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弁護士ドットコム、リンクアンドモチベーション、経済産業省、ニューズピックスが語る「SaaS SHIFTによる業界リデザイン」

スピーカーとモデレーターは以下の通り。

Speakers
橘 大地氏
弁護士ドットコム株式会社
取締役 クラウドサイン事業部長

麻野 耕司氏
モチベーションエンジニア / 株式会社リンクアンドモチベーション
取締役 / オープンワーク株式会社(旧株式会社ヴォーカーズ)取締役副社長

和泉 憲明氏
経済産業省
商務情報局 情報産業課 ソフトウェア産業戦略企画官 博士(工学)

Moderator
麻生 要一
株式会社ニューズピックス
執行役員 / 株式会社UB Ventures ベンチャー・パートナー

以下がセッション内容。



弁護士検索・法律相談ポータルサイトを運営する、弁護士ドットコム。
組織開発・人材育成コンサルティング事業を手がける、リンクアンドモチベーション。

この2社から如何に、『クラウドサイン』、『モチベーションクラウド』という圧倒的な成長を遂げているSaaSプロダクトが生まれたのか。

そして、自社におけるSaaS SHIFTを実現したことにより、いかに業界をリデザインし、その結果としていかに社会の変革を進めているのか。

日本がデジタルトランスフォーメーションを実現する上での課題を説く、経済産業省の和泉氏、新規事業開発を多数手がけてきた実績を有するNewsPicksの麻生と共に、企業がビジネスモデルをSaaS SHIFTする際の課題と可能性、そしてSaaSがもたらす業界再編を深掘りする。

以下、書き起こしていきます。

麻生さん)こんにちは。この4人で50分ほどかけて話していきます。麻生です。UB Venturesというユーザーベースのベンチャーキャピタルをやりながら、ニューズピックスの執行役員もやっています。社内限定版のニューズピックスというSaaSプロジェックトを売る事業責任者でもあります。僕がモデレーターをやりながらお三方の話を聞いていきます。僕のセッションは予定調和が嫌いなので、一切打ち合わせしていません。では、まずは自己紹介をお願いします。

橘さん)私は弁護士ドットコムの取締役をやっています。もともと、弁護士のマッチング事業をやっていたのですが、クラウドサインをやることになり、SaaSを立ち上げました。顧問弁護士をもともとはやっていたのですが、会社としては初めてやるチャレンジでした。今では、弁護士ドットコムを牽引する存在になっています。クラウドサインは、2015年10月19日リリースされたものです。サイン文化の国がクラウド化したのとは違い、ハンコ文化の日本からの変化特有の難しさがありました。

麻野さん)リンクアンドモチベーションは組織人事のコンサル会社です。2016年にモチベーションクラウドというサービスのSaaSを立ち上げました。ちょうど3年です。月額2億円が見えてきています。コミュニケーションクラウドやチームワーククラウドなども立ち上げ、組織改善も含めてやっていくことになりましたので、様々な意味で注目いただければ。

和泉さん)経歴としては、非常に特殊です。ソフトウェア産業についてのレポートがあまりなかったので、DXレポートを最初に書きました。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

アメリカの成長率と中国の成長率を比べると日本はまだ弱いところがあります。企業の環境が変化している中で、この国の方向性を考えていきたく、今回参加しました。

麻生さん)トークテーマ大きく二つあります。自社をSaaS化することで起きる変化。もう1つは顧客企業をDXすることで、どう変わるか、その難易度などを聞きたいと思っています。まずはSaaSについての経産省の考え方を教えてほしいです。

和泉さん)政府としてはIT人材が足りなくなると突きつけられています。政府としてはどう思っているか、と聞かれている。政府の中で人材を足りないということは、本当は足りない部分とあまる部分がある。SaaSは典型的です。100億円のプロジェクトをやると20億円はサーバーにいきます。クラウドサービスだとスイッチ押すだけ。サーバー調達コストが下がるとすると、人材不足はなくなるかもしれない。競争力のあるところに人材シフトをすることが1つの解ではないか、と思っている。

麻生さん)エンジニア不足が叫ばれるからこそ、全体最適で考えるということですね。

和泉さん)例えば、バッチ処理だけでも多くのエンジニアが必要になります。SaaSとかを使うと、あまり考える必要がないと思うんですが。

麻生さん)SaaSによって生産性が高まったりすると思うんですが、顧客の価値が上がったりすることについて、どのように受け止めてますか?

