スクリーンショット_2019-07-30_16

「吉森保氏 大阪大学名誉教授」が語る「細胞から見た生命ー細胞内のリサイクルシステム・オートファジーの研究を通してー」講演

私は細胞生物学者です。細胞研究者は2種類います。1つは細胞と細胞の相互作用を研究する人・中を研究する人の2種類にわかれます。私はずっと中を追ってきました。

細胞とは何か?

オードリーヘップバーンであれ、チンパンギーであれば、細胞に関しては区別がありません。

細胞は60兆だと言われていましたが、36兆だと言われるようになりました。どうでもいいですよね。

(会場爆笑)

これ大変な努力をしてやっている研究なわけですが、何がすごいってどうでもいいってことです。

(会場爆笑)

ただ、これこそが知的好奇心のなせる技です。私もそういうタイプなので。

細胞は生命の基本単位です。細胞1つ1つが生きており、細胞のなかにその生き物の遺伝情報が全てあります。1つ1つの細胞の中に1つの生命に必要なデータは全て入っています。ゲノムが1つ1つの細胞に入っており、1つの細胞さえあれば、人間を作ることができます。最初は植物、下等動物、そこから羊なども生成されていますが、人間も可能になっています。倫理的な問題があるわけですが。

HeLa細胞の話

1つの細胞を取り出してきて、実験に使います。アメリカの30代の黒人女性の細胞です。1951年に亡くなったがん細胞を増殖させています。数は莫大で、世界中に広まっています。一番古い人由来の細胞ですね。人は死んだら細胞を残すことができます。逆に言うと、ここから元の女性を作り出すことができます。もちろん、記憶とかはないんですが、クローンですね。

真核生物の細胞の中には細胞小器官がある

酵母と人の肝臓細胞を比べてみましょう。

人間の体の中に腸とか胃があるように、酵母の中にも細胞があるわけで、細胞野中には細胞小器官があるんですね。この酵母を研究することで、人間のいろんなことがわかります。オートファジーという研究も酵母にも存在します。オオスミ先生がこの分野でノーベル賞をとりました。酵母を調べても意味がないじゃないか、という人もいると思うのですが、基本的な成り立ちは全く一緒なわけです。

生命の特徴

階層性と動的平衡というのが特徴です。タンパク質などの分子(数ナノメートル)があり、超分子複合体(数十ナノメートル)があり、オルガネラ(数マイクロメートル)があり、細胞(数十マイクロメートル)があります。それが組織、臓器になり、個体、種になります。

動的平衡については「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」と方丈記にありますが、その話ですね。生命もすべてそうなんですね。オートファジーはこの特徴があります。

人間は死にます。そして、新しい人が生まれます。河のように此処の人間が生まれ変わっていくんですね。生命にとって死ぬのは必然ではありません。死に逆らうことはできるんですが、種として「死ぬほうが有利」なので、生命はそっちを選択したんですね。

細胞の中にあるオルガネラなどは入れ替わっています。細胞の中の社会を見ていきましょう。

こんな風に細胞の中に世界が広がっています。タンパク質は言ってみてば、働く人、です。タンパク質は医者、おまわりさんみたいに実際に数万種類などあるわけですね。タンパク質というと、肉とか豆腐とかって思いがちですが、実は1つ1つタンパク質の種類は違うんですね。タンパク質はナノマシーンで、色々な働きをします。例えば、酵素もほとんどがタンパク質です。

社会なので、交通網が存在します。これが膜小胞です。膜が行き来して運んでいます。これは非常に秩序立っています。細胞内ロジスティックとこれを私が命名しました。何億年前からこれが行われているわけですね。私はこの交通網が専門になります。オートファジーはその交通網の1つの経路で、もっとも研究が進んでいないものです。

そして、もう一つの主役が膜です。膜のなかがマトリョーシカみたいになっています。

これが形を自在に変えます。シャボン玉みたいなものだと考えてください。また、運ぶときはお餅みたいにプクッと膨れて、そのプクっと膨れたものが別の膜に混ざり合い、移動が完結します。

膜というものが細胞にとって非常に重要になるわけですね。これ考えると、遠い世界の話でピンと来ないですよね。なので、このくらいから寝る人が増えてきてしまうので、これをみてもらいましょう。

まず血管の中で白血球が動きます。これを拡大すると、タンパク質が別の細胞と手を取り合ったりしています。細胞膜拡大すると、脂質二重層になります。いわゆる脂質分子ですね。並んで、膜を貼っています。表面にはタンパク質があります。さらに細胞の内側に入ったりもしています。細胞の中には細胞骨格と言われるものがあります。建物の中の鉄筋のようなものです。すごいのは自己集合することです。

人間の社会に応用できたら、勝手に鉄筋ができるようなことになり、さらにいらなくなったら分解されます。細胞が作るレールも自己集合して、勝手にばらけていきます。モータータンパクが歩いているんです。ミロコンドリアが動いていたりもします。ナノスケールなので、歩いていてもかなりのスピードだったりします。この動画はぜひ家で見てもらえれば・・・。落ち着く音楽もついているので、眠れない夜にも使えます。

(会場爆笑)

