骨折後の整体

 遠方からお客さん(=Pさん)が来店されました。もう数年の間、調子を見ながら、ときどき来てくださっているお客さんです。
 来店されてすぐの印象は、Pさん、エライお疲れやな……。聞くと、いまちょうど、なかなかに気疲れの多い仕事に掛かっているとのこと。……なるほど、そうなのか。

 前回の来院はほぼ1年前。その1か月後に左すねを骨折され、完治に数か月かかり、状態が落ち着いたので、来た。現在の自覚症状にそれほど深刻なものはないようですが、具体的な動作としては正座ができない。
 そして私が見た感じでは、いくら気疲れしてるにしても、これまでお会いしてきたPさんの状態を思うとあまりに疲れすぎなように思えます。骨折のために基礎体力が落ち、余力が減っている可能性が高そうです。

 骨折時のX線写真をスマホで見せてくれました。実にきれいに斜めにスッパリ。時間は掛かったそうですが、ギプス固定のみで完治に至ったそうです。これは整体屋としてはありがたい。リハビリもせずに済んだとのことでした。
 ケガ当時の状況を訊くと、要は足首の、具合の悪い捻挫のようです。つまづいてくじいて、すねの外側にある細い骨が折れて、そのままくずおれた。そうであれば、地面に着いたという手のひらが受けた衝撃は軽い可能性が高いので、施術はもっぱら足に集中できそうです。足の裏、足、すね、膝あたりまでが作業範囲になるでしょうか。

 で、施術。
 手首から肘に当たる〈前腕〉と、足首から膝に当たる〈すね〉は作りがよく似ています。長い骨が2本並んで納まっていて、遠い側は、手首・足首の骨と関節し、近い側は、肘・膝の関節を作っている。手首の部分が、ちょうど割りばしの先っちょで骨の固まりを挟んでいるような感じなのに対して、足首は、2本のうち太いほうが体重をしっかり支え、細いほうはそれを外側からガードしている感じです。
 前腕・すねを骨折し治癒が終わると、この2本の骨の関係がいくらか悪くなります。本来は付かず離れず・ゆとりがあるところが、ややへばりつき気味になります。するとテキメン、手首・足首の自由度が下がります。つまりたとえば、手首・指先の動きがぎごちなくなったり、正座ができなくなったりする。

 Pさんの〈正座ができない〉も、おそらくはこの状態です。そしてこのタイプの〈正座ができない〉は2本の骨の間に適切な隙間を復活させれば良いだけなので、施術はそれほど難しくありません。Pさんも、まもなく正座はできるようになられました。膝の状態が悪い場合は、これほどあっさりは行きません。

 前腕・すねの施術で難しいのは、どちらも、複雑な動作を長時間にわたってする機会の多い部位だということです。なんてことない動作の中でも手首・足首の角度は緻密に計算・調整されています。ですからその計算・調整が不自由になると、じわじわシワ寄せが肘・膝に及びます。それはともかく防ぎたい。
 ですが、店内で1~2時間施術する間にちょっと試しに動いてもらって具合の良いのが確認できたとしても、帰宅して3時間立ち仕事をしたら・ちょっと凝った料理を作ったら、手首・足首をしっかり使うことになって、やっぱりまた悪くなった、みたいなことが起こりえます。ですから、その辺りの負担をどの程度先回りして対処・改善しておけるかが工夫のしどころです。

 なので私なりにせっせ施術して、Pさんには、しばらく様子を見て、2週間経っても全体的に元気になった感じが得られなければ再来院を考えてもらうようお願いしました。たぶん、帰り際、足が軽い、眠くなってきた、と言っておられたので、見通しは悪くないように思います。

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