本物の

「イノベーションを起こすクリエイティブ思考術」ゼミ第2回/「本物のデザイン思考」とは?

エリック松永氏が率いるNewsPicksアカデミア「クリエイティブ思考術」ゼミ。第2回は「本物のデザイン思考」をテーマに、デザイン思考の歴史から活用法まで盛りだくさんの講義とワークが行われました。その様子をゼミ受講生の”ジーノ”のことヨシダマナブさんがレポートします!

近年メディアやセミナーなどで取り上げられることが増えた「デザイン思考」。みなさんはどう理解していますか? 

アイディア発想のフレームワーク、人間中心主義、デザインするプロセスを課題解決に応用した思考法ーー。でも他の発想との違いとはなんでしょうか。

何度か耳にしたことはあっても、いまいち「ピンとこない」デザイン思考。

エリック氏は、デザイン思考は近年に始まったものではないと話し、ゼミ第2回「本物のデザイン思考」の講義がスタートしました。

デザイン思考の歴史

デザイン思考の歴史は、古くは1969年まで遡ります。その源流はアカデミック。さまざまな研究の後、1980年代に「これってお金になるんじゃないか?」と目をつけたのが後にIDEOを創業したデビッド・ケリー氏です。ここからデザイン思考のビジネスへの応用が始まりました。

IDEOのデザイン思考

こちらの図は、IDEOのデザイン思考のプロセスです。こちら、他の思考法との違いは何でしょうか?正直なところ私にはよくわかりませんでしたが(笑)、エリック氏によると他の思考法との違いは、「プロトタイプ」だといいます。つまり「とりあえずやっちゃわね?」というノリのことです。

皆さんが顧客の立場だとすると、膨大な資料を延々と説明されるよりも「作ってみたのでまずは使ってみましょう!」と言われる方が圧倒的にわかりやすいし、スッと入ってきますよね。

日本企業ではこのようなケースは稟議が通らないことも多く、「やっちゃえ!」がなかなかできず、前例主義に陥りがちです。その結果イノベーションが起きにくい構造になっていると感じます。

でも、「とりあえずやっちゃえ!」から本当に新しいものが出来るかというと、それも疑問です。

それについてエリック氏は、プロトタイピングにおいてはその源泉となる「共感」こそが重要であり、それがIDEOのデザイン思考のもう一つの特徴だといいます。

「共感」についてはこんなエピソードが紹介されました。

エリック氏は小学生から中学生を対象に授業を行っているのですが、グループワークの時に座っていられず教室外に飛び出していった子がいたそうです。同じチームの子は、「先生!メンバーが少なくなったので誰か一人入れてください!」といいました。ここで人を補充をするのが通常のプロセスかもしれません。
そこでエリック氏は、「席に座っていられない気持ちってわかる?どんなこと考えているのか聞きいてみたくない?」と話すと、「聞いてくる!」と子どもたちは目をキラキラさせていいます。
そのグループは外に出て、皆で輪になって座りワイワイ話します。
「なんで座らないの?」ワイワイ
「んーなんとなく…座りたくない」
「実はおれも座りたくなかったんだ!」ガヤガヤ
そしてこういう子に
「未来ってどうなるんだろう?」
「家族ってどう変わっていくかな?」
と色々な題材を出すと、他の子と全く違う意見が出てくるそうです。

これがまさに「共感」だとエリック氏はいいます。

一人がファシリテーションし、その人の強い論理で進められる議論からは、決してその人の思考以上の発想は出てきません。
そうではなく、まずはみんなで想いや意見を共有すること。そして人の意見をバカにせず、「いいね!」と共感し、それぞれが持っている発想のタネを引き出すこと。

このように共鳴し合い、そこで思い浮かんだことをやってみること。これがデザイン思考では重要です。

エリック氏のデザイン思考

時は2017年。ある有名なコンサルタントがデザイン思考を音楽に取り入れられないかと試みました。それが我ら、エリック松永です。そのプロセスは共感を土台として、以下のような順序で進められました。

概念化(イメージ、リズム)

構造化(コード進行、メロディ)

具現化(音出し、アレンジ)

精査(確認、修正)

ここで重要なのが、「概念化」に8割の時間を使うべきということです。

「いま恋してる!」「ラブソングを作りたい!」
「どんなことでキュンキュンするかな?」
「あの娘、この前より可愛くなったな。何か良いことあったのかな?」
こういった想いからイメージを作ることに8割の時間を費やすのです。

プロには納期がつきものです。そのため、どんなに良いものをつくりたくとも必ず終わらせなくてはなりません。その時、最初にゴール(すなわちいいね!と思う共感の概念化)さえできていれば、その仕事が一年であろうが一週間であろうが、最後は徹夜すればばなんとか終わるし、結果良いものができます。

反対に、最初にゴールが見えていないといつまで経っても終わらない。終わったとしても中途半端なものになってしまいます。
つまり、最初の共感と想いが肝心なのです。

ジョブズのデザイン思考

「いいね!」と思うことをいち早くやってみた。これを感覚で行い、世界規模のイノベーションを起こした人こそスティーブ・ジョブズです。ジョブズのイノベーションには以下のようなものがあります。

●テクノロジーにかっこよさを取り入れてみた
・Lisa(1984)
・iPod(2001)
・iPhone(2007)
・Beats(2014)
●音楽の購入方法や購入単位を変えてみた
・インターネット(iTunes)で簡単購入
・アルバムを一曲単位で購入可能に
●コミュニケーションをデザインしてみた
・iTunes Ping(2010~2012) ※Facebookよりも先に出たSNS