一つ一つに意味があり、データに裏付けられているのですが、そういったことは知らなくても美しい映像だと思います。

生体膜の動きはタンパク質が制御しています。

タンパク質がいかに重要かがわかります。

では、オートファジーとはなんでしょうか。究極のリサイクルシステムです。

細胞の中の不用品の回収、分解、リサイクルを行い、100%再利用します。

こんな形で回収・分解していきます。えっちらおっちら運ばれると、リソソームに行きます。これは言ってみれば胃腸ですね。消化酵素と融合され、オートファゴソームの中身が消化されます。タンパク質はアミノ酸に分解され、再利用されるわけです。

オートファジーの研究は10年で爆発的に進展

これなんで増えたかというと、1993年に大隈先生が酵母Atg遺伝子の同定を行ったことがきっかけです。この時点で、大隈先生はノーベル賞の半分くらいを発見されていました。

私は忘れ去られていたオートファジーの研究をもともとしていました。その時、事務局をやっていたのですが、オートファジーの事務局は居酒屋の2階で行われていました。その時、全然盛り上がっていなかったんですね。世界中に研究者がいなかったんですね。私たちにとってはフロンティアに見えた。大海原で大陸が見えたのと一緒。謎を解きたい、というワクワク感でやっていました。この時点では役に立つか立たないかわからなかったんですが、とにかく謎を解きたいと思ったんですね。

その時、大隈先生が哺乳類でオートファジーの研究は盛んになる、と予見していました。実際、その通りになり、病気や寿命と研究が関わるようになりました。そうなると、一気に人が入っていくんですね。医療だと儲かるかもしれないと思うので。

(会場爆笑)

少し貢献できたので、研究者冥利につきるかな、と思いますし、あれだけ相手にされなかった分野がノーベル賞まで取っているというのが嬉しかったですね。最初の記者会見で大隈先生が「吉森と一緒に受賞すると思っていた」とコメントしてくれたのは嬉しかったですね。

私はオートファゴソームができる様子のライブ観察に世界で初めて成功したんですね。通常は細胞を殺さないと研究できなかったんですが、そうすると、動かない。動いているところを研究できるようになったわけです。これで研究がしやすくなったんですね。この後、この分野で一番引用される発見になりました。

オートファジーのまとめ

栄養を得る:細胞が飢える、と細胞自身の成分を消化し、栄養にします。

タコは飢えると自分の足を食べるのですが、全く同じことをやっているわけですね。

2)細胞の新陳代謝

毎日少しずつ細胞の中身を入れ替える。植物からのタンパク質 70g/日はアミノ酸になり、尿素・CO2として排泄しています。毎日リサイクルが必要なんですね。これ長い間謎だったんですね。オートファジーを止めると何が起きるか、たくさんの病気が出たり、死にました。代謝回転が大事なんですね。最初に話した動的平衡の話ですね。細胞は伊勢神宮の式年遷宮と一緒ですね。細胞もそれによって恒常性を維持しているわけです。


3)細胞の中を掃除する

病気を起こす細胞が侵入した時、オートファジーが包み込み殺すんですね。溶連菌をオートファゴソームが包み込みます。これは大きな発見ですね。

これが選択的オートファジーです。菌を識別してるのではなく、膜に穴を開けるところを発見していました。菌には共通点がなかったんですね。エンドソームを認識していたんです。穴を開ける試薬で実験して発見しました。ビーズに使ったのは菌ではないのが大きくて、これで菌を認識しているわけではないことがわかったんですね。

またリソソームに穴が開くと炎症などの原因になったりします。壊れたミトコンドリアによって、中身の活性酸素が猛毒になります。健康な細胞だとオートファゴソームが包んでくれることがわかりました。

アルツハイマー病などの原因になる異常たんぱく質を分解することもわかりました。

ノーベル賞受賞式では、1週間に渡り講演が続きます。博物館にゆかりの品を寄贈することになっています。大隅先生は前代未聞、自分のフィギュア。

これ実は我々が特注してプレゼントしたものなのです。自宅だと無くすかもしれませんが博物館だと無くさないので良いでしょう。

(会場爆笑)

こんな会場でとても煌びやかでしたね。最後に一つ。 Rubiconはオートファジーのブレーキなんですね。高脂肪食をすると Rubiconが増加してオートファジーが低下します。その結果、脂肪滴がパンパンになり、細胞の中に溜まりっぱなしになり、脂肪肝になることがわかりました。では、 Rubiconないほうがいいのでマウスで実験しました。ゲノム編集で操作をして、 Rubiconの遺伝子を無くしたのですがこれで脂肪肝にならなくなりました。

オートファジーはさまざまな病気を防いでいます。主だった疾患はオートファジーが抑えているんです。

ではなぜ病気になるか。これは寿命ですね。オートファジーは寿命延長に必要です。一方歳を取るとオートファジーが低下します。じゃあ低下したオートファジーなんとか出来ないか、ということで低下の原因を取り除くことにしました。歳とった動物では Rubiconが増えます。 Rubiconの発現を抑制した動物は健康寿命が伸びるんです。オートファジー研究は論文に関して日本が世界をリードしています。こういう分野はあまりないのですが、知財は弱いんです。

そのため会社を作りましたので今後も力を入れていきます。


この記事が参加している募集

イベントレポ

サポートされた費用は、また別のカンファレンス参加費などに当てようと思います。