野崎かおる

1973年東京生まれ。男性。仕事でしか文章を書かなくなって久しいので、自分の言葉を取り…

野崎かおる

1973年東京生まれ。男性。仕事でしか文章を書かなくなって久しいので、自分の言葉を取り戻すためにnoteを始めました。

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  • 旅する日本語

    旅する日本語2019のために投稿した11本をまとめました。

  • 出会いは証明書を付けて

    40代男性がネット婚活サービスを使って2ヶ月で8人の女性に会った体験記です。誰かの役に立ちますように。

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雨の砂、虹の雪

師走の鳥取駅から出発したバスは、ボツボツと降る粗い雨の中を砂丘へと走った。 やがて車窓を強風が叩き始め、潮の匂いがするバス停で降りると雨は止んでいた。分厚い雲が海に追いやられて青空が広がる。 砂丘に足を踏み入れると、前夜に降った雪で砂一面が真っ白に覆われていた。クレイジーだ、と僕は思った。こんなにも美しい風景が見られるなんて。 海に向かって雪と砂を踏みしめていると、またボツボツと雨粒が落ち始め、足元の雪が溶け出した。 感情がわからない。たぶん、僕は考えても仕方がないこ

    • 2023年のライフログ:ソフトウェア・アップデート

      1月:再起動 昨年末に予約していたクリスチャン・ディオール展。ファッションデザイナーの回顧展というテーマからは想像がつかないチームラボ的なキュレーションが見事。 2020年の居石岡瑛子展でも感じたけれど、東京都美術館の空間演出はファッションを「体験」させるのが本当に上手い。 東京美術館のエゴン・シーレ展はシーレ自身の作品が少なくて驚く。 飛び込みで見学した原宿のルイ・ヴィトン×草間彌生イベントはヴィトンのスタッフ様の知識量や提案力に圧倒される。 ※ 第三回目調

      • 2022年のライフログ:夜に歩き、昼に歩く

        1月:きっかけ年明け早々、48歳にして人生初のお見合いをすることになった。 前年末、父が所属する地域の趣味サークルでの忘年会。 父と知人との会話で、双方に「離婚経験のある40代の独身息子(娘)」がいることがわかり、「一度会わせてみよう」という話になったそうだ。 そして「先方の娘さんから正式な誘いが来た」と父から突然告げられた。 僕は父に対して「嫌だ」と辞退した。 ようやく結婚からも仕事からも逃げきって、家賃収入だけで生計を立てる+資格試験勉強という誰にも邪魔されない生

        • 2021年のライフログ:僕には耐性がない

          1月:助走期間2021年はハローワーク経由で申し込んだ職業訓練の宅建コースに落選するところから始まった。 募集月は限られていて、定員に対して申込者数がオーバーすれば必然的に落選者が出る。選考基準は開示されていない。 ※ すぐさま翌月分に申し込みスクールの説明会にも参加した。 ※ 一方で、宅建試験の入り口に過ぎない職業訓練(全額公費で通える)の合否を毎月ハラハラ待ち続けるのも非効率過ぎると感じ、並行して自費で通う資格予備校の選定を始めた。 ハローワークには「職業」訓

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          2020年のライフログ:仕事みたいだな

          1月:始めたこと。辞めること。2019年末から始まった1ヶ月の休職期間が続いていた。 もうすぐリノベーションを趣味にはできなくなるから、今年からファッションを学ぼうと思った。年始のアパレルセール期間にセレクトショップやブランド直営店をまわり、クローゼット内の総入れ替えを始めた。 AURALEE、comoli、Maison Margiela。 文字通り「服を買いに行くための服がない」状態だったけれど、勇気を出してショップスタッフさんに話しかけ、ファッション系のYouTube

          2020年のライフログ:仕事みたいだな

          中野1996

          1996年、小さな出版社に新卒で入社した僕は中野駅の近くにあるアパートを借りた。 生まれて初めて入った不動産屋。若い男性スタッフが漫画のキャラクターのように眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら「今朝出たての物件ですが、駅チカでこの家賃なので今日中に契約取れる自信があります」と小さな声で僕に囁いた。 僕は「早く契約しないと取られてしまう」と勝手に焦って、その足で内覧をして、他の物件は見ずにそこに決めた。 若かったのだ。 南口を出て線路沿いを高円寺方面に5分ほど歩いて

          中野1996

          全部覚えてから、全部忘れてしまいたい

          そのとき、僕は10歳くらいで、千葉県のどこかの海岸で水に流されていた。 たぶんボーイスカウトとかそういった類のものだった。大学生くらいの若者数名が、小学生グループを引率して夏休みの間に海や山へ遊びに連れていくアクティビティに僕は参加していた。 海岸には、幅15メートルほどの海へと流れ出る川があった。僕たち子供はその河口付近で泳ぐことになっていて、泳げない僕もそこに混ざっていた。 初対面の集団だったので、僕はひとりで泳ぐふりをしていた。気づいたときには水底にギリギリつま先

          全部覚えてから、全部忘れてしまいたい

          綺麗事でご飯は食べられないと言うけれど

          人間がAIに追い抜かれるとき 1ヶ月ほど前、Twitterで「AI(人工知能)がCTスキャンやMRIの画像を解析して癌の可能性を指摘し、患者を病理検査したところ実際に癌であることが確定した。ところが、後から専門医が画像をいくら目視しても、なぜAIが癌だと判定したのかわからなかった」という趣旨のつぶやきが話題になっていた。(参照元) これに対して「AIが医者の仕事を奪う」とか「機械に人命を委ねてよいのか」といった批判的な意見も出ていたし、そういった気持ちも当然わかる。ただ、僕

