助監督道③

■第一章 『圧倒的 閃き……!!』

ある日、スーパーに買い物に行った

サービスカウンターの横に、マルチコピー機がある

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普通の人には、何の変哲もないものに見えたと思うが
助監督黒帯の自分には別の世界が見えた…


コピーA4 白黒 『1枚5円』…!!

その時……!圧倒的 閃きっ……!!

これは…!!

一瞬にして頭の中のソロバンが火を噴く

普通のコンビニコピー機では 『1枚10円』

ここでコピーすれば…1枚5円の儲け!

したがって
  100枚コピーの場合   1000円-  500円=  500円
1000枚コピーの場合 10000円-5000円=5000円

しかもっ!!

コピーA4 カラー 『1枚30円』だとっ!

普通は『1枚50円』…まさかの20円の儲け!

100枚印刷すると…5000円…
それが…3000円で出来る!!

    100枚コピーの場合     5000円-    3000円=    2000円
  1000枚コピーの場合   50000円-  30000円=  50000円
10000枚コピーの場合 500000円-30000-円=500000円

え、ウソでしょ!

毎日50万の儲けって…それってもう家建つよ…!

これが巷で話題のセドリっ!!


……いやまて……落ち着け自分……儲け話には必ず裏がある

過去にもあったじゃないか…

あえて、この生粋のコミュ障助監督に
唐突に超フレンドリーで話しかけてくる奴がいたではないか
おおよそ、マルチか宗教の誘いだっ…(ちなみにリアルに両方経験者…)


そして……気づく!!
やはり問題があった…!

毎日、ウホウホ顔で10000枚なんかコピーして目立たないはずがない!
単純計算、用紙一束500枚だから最低20回は用紙交換することになる!
スーパーの店員さんのブリザードの如き冷たい目が20回は辛み!


ざわっ…ざわっ……誰かの声がする

奴ら…可能性を見てない
気持ちが状況に押し潰され
僅かだけどまだ皆に残っている勝ちへの道を
閉ざしているんだ…….自分から
言っちゃ悪いが 奴ら正真正銘のクズ…
負けたからクズってことじゃなくて
可能性を追わないからクズ…
                      賭博黙示録カイジ10話より

そうだ、我々はずっと可能性を…追えなかった…んだ

つづく…

■第二章 『悪魔っ…!なんという悪魔っ…!!』

ドラマ業界には

『割本(わりぼん)』

という物がある

おそらく、聞き覚えのない方が大半であろう

主にドラマ制作のスタッフくらいしか知らないのではないか
そのくらいに、ニッチなものであるが

自分の長いドラマ人生で、MAXレベルに二度と会いたくない物である

『割本』
監督がカット割りを書いた台本をコピーし
その日の撮影する部分のシーンを抜粋しまとめた”撮影用の台本”
下っ端の助監督がコピー機を駆使して製本する

この製本作業が、まさに地獄である

①監督台本の見開きをB4でコピー
②B4を分割 B5コピー
③片面→両面コピー(大体20Pくらい)
④③の繰り返し
⑤厚ホッチキス止め(人力)
⑥完成

すべて一人でやると1冊3分はかかる
助監督黒帯の自分でも1冊2分くらい
そしてドラマスタッフは70人くらいなので

すなわち 70冊×2分=140分…!!

○ブラック助監督の一日
5:30 起床~6:30 新宿出発~8:00 撮影開始~21:00 撮影終了~
22:00 スタッフルーム~24:40 割本印刷終了 以下エンドレス…

読者 諸兄姉は、お気付きであろうか!
ここに…帰宅時間……風呂時間は……含まれていないっ…!!

悪魔っ…!なんという悪魔的スケジュール…!!

もうこうなるとスタッフルームの寝袋、
シャワー🚿は近くのネットカフェが当たり前

いや、まて、どーせウソだろって思われるかもしれない
しかし、事実であるっ!!

要するに、助監督はコピー機のセミプロ(伏線回収)


あと、実際にあったけど、コピー機の故障のくだり

愛しのコピー機くんが何を思ったか
どうしても動かなくなってしまった
すわ反逆か!

「なぁ、もう20日も共にしてきた仲じゃないか…機嫌直せよ…」
「後でたっぷりインク入れてあげるからもう少し頑張れ!!」
「マジごめん、もうこんなに働かせないから許して…」
など、ホントにやってみたが…ウンともスンとも言わなくなる

割本が出る現場でスタッフは台本を持参しない(ことが多い)
割本がないと撮影が進まない

撮影はあと4時間で始まる
撮影が出来ない=100万単位の損失である
殺される…(冗談じゃなくホントにそういう考えになる)
すべては自分の肩にかかっている
死へのカウントダウンが始まった……

思い出しただけで、オエッってなった

この時は、近くのキンコーズにダッシュで駆け込み
何とか事なきを得たが……たしか2万円くらいかかった
そして、その料金で怒られる…
もちろん徹夜で撮影突入でふらふらで怒られる…
え、何でこの仕事続けてるんだろ?

っていうか、今思ったけど下っ端にそんな責任重大すぎる作業をやらせるのって…ちょっとどうかと思ふ…

■第三章 『僥倖っ…!なんという僥倖…!

時は戻り、現代……

これで分かったと思うが、コミュ障助監督は辛い過去の経験から
激安コピー機を発見した場合、

僥倖っ…!なんという僥倖…!

ってなる

こんなつらい経験をしてきたのだから、
少しくらい、コピー機でいい思いをしても良いんじゃないか?

…もはや悪魔のささやきである


ざわっ…ざわっ……また誰かの声がする…

目先を追うなっ…!
その場その場の状況で動くなよ
オレたちははいつもそれで失敗してきたんじゃないのか…!
別に これはこの船のことだけに限らない
実人生だってそうだったんじゃないのか…?
いい加減気が付けっ!
耐えることなくして勝利はないんだっ…!
                      賭博黙示録カイジ22話より

……え、どっち!?

さっき、「可能性を追わないからクズ……」って言ってたよね?!
今度は耐えろ!っすか?

くそっ、金儲けってなんだ!

この世界にはびこる気軽なビジネス
そんなものでお金を稼いで楽しいか

汗水たらして、命をかけて、ギリギリの意地だけでくぐり抜けた経験
それだけが自分を輝かせる

誇りをもて自分よ

この誘惑を超えろよ

よし耐えよう!!

(なんだか一瞬ホントに儲けられると思ったけど
 そもそも領収書が出ないから証明できず無理ぽ…)


ってことで

後日談というか今回のオチ

映像業界は、電通での過労死問題からすでに
NHKを筆頭に『働き方改革』の波がきている

助監督は2チームにしてローテーションとか
今やタブレットに台本入れて仕事することも増えている
なので、割本文化は終わりに近い

ようやく、『ブラック助監督の一日』は減ってきている

それでも、低予算番組やバラエティーなどはその限りではない
これが続く限り、助監督は文字通り絶滅する

助監督がいなくなると
ドラマのクオリティが担保できなくなる

これだけは知っておいて欲しい事実である

いとをかし


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