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完全読解!テクノロジー地政学/蛯原健ゼミ第4回レポート【2019年春学期】

2019年4月から開講しているNewsPicksアカデミア テクノロジー地政学ゼミ。第3回に引き続き、ゼミ受講生の金子さんが講義をレポートします。

第4回講義のテーマ:データ

「ビッグデータ」という言葉を耳にするようになってからしばらく経ちますが、AIやIoT等、大量データを前提にしたテクノロジーが本格的に社会実装されつつあると、ソフトウェアエンジニアの私もひしひしと感じています。

今回の講義では、「データ」が政治に対しても大きな影響を持つことを学ぶことに。冒頭、「以下の人物を知っていますか?」という問いかけから始まりました。

講義内容:
写真の人物はRobert Mercerという方で、Renaissance TechnologiesのCEO。
同会社の創業者はJames Simonsという高名な数学者でもある。
Renaissance Technologiesは、Quantsという手法を用いて株式の高速自動売買を行う世界的な会社。衛星画像、AI等を使った計算ロジックを用いて最適な株式売買を行う仕組みを取り入れている。同社は業界で圧倒的な競争力があり、業界では通常預けている金額の2%、預けた金額を10倍にできた場合は20%を手数料としているが、同社はそれぞれ3%と30%となっている。

この話を聞いてまず思ったことが「もし生まれ変わったら、数学科に入っとくか」。というのは半分冗談ですが、衛星すら買ってしまうビジネススケールには驚きました。

株式投資は事業への投資が本来の姿ですが、Quantsという手法はデータの推移だけを分析対象にしています。データだけで多額のお金を推移させている事実。それ自体を認識することが大事な点のように思えました。

① Cambridge Analytica

次に「Cambridge Analytica」の話題に移りました。私にとって初耳のこの会社は、以下を生業としています。

講義内容:
Cambridge Analyticaとは、Bregxitとアメリカ大統領選で勝った方の陣営のサポートをしていた選挙コンサル計量統計学を用いている。
そしてRobert Mercerは、Cambridge Analyticaの親会社の大株主で、ウルトラライト(超右派)でもある。
アメリカ大統領選の時には、有権者の性格(人間を決める五大要素OCEAN)をSNSの情報やアプリから割り出し、ヒラリー・クリントンに対しての17万通りのネガティブキャンペーンを行なった。
Cambridge Analyticaによる投票者の心理誘導について、どれほど効果があったのか疑問を投げかける政治学者は多い。しかし、Brexitにしてもアメリカ大統領選についても、世界一の金持ち(Robert Mercer)が大株主の親会社を持つCambridge Analyticaが支持した方が選挙で勝っているというのは事実である。

アメリカ大統領選がビッグデータを活用しているという事実。自分なりに考えてみると、以下のようなことが言えそうです。
 ・ビッグデータ解析で、ある程度定量的に有権者の志向の分布がわかる
 ・SNSを使って、その有権者の志向にある程度影響を与えることができる
 ・データを制御できるものが、政治的に優位に立てる

② 個人データとは誰のものか?

次に「個人データ」の定義について、ゼミ生も交えて考えてみました。色々な捉え方がありましたが、蛯原先生は単刀直入に、以下のように説明されました。

講義内容:
「個人データ」とは情報に過ぎず、記号である。従って誰のものでもない(なり得ない)。但し、その取り扱いについてはその個人がその最初の権利を持つ。

「個人データ」と言うと「自分のものに決まっている」と思えましたが、確かに目に見えるものでもなければ触れられるものでもない。ただの事実情報ですね。

③ イデオロギー対立

「個人データ」の本質を確認した後、「イデオロギー対立」の話題に入って行きました。

講義内容:
現在は以下2つの対立が世界で見られる。
1.  データ全体主義(GAFA)vs  データ個人主義( EU(十字軍))
2. 米国的リベラル(現在のEU) vs キリスト教 "個の尊厳"

2つ目の対立は、1つ目の対立を違った角度でかつ抽象度を引き上げたものと言えそうです。そして、キリスト教"個の尊厳"とはヨーロッパそのものを指している、とも。

2つ目の対立の象徴的な事象として、以下が挙げられました。

講義内容:
現在のEUは、「プライバシー」を取り戻そうとしている。GDPRはその現れ。
"ヨーロッパはヨーロッパ人のもの"と考える"汎ヨーロッパ主義"という考え方がある。2018年4月、ウイーンにて大物政治家や企業経営者がハプスブルク家の現代の当主に忠誠を誓う儀式があった。
制限のない過剰な移民の流入が起きてから、キリスト教を中心としてヨーロッパ文化を取り戻そうとする気勢が出て来ている。

この動きを我々日本人としてどう捉えるか。次の章で扱う「ポリティカル・コレクトネス」とも関連しますが、移民を受け入れ禁止にするのは道義的に良くないとする立場から無制限に受け入れてしまうと、さまざまな問題が出てくるように思えます。

そして、押し込められたバネが反発するかのように、その反動のようなことが起きるのではないか。汎ヨーロッパ主義はその最たるものに思えます。

アメリカの高関税もそういう意味では似ています。制限なしの自由貿易は、世界のバランスポイントは取れるかもしれませんが、一方で「アメリカ国内のバランスポイントは崩れていい」という態度と捉えられかねない。そして、不自然なところまで押し込まれたものを押し返すかのように、高関税を設けるという行動が起きているように思えます。

④ ポリティカル・コレクトネス