「こんなのあったらいいよね!」と皆に共感してもらえること。「これは絶対いい!」というひらめき。ジョブズはこれらを実行し、いち早くデザイン思考を体現したんですね。

2007年の携帯市場の売れ筋の分析からはきっとiPhoneは生まれません。現在・過去基準であったなら、当時は「折り畳み式」がセオリーだったはず。

でも、未来に馳せた想いから逆算する思考こそが強く人を惹き付け、世の中を変える力がある。
ジョブズのようにトップがデザイン思考をしたからAppleのような圧倒的な企業が生まれたともいえるのではないでしょうか。共感の力、恐るべし。

マイケル・ジャクソンから感じるデザイン思考

ギタリストでもあるエリック氏によると、アーティストは2種類に分かれるといいます。

●自分がイノベーションを起こす人

●イノベーションを起こす人を登用する人

これは、経営者も同じだそう。

ちなみに、マイケル・ジャクソンは後者のアーティストだとエリック氏はいいます。
こういう音楽をやりたい!という想いを概念化し、旬のアーティストを取り入れることで構造化・具現化したマイケルのイノベーションについて、ぜひ音で感じてみてください。

アルバム:OFF THE WALL(1979)

https://youtu.be/yURRmWtbTbo(Don't Stop 'Til You Get Enough)
プロデュースしたアーティスト:Quincy Jones
曲調/イメージ:Motown Sound、アフロの人が踊ってる、フーフー盛り上がっている

アルバム:Thriller(1982)

https://youtu.be/oRdxUFDoQe0(Beat it)
共感した旬のアーティスト:STEVE LUKATHER、EDDY VAN HAREN
曲調/イメージ:洗練されたアレンジ、黒人×白人(当時はありえない)

アルバム:Bad(1987)

https://youtu.be/yUi_S6YWjZw(Dirty Diana)              共感した旬のアーティスト:STEVE STEVENS
曲調/イメージ:ダーティー、ドロドロした世界観

アルバム:DANGEROUS(1991)

https://youtu.be/pTFE8cirkdQ(Black or White)
共感した旬のアーティスト:SLASH(Guns N' Roses)
曲調/イメージ:文化的価値観の越境、つながり

4曲お聴きになってみていかがでしょうか?
それぞれ全ッ然違いますよね、同じアーティストだとは思えないほどに。

常に新しいものを取り入れて発想を展開する。それが自分のリソースで表現できないのであれば、新たなイノベーターをどんどん取り込む。そして任せる。

ただ新しいだけでなく、強烈な想いやポリシーがあったからこそマイケルはスターになったんだと感じました。共感を得なければきっとここまで支持されることはなかったでしょうから。音で感じる、新鮮で刺激的でした!

グループワーク

最後は、前回のゼミで出された「ミッション」について、グループワークです。ミッションは、

フレンズZ東京(Bリーグ)をイノベーションでアップデートせよ。

グループに分かれて、講義で学んだばかりの「デザイン思考」で発想していきます。具体的には以下のような問いを概念化していきました。

1.プロバスケットボールは何と共感するべきか?
2.エンターテイメントとしてのプロバスケットボールとは?
3.アースフレンズ東京Zが目指す姿とは?

グループワークの感想を一言でいいますと、非常にフワッとした意見や考えが多かったです。(特に私が。笑)
ですが、このまとまりきらない概念にたくさんイノベーションの核が眠っている。グループワークの熱量も含めて、そんな風に感じました。

講義を終えて

「概念化」「発想のプロトタピング」「音で感じるイノベーション」ーー。いかがでしたでしょうか?

講義の標題であった「本物のデザイン思考」ですが、私は本物なんてない!といったメッセージだと感じました。

むしろ決して特別なものではなく、「普遍的でハッピーな思考である」ということが率直に思うことです。

講義で出てきたデザイン思考に共通するのことは「共感」。「共感」とは、人に興味を持って、自分にどんどん取り入れること。そして普段から自然に考えていることを共有し合っていかに展開するか。
私もこれらを実践していこうと思います。

エリックゼミは、第3回「マーケティング、ブランディング戦略」に続きます。

文:ヨシダマナブ

<プロフェッサープロフィール>

青山学院大学教授/アバナード デジタル顧問
松永エリック・匡史

バークリー音学院出身のプロギタリストという異色の経歴を持つアーティスト、教育家、ビジネスコンサルタントとマルチに活動。戦略コンサルティング、デジタルトランスフォーメーションのパイオニアとしてアクセンチュア、野村総合研究所、IBM、デロイトトーマツコンサルティング メディア・エンターテイメントセクター アジア統括パートナー/執行役員、PwCグループ デジタルサービス日本統括パートナーとしてデジタル事業の立ち上げと業界をリードし現職。現在青山学院大学の教授と並行しONE+NATION Digital & MediaのCEOとしてデジタルサービスのプロデュースを行う。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。ONE+NATION Digital & Media Inc. 代表取締役CEO

💡ゼミ詳細

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毎月最前線で活躍しているゲストをお招きしてビジネスに役立つお話を伺うイベントや少人数で集中的に学ぶゼミが開催されています。
イベント以外にも、毎月最先端の知が学べる書籍が手に入り、オリジナル動画コンテンツも視聴可能。
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