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心に残るは、温かな思い出と小さな勇気...フォトエッセイ towazugatari


僕は以前、一人で外食をするのがとても苦手だった。

それが嫌で、
空腹を我慢してそのまま帰宅することが常だった。


一人で映画を見るのも平気だし、
買い物などは、一人のほうがかえって気楽。

それなのに、一人の外食だけはどんな場所も居心地が悪く感じられた。


それは、小学生の頃の苦い思い出のせいだったのかも知れない。

集団生活に馴染めなかった僕は、
遠足の日、周囲で幾つもの数人のグループが楽しそうに昼食をとる中、
たった一人でお弁当を食べたことがあった。

その中には僕が一人で居ることを指摘して、笑いの対象にする者もあった。

寂しさと共に、消えて無くなりたい程の悔しさと惨めな気持ちでいたたまれなかったあの時…

そんな古い記憶が、ずっと心の奥に深く付き刺さっていたのだろう。


でもこの日は、そんな自分をそろそろやめてみようか…
不思議とそんな気持ちになっていた。


賑やかな場所は好きではないので、
百貨店の中にある静かな老舗のレストランを選んだ。
店内が落ち着いていそうな、昼のピークを終えた頃を狙って…


こういう場所はお年寄りのご夫婦など、比較的年齢層の高いお客さんが多い。
そして、スタッフの対応もクラシカルな雰囲気で丁寧なのが嬉しい。


それでも初めて入る店…。
やはり緊張が走る。


ゆったり過ごせるテーブル席もあったのだけれど、
人の目に付きにくい、奥のカウンター席を希望した。

席を一つ空けて左隣には、穏やかに談笑する年配のご婦人が二人。
間もなくそのうちのお一人が、先に店を後にした。


僕が注文を終えて少しほっとしながら読書を始めた頃、
まだ左隣の席にお一人で残っていたご婦人が、


「お花をどうぞ」

と、彼女の目の前に飾ってあった小さな花瓶を僕の方へ寄せてくれた。
とても上品な雰囲気の、見るからに”優しいおばぁちゃま”という印象の人。

(左奥にあるのが、ご婦人が寄せて下さった小さなアレンジメント)


僕がお礼を言うと、

「お花って、いいわよねぇ」…と優しく微笑んだ。


ほんの二言三言、互いに言葉を交わした後、
ご婦人は優しい笑みを浮かべたまま

「それではお先にね…」と席を立たれた。


時間にしたら、きっと一分もなかったであろうその時間は、
僕に忘れられない温かな思い出と、小さな勇気を残してくれた。


「もう1人じゃないから、大丈夫よ。」


そういう言葉を聞いたわけではないのだけれど、
その見ず知らずのご婦人から、僕はそう伝えてもらったような気持ちになっていた。


思えばあの日以来、僕は少しずつ一人で外食をすることも増え、
今では、たまの楽しみにさえしている自分がいる。



見えない存在からのメッセージ…

それは時にこうして、
ほんの僅かな時間である、一期一会の出会いを通じて届けられることがあるのです。

そしてそこには、優しく温かな思い出を残して…🍀

      noZomi hayakawa


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