麻野さん)効率と効果の2つかなと思いますね。効率は、組織診断はあったけど、マークシートとかでやっていたんですね。結果出て共有するまでに数ヶ月かかると、それまでに組織って変わってるんですよ。オペレーションの効率化が1点です。

麻生さん)モチベーションクラウドより前から企業はそれをやっていたと・・・。

麻野さん)そうです。言い方は色々でしたけど、やっていました。ただ、効率的ではなかった。もう1つは効果ですね。組織や人のことは勘や経験で取り組まれていました。今日来ている企業の中で、PLを出していない企業はいないですよね。でも、組織や人は勘や経験だった。組織もデータを活用しましょう、そして、定量化・可視化して、様々な記事が社員に配信され、上司や部下にシームレスで情報共有がされることで、PDCAができるようになるんですね。

オペレーションが効率化され、効果もあがるわけですね。

橘さん)10時間がなしになるみたいな話は多いんですね。NDA締結と考えると、2,3週間かかっていた。でも、今日締結して明日打ち合わせができるようになります。3週間が明日になる。申込書を回収するのに相手の会社に訪問をする、ということが無しにできる。

この国のほとんどがハンコ社会なので、これを変えないといけないんですよね。

麻生さん)NDAは面倒くさいですよね。ほんとそう思います。一方、いい話もあるんですが、大変な部分もありますよね。

橘さん)うちはいいけど、相手は受け入れてくれるかな、という話って絶対に出てくるんですよ。なので、最初から国と一緒に取り組んだり、一気にマーケティングしたりしていました。建設業法とかも明確になったんですけど、それを担当していたのが和泉さんだったりする。

麻生さん)業界全体を一気に変えないといけないですよね。和泉さんはどうですか?

和泉さん)大きく話すと霞ヶ関は規制産業。規制緩和をしようとしている役人もいる。こういうテクノロジーがあるのでやりたいというと、テクノロジーを吟味される。正直言うと、こういうところはぺけかもしれない。でも、お前たち、じゃあ紙でもしっかりやってるのか・・・とかなり熱量を持って交渉しましたね。

(会場爆笑)

麻生さん)モチベーションクラウドでも、抵抗や課題はどんなものがありましたか?

麻野さん)今日の会場も1人1万円払わないといけないのにすごい人数が来ていて、すごい盛り上がりだと思うんですけど、抵抗とかはあまりないですね。むしろ、社内で使うSaaSが多すぎ問題とかが逆にありますかね。

麻生さん)プロピッカー制度みたいなのがあるんですが、社内のイントラのセキュリティー監査で半年止まるとかそういうのがあったりするんですが、そういうのもないですか?

麻野さん)今まではなかったんですが、これから出てくるのかもしれないですね。

麻生さん)セキュリティーという意味ではかなりの機密情報ですよね。

麻野さん)はい、もちろんそういうチェックはあるんですが、今まではなかったですね。

麻生さん)では、自社が変革した苦労話や成功談を教えてください。

橘さん)もともと、理解のある経営者だったので、そんなに苦労はしなかった。でも、営業とマーケコストが先にかかるため、予算の問題はあります。スタートアップだと数億円調達して一気に使う合意形成がされやすいんですが、上場していたので、既存株主調整とかはありましたし、問われましたね。

麻生さん)その時はロジックで説明していったんですか?

橘さん)投資家側が理解が早いんですよね。最近は。Boxさんとかの事例を見ているので、早いのかなと。最近もカオナビさんの上場、などの事例もありましたし一般投資家にも理解が進んでいるのを感じています。

麻生さん)最初にキャッシュアウトするモデルだと思うんですが、そのときに株価が下がらずにいけたんですか?

橘さん)3年で黒字化みたいな無茶な目標にはしないのが大事でしたね。そこで理解を求める。

麻野さん)うちの場合は対社内、対従業員などに改革を進めるのがありましたね。SaaSは継続率が高く、シェアを取った方が勝つんですよ。そのため、先行投資をして、後から利益がもたらされる。でも、短期的なキャッシュアウトに対する恐怖心はありますよね。他の取締役の正統派なPLの考え方とは、常に喧嘩しています。株主発表会の前で喧嘩したりもするくらいです。海外投資家の方が、理解が早いので、個人株主がいなくなったとしても、海外投資家でフォローするようにしています。そのため、常に海外投資家とのコミュニケーションは欠かせないですね。

