ママと恋に落ちるまで

「ママと恋に落ちるまで」 S1 第1話 ――運命の相手はどこにいる?

ジャンル:ラブコメディ
制作年:2005年から2013年まで
話数:全9シーズン・208話(1話あたり20分程度)
配信サービス:Disney+


「運命の人」って迂闊な言葉だと思いませんか。
確かさからあまりにも遠い場所で私たちの目に留まるのは、補色なのかもと思ったので紹介します。


本作は、主人公・テッドがティーンエイジャーらしき娘と息子をソファに座らせ、「どのようにしてママと出会ったか」を語っていくスタイルのシットコムです。
基本的には過去の回想がメインで、ちょいちょい未来のテッドが補足説明(主に笑いどころの前振り)を付け加えてくれます。

――遡ること25年前。
学生時代からの親友であるマーシャルとリリーが結婚を決めたことをきっかけに、自身も「運命の人」を探し始めたテッド。
行きつけのバーで、いつもナンパばかりしているもうひとりの親友・バーニーに協力してもらいますが、全くうまくいきません。

「30歳までは結婚なんて考えない! それにたとえ僕の準備が整ったとしても、運命の相手はどこにいる?」(意訳)

そんなセリフを言いながら、テッドは店内を見渡すようにくるりと振りかえります。
すると視線の先に、グリーンのセーターを着た眩しい人・ロビン。

ここで、未来のテッドが一言。

「And there she was.」


私は震えました……!
この瞬間、すべての視聴者に物語のはじまりを告げる鐘の音が聴こえたのでは?! と思ったのです。

「振り向いた先に運命の人が……」という演出自体は王道中の王道(たぶん)。よくある(たぶん)。
でも、何かがちがう。彼女は特別だと確信できてしまう。なぜか。
ブルネットの髪をもつ彼女がどうしたってテッドの目に飛び込んでくるのは、ただ美しいからというだけではなくて、店内のダークレッドの革製のソファにグリーンのセーターが映えるから。
ゆっくりと寄っていくカメラは、テッドの心が彼女に吸い寄せられていく様を表す。
未来のテッドがそっと添えるように口にする端的な台詞は、目の前にいる子どもたちに彼女の登場を知らせているだけではなく、過去のテッドの「運命の相手はどこに?」への答えになっている。

バーニーの助けを借りて、ロビンに話しかけることができたテッドは、なんとデートの約束を取り付けます。
デート当日、あらゆる点で理想通りのロビン。二人の相性は最高のように思えます。
ただ、1点だけ、考え方が違っていて……。
ちなみに発端はこれまた王道の「I love you.」問題です(アメリカのラブストーリーではよく見かけます)。

あえて第1話のラストをネタバレすると、ロビンはママではありません。
実は本作、なかなか「ママ」が登場しないのです。
このタイトル・設定との矛盾が9シーズンも続いた所以なのですが、第1話で私たちに聴こえてきたはずの鐘の音と相まって物語全体のラストに深く関わっています。
でも、それはかなり先の話。

それぞれのエピソードにしれっと込められたメッセージが、笑っている間にいつのまにか届いている。そんな作品です。

ぜひ観てね。
また書きます。

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