「ポケモンGO」に関して語りたいこと・その4 ~ポケモンは言語を越える~


 「ポケモンGO」のムーブメントを見て、位置情報ゲームというムーブメントを「新しいビジネス」として発展させるにはどうすればいいか? みたいな言説も、ちらほらと聞こえるようになりました。

 たとえば「違うキャラクターに置き換えたゲームを作れはいいじゃん」みたいなやつですね。中国とか韓国、ロシアなどでは、実際にそんな動きがあるとも聞いています。でも、それらのゲームはヒットしないでしょう。

 これは、中国や韓国、ロシアなどには、人気キャラクターがいないから――ではありません。どれほど人気キャラクターであっても、「ポケモンGO」と同じ仕組みのゲームに仕上げるのは困難です。ぶっちゃけ、全世界的キャラを持つディズニーであっても、大作映画がガンガン作られるような人気アメコミヒーローであっても、それらを現時点での位置情報ゲームと組み合わせてみても、「ポケモンGO」ほどの全世界ヒットは、ほぼ不可能です。

 なぜかというと、テレビゲームは、言語の壁との戦いだからです。


●喋らないのに愛されるキャラクター

 「ポケモン」というコンテンツが持つ最大の特徴は、その世界の中で、言語が不要なことです。

 ピカチュウは「ピカ!」としか言いません。言葉をしゃべらないんです。にもかかわらず、心と心が通じ合うんだ――という世界での物語であることが、「ポケモン」というコンテンツの最大の特徴です。ゆえに「ポケモン」は言語や文化や宗教を越えて、世界中でヒットしたんです。「しゃべらないキャラクターと交流する」という楽しさに、言語は無関係ですからね。言葉がおぼつかない年齢の子供も、楽しむことができるのです。

 ふつうのキャラは、そうはいきません。みんな喋るからです。そうすると「言語の壁」を越えるのは難しくなります。全世界の、あらゆる言語の人に愛されるようにするためには、たとえば「アナと雪の女王」でディズニーがやったように、数十もの言語による主題歌の吹き替えバージョンを作る、といった壮絶な力技が必要になるからですね。

 つまり、位置情報ゲームという、全世界を網羅して遊べるところに魅力がある仕組みの中では、街の中で「しゃべるキャラ」を出現させるのは、きわめて難しいってことです。全世界展開するときには、出現する国に合わせて(あるいはスマホ所有者の国籍に合わせて)数十もの言語に翻訳する、といった力技が必要になるわけで、あまりに労力がかかりすぎます。ビジネスとして成立しにくいと思います。

 「ポケモンGO」の世界的大ヒットの理由は、それが「ポケモン」だからなんですよ。しゃべらないキャラたちんがいて、全世界の人が「街の中に出現する」だけで嬉しい気持ちになってくれて、「それをゲットする」というシンプルな構造のゲームになっていても、それを自然に受け入れてくれる世界観があるからこそ、「ポケモンGO」は全世界で、年齢を問わずにヒットしたんですね。


●位置情報ゲームはローカル化していく

 なので今後、「ポケモン」にかわるキャラクターが位置情報ゲームの主役になって全世界を熱狂させる――というシナリオは、あまり現実的ではありません。むしろ、限定的な地域内における、ローカルな位置情報ゲームがたくさん作られていく――という方向に発展していくはずですよ。


 ・特定のテーマパークの中でのみ遊べる位置情報ゲーム

 ・映画のロケ地でのみ遊べる位置情報ゲーム

 ・アニメの聖地でのみ遊べる位置情報ゲーム

 

 みたいなアプリが、順次作られていくんじゃないかな、と想像します。

 やや大規模なものをイメージするなら、熊本の観光地を巡っていると、要所要所でスマホが反応。くまモンが出てきて、その観光地の説明をしてくれる、といった形のアプリでしょうか。すごく便利な観光ガイドアプリというか、美術展における音声ガイドの広域版アプリというか、そんなやつですね。そこに、なんらかのゲーム的要素が付加される、といった発展をするんじゃないかなぁ。

 個人的な要望としては、2020年のオリンピック開催あたりを目指して、その雛型となるアプリを、国主導で作っちゃえばいいのになぁ――と思っています。配置するキャラとか、表示される内容とかは、それぞれの自治体の観光課が自由に編集できるようにすればいい。日本を訪れた観光客のみなさんは、1本のアプリをダウンロードするだけで、地域ごとに違ったキャラが出てくる観光ガイドを入手したことになる、みたいな形になるわけですね。

 これ、日本全国でやるとなると、なかなかの大プロジェクトだけど、4年あれば作れるんじゃないかしらん? 誰か作ってくれないかなぁ。


●「ポケモンGO」詐欺を懸念する

 さて。ここで忠告というか、警告というか。

 「○百万円あれば、『ポケモンGO』の中で、あなたの地域にご当地キャラを出現させるよう口利きできますよ。町おこしとして効果抜群ですよ。いかがです?」――みたいな詐欺事件が、どこかの自治体で起きるかもしれないなぁ……と心配しております。

 そんな提案は100%詐欺です――とは言わないけれど、99.999999%くらいの確率で詐欺です。だって、必要な金額の桁が、少なくとも3つほど違います。

 「○百万円あれば、あなたの街の映画館で上映される『スター・ウォーズ』新作に、ご当地キャラを出演させられますよ」という提案をイメージしてみると、わかりやすいでしょう。昨今の映画のキャラはCGで作られているから、ご当地キャラを登場させた1本だけのオリジナルフィルムを作ることも、物理的には可能だけど、そんなもん、数百万円でやってくれるはずがありません。

 そんな、はした金で「これまで数十年かけて、膨大な労力を費やして組み上げてきた世界観を壊すようなこと」は、絶対にしてくれませんよ。全世界的コンテンツってのは、そういうもんです。「ポケモンGO」も同じです。

 ありうる可能性としては、たとえば「巨大災害に見舞われ、復興を目指す地域」などに対して、観光促進のため、そこにレアなポケモンを出現させてくれる――みたいなパターンくらいでしょう。ただ、その場合、運営側はお金は取らないでしょうし、逆に寄付してくれると思うので、「口利きしますよ」みたない人が出てきたら、やっぱり詐欺だと考えていいでしょう。


(この項続く)

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