ここまで顧客満足に向き合ったのは初めてでした。コンサルはワンショットですが、SaaSは顧客満足と向き合うことが大事で、向き合わないと全てがうまくいかなくなってしまいます。実は僕がベンチマークしていたのは、セコムです。55年で9280億円になった会社。昔、安全はタダだと思われていました。ちょうどモチベーションがタダだと思われていたように。そこからB2Bの警備保障を経てB2Cのホームセキュリティーを提供した。しかも売り切りではなく、レンタルでやる、と。直接売るだけだと満足してなかったとしてもわからないけど、レンタルなら途中でやめてしまうから本当の顧客満足度がわかる。その時代にサブスクリプションでやっていた。

うちも組織診断のコンサルをやると、お客さんの社内は盛り上がるんです。でも、1年後に行くと、「そのあとやっていなかった」と言う会社が正直多かった。コンサルからSaaSになっていくにあたり、どうやったら組織診断の結果を継続的に活用してもらえるか、をひたすら考えるのが大事だと思ったんですね。そこが変革を迫られているところかなと思います。もちろん、株主と顧客に同時直面するハードさはあるんですが。

和泉さん)売上、B/S、P/Lが最初短期的に悪くなるということについて、農薬の例で考えてみます。農薬を直接売るモデルだとその後害虫が駆除できているかどうか、までは厳密にはわからない。でももしこれが害虫駆除サービスだとしたら、薬はできるだけ少なくまいて、対応する虫の種類も増えたりする。アップセル、クロスセルしたりすることもできる。社内の生産性をあげることで、効率的に害虫を駆除することに力を注げる。これは、ビジネスの大改革になる。一時的な赤字とかについては投資家も勉強してもらいつつ、企業がよりエコシステムに貢献できるようになってほしい。

(クラウドサインの)契約や(モチベーションクラウドの)モチベーションだけではなく、農薬みたいなこともサービス化することは考えられることができる。

麻生さん)SaaSはSoftware As A Serviceの略だと思うのですが、SaaSの中で「aaS」の部分の方が大事ということですよね。

和泉さん)まさに。

麻生さん)さて、カスタマーサクセスについてです。ニューズピックスでも、課金と広告をやっているわけですが、ここでも顧客満足度を追求しているんですよ。他のビジネスモデルでも追求していないわけではないと思うんですが、それでも思うことがある。SaaSとは顧客満足度の追求の仕方が違うな、と。

麻野さん)顧客満足追求の本質は「継続率」になると思うんですよ。コンサルでリピート率をどのくらい気にしていたか、というと、ワンショットが大きいのでそこまでなかった。SaaSだと年間10%以下に抑えたり、月次でも1%以下に抑えたい。そこは決定的な違い。

橘さん)顧客の成功とプライシングが一致しているケースが多いんですね。ID課金とかもまさにそうだと思うんですよ。もっと取れるんじゃないか、とかは言われたりするんですが、お客さんが使う量に応じた課金を退路を絶ってやっていますね。顧客の成功とプライシングが一致させているので、カスタマーサクセスが大事です、とかじゃなくやらなきゃ死ぬという形にしている。

和泉さん)プライシングも非常に大事ですね。サブスクリプションはいつでもやめられるのが大事です。アップセル・クロスセルもいつでもできる。オンプレとはこれは大きく違うんです。

日本のIT投資の80%は現状の維持管理に使われています。残りも制度改正対応が主要。維持管理だけだとビジネスが変わってないんですよ。現行に対してのIT投資を減らしてあげれば、競争領域でハイグレードなサービスを買うこともできるようになる。

麻生さん)会場質問受け付けます。何かありますか。

会場質問1)セールスフォース ベンチャーズの浅田です。行政サービスもある種、SaaSで、月次で税金がかかると思うんですね。行政サービスを運営する中で、カスタマーサクセスが成り立ちうるのか。

SaaS会社は自社で内製しているのですが、行政は外注していますよね。これは転換する可能性はありますか?

和泉さん)結局、システム調達が悪いわけではなくて、調達制度が悪いんですよね。法律を決めて規制を決めて施行するだと外国に置いていかれると思っている。システム監査を持って会計監査にするみたいなことをやっていけないか、みたいなことまで考えていて、実際にやろうとしていて、保安とかでやっていこうと話しています。政府の中から変えていこうと思っています。

内製についても、外注か内製というキーワードだとぼやけてしまう。自分たちがどう変わるかを設計するかが大事。外のコンサルに聞くだけじゃなくて、自分たちがどう変わるべきかを定義するべきだと思っている。僕はAIの論文を書いているので、それも1つの変化の予兆かと思いますね。


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