          綺麗事でご飯は食べられないと言うけれど

          出会いは証明書を付けて | #9 証明なんてできない

          ネット婚活を利用し始めて2ヶ月が経過した2015年12月中旬、僕はすべてのサービスから退会した。 そして退会直前に出会った8番目の女性と年明けから交際を始め、3年と少しで別れた。つい半年前のことだ。 彼女のことについては、この連載では書かない。 * なぜ僕はネット婚活サービスを利用したのか。 2014年2月、僕は13年間の結婚生活を終え、当時5歳だった息子は元妻と住むことになった。僕はひとまず都内の実家に戻って1年半ほど過ごした後、2015年9月からひとり暮らしを始

          出会いは証明書を付けて | #9 証明なんてできない

          出会いは証明書を付けて | #8 偽らなくていいから

          モデルの経歴を持つ女性とデートしたのは初めてだった。7番目に会ったアズサさん(仮名)、松戸在住の40歳だ。 彼女は静岡で短大を出た後、就職した地銀を2年で辞めて上京し、モデル事務所に所属したのだ。 179センチの長身を活かして。 * ネット婚活サービスでは、異性を検索するときに多彩な条件を設定することができる。そこには証明可能なものもあるし、できないものもある。 初回に書いたように氏名、生年月日、住所、勤務先、年収、学歴、独身証明は証明書を提出することができる。他に

          出会いは証明書を付けて | #8 偽らなくていいから

          出会いは証明書を付けて | #7 セカンドチャンスが意味すること

          6人目のナオコさん(仮名)は、ひとつ年下の41歳で、天才肌の和菓子職人だった。 彼女はバイオテクノロジー分野で博士号を取った後、製薬会社で研究職を務め、海洋学研究所に転職してから、和菓子の世界に入っていた。 大丈夫。僕も最初は意味がわからなかったから。 * 今回のナオコさん以降、最後の8番目までの3人の女性は、すべてガチ婚を通して出会った。 3つのネット婚活サービスを使い比べてみてわかったのは、システムの制約が強く、情報や行動がフォーマット化されているガチ婚が、僕に

          出会いは証明書を付けて | #7 セカンドチャンスが意味すること

          出会いは証明書を付けて | #6 同じ星の下に生まれても

          プロフィールを何往復読んでも、何ひとつ趣味が合わなさそうだったのが5番目に会ったエリさん(仮名)だ。 休日はテニス、ゴルフ、ヨガ。好きな映画は「007」シリーズ。旅行先は京都、日光、ポルトガル、モロッコ。見事なまでに全て僕の担当範囲外だ。共通項がない。 生年月日がまったく同じだという点を除いて。 * 写真閲覧のハードルが異常に高いチャラ婚(3ヶ月契約中)を断腸の思いで封印し、僕は麗しきユル婚とガチ婚の世界に舞い戻っていた。 この頃になると、僕はもう自分からガンガン「

          出会いは証明書を付けて | #6 同じ星の下に生まれても

          出会いは証明書を付けて | #5 奇跡は万能ではない

          4人目の女性、リカさん(仮名)と会うために、僕は北陸新幹線に乗っていた。 39歳の彼女と42歳の僕との間に、針の穴に糸を通すような偶然の一致があったのだ。 金沢という場所で。 * 少数精鋭の「ガチ婚」と会員の多い「ユル婚」という、ふたつのネット婚活サービスを通して僕は約3週間で立て続けに3人の女性と会うことができた。しかし、そこからしばらく停滞期が続いていた。 そもそも「気になる」を送っても返ってこない。それを乗り越えてメッセージのやり取りまでこぎ着けても途中で返事

          出会いは証明書を付けて | #5 奇跡は万能ではない

          出会いは証明書を付けて | #4 イントロは要らない

          初めて女性側からメッセージをくれたのはユウコさん(仮名)だった。僕が3番目に会った女性だ。 彼女のプロフィールは謎めいていた。ひとつ下の41歳、大阪在住、学生、アルバイト、年収500〜600万円、前職は芸能関係。 芸能関係? * ガチ婚で僕が女性に対して「気になる」を送っても、返してもらえることは少ない。そして交換が成立しない限り、メッセージを送ることはできない。 そもそも、女性側から僕を見つける時点でハードルがあると思っていた。僕は正直に「離婚歴あり」「子供あり(

          出会いは証明書を付けて | #4 イントロは要らない

          出会いは証明書を付けて | #3 勝者と敗者を分けるもの

          ふたり目に会ったのはひとつ年上の料理研究家、ユキさん(仮名)だった。 鎌倉に自宅兼キッチンスタジオを構えて、雑誌の連載を持ち、料理教室を開いていた。 彼女は努力を重ね、自分の手でチャンスを掴み、幼い頃からの夢を叶えていたのだ。 * 初回の反省をふまえ、僕は有料会員限定のガチ婚で、マニュアル通りに「気になる」のやり取りを重ねることに注力した。 東京または近隣3県在住で、僕の年齢よりプラマイ3歳、という検索結果から何百人という女性のプロフィールを見ていく中、ユキさんのそ

          出会いは証明書を付けて | #3 勝者と敗者を分けるもの

          出会いは証明書を付けて | #2 プロだったのかよ

          婚活サービスを介して最初に会った女性。サトミさん(仮名)は、3歳年上で、嫉妬するくらい文章がうまかった。 彼女が書く短いメッセージには色があって、匂いがあって、温度があって、読むだけで彼女と並んで10月の東京を歩いているような気分になった。 できれば会わないで、ずっとメッセージのやり取りだけをしていたい、と真剣に思ったくらいだ。 * 僕が登録したネット婚活サービスはふたつあった。 一方は完全有料でユーザー数は少ない代わりに真剣な登録者が多いと評判のガチ婚(仮称)、も

          出会いは証明書を付けて | #2 プロだったのかよ