりである。

ただし、ナタール、マナウス、レシフェの3大鬼門すべてで試合をしつつ、決勝Tに進んだ国もある。アメリカだ。なんだよヤンキー魂には、鬼門とか関係ないのかよ! と叫びたくなるような逞しさである。ただし疲労の蓄積は隠せなかったようで、決勝T初戦でベルギーに屈している。


ちなみに、スタジアムの有利不利という視点から、開催国ブラジルのスケジュールを見ていくと、なんとも「うまくできている」ことに気付く。

開催国だけは、くじ引きの前に、どのスタジアムで試合をするかが確定している。よく見ていくと、GL初戦から決勝に至るまで、一度として酷暑の鬼門スタジアムに足を踏み入れないような絶妙なスケジュールになっているのだ。対戦相手こそわからないものの、GL2戦目は「初戦で鬼門ナタールの試合をした国」との対戦、GL3戦目は「2戦目で鬼門マナウスで試合をした国」との対戦であることも、最初から確定していた。

また、GLを1位抜けした場合は、準決勝までの6試合でサンパウロ、ベリオリゾンテ(2回)、フォルタレザ(2回)と、有利なスタジアムで5試合を行える。2位抜けでもサンパウロ(2回)、フォルタレザ(2回)と、有利なスタジアムで4試合が行えるようになっていた。

なるほど、準備は万全だったわけだ。さすがはサッカー大国。ぬかりはなかったようである。

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