助監督道①

■プロローグ

本当に正直に
誤解を恐れずに言うと
私は、

『芸能人』

が苦手である

助監督ながら何をアホウなことを…と
自分でも思った

しかし読者 諸兄姉よ
これには私なりの理由がある

先に言うと決して悪い意味ではない
限りなく、ない
だから怒らないで

これは、長く険しい助監督道を一心不乱に邁進してきた
イチ助監督の思ひである

■第一章 『助監督と芸能人』

おそらく、撮影現場での『芸能人』と助監督の関係は
皆さんのイメージとはいささか違うと思う
助監督は撮影スタッフの中では『芸能人』の近くにいるが
会話ができない幾つかの問題がある

・監督に決定権がありお芝居などの質問されてもすぐ監督を呼ぶしかない
・エキストラの動きをつけるのに忙しく落ち着いて話す暇がない
・キューに命を懸けているので落ち着いて話す暇がない
・次のシーンの準備の為にアホみたいに忙しい
・差し入れのおやつを食べるために忙しい
・自分がコミュ障である

以上の事から、助監督は忙しいことが明白である

現場の助監督一番の難関に呼び込みという仕事がある
撮影現場が準備OKになると役者を呼びに行くが

さて先ほどのリストを思い出してほしい
私は、まぁまぁのコミュ障である
役者を呼び、現場までの道のりで何を話していいかわからない
ロケ場所によっては5分くらいの道のりの時がある
もちろんマネージャーが一緒にいることは多いので
その場合は余裕でふんふんふん♪と呼び込みできる
怖いものなしである

しかし、マネージャーさんがいるにも関わらず電話をしていることがある
勿論、マネージャーさんは忙しい仕事である
色んな仕事のスケジュールを調整し、役者に寄り添い、時には体調も管理し、車を運転する。超忙しい。わかる。
だが、ちょっと待て
自分が呼び込みをする時くらいは電話をやめ、役者とセンスある会話をしながらついて来てくれないと困る…のだ

さぁ困ったが、このいざという緊急事態に、どうするか

ググると
「コミュニケーションの基本は天気の話!」

OK Google!
「今日は天気良くて良かったですね」
なんて、洒落た会話であっと言う間に現場に到着した
さすが、世界中で愛される偉大な先生である

だが、この手は一度だけしか使えない(と思っている)
何度か同じ手を使うと、すぐに天気ネタは尽きる
使い勝手が悪いものである
あと、どう見ても普通の雨の場合が一番困る

・ザァザァ振りの場合
「これ、今日は中止になるかもしれませんね」とか
「台風みたいですね」とか言える

・普通の雨の場合
「雨ですね」としか言えない

これは困ったぞ…というところで大体一日が終わる
次の日には、天気の話をする権利を得る…以下リピート

と、毎日毎回、モニモニ悩みながら仕事をしていた
今ではこんなこと考えるのもめんどくさくなって
あまり世間話はしないことにした
成長したものだ

■第二章 『助監督と商品』

仕事にはほとんどの場合『商品』が存在する

ざっくり言うと
・書 店『本』→『売上』
・ レストラン 『料理』→『売上』
・弁護士『法律』→『報酬』
・ホスト『疑似恋愛』→『報酬』
・画 家『絵』→『評価・価値』
・スパイ『殺しのライセンス』→『報酬』

どれも『商品』を自分の知識や技術でアレンジし『対価』を得る

すべからく、ドラマ制作にも『商品』は存在する

すでに賢明な読者 諸兄姉は理解しておられると思うが
ドラマ制作助監督にとっての
『商品』は
『芸能人』である

🌸簡単レシピ
まず芸能人と台本を用意します
芸能人一握りを衣装合わせで混ぜます
アレンジ(時代背景/衣装/メイク等)します
作品の登場人物にします
あっと言う間に『主役』『ヒロイン』『脇役』『悪役』の出来上がり

ドラマの登場人物はこのようにして作られる(超意訳)

●唐突の回想シーン
「お前(スタッフ)に代わりはいるが、役者には代わりがいないんだぞ」
  昔、上司にこんなセリフで怒られた
「すいません…(何を言ってんのこいつ、同じ人間じゃんバーカ!)」
  と当時の自分は思った

…はい、自分何もわかっておりませんでした バカは自分です
要するに登場人物がいないと、いくら優秀なスタッフが何人いても
ドラマは撮影できない
(最悪、代役もあるけどすぐには用意できないし)

あと、どんなに素晴らしい『商品』を扱っているとしても感動するのは最初だけですぐ慣れる

自分も最初の頃は『芸能人』に対して感動していた
それこそ、長澤まさみさんや綾瀬はるかさんに会った感想は
「え、マジ、TVで見た人や!最早この世のモノではない…」だった

ただ、いつまでも『商品』に感動していては何も始まらない
その素材をいかに売れるようにするかがこの仕事である

補足:もちろん、役者さんそれぞれの顔面力・演技力・雰囲気力などあります。だいぶ限定的な話をしています

■第三章 『助監督とまとめ』

自分はいつもこんなことを考えながら現場で仕事をしている
コミュ障には難しい職業である
そんな人間が『商品』とどう会話をすれば良いのであろう

書店員が『本』と話して何になる
画家が『絵』と話して何になる(漫画の表現ではありそうだが)
ホスト…ん?なんか近い気がする
だがしかし、ホストとコミュ障を比べて貰っては困る
完敗で惨敗で全敗だ、むなしくなる
まず、そんな技術があればホストをやっている

まとめると『商品』である『芸能人』に対し、
助監督@コミュ障はどう接していいのかわからないのである

したがって、私は『芸能人』が苦手である

ホントに差し上げられるものは少ないかもしれませんが サポート頂けたら、尚、一層、精進いたします。 ぜひ、サポートよろしくお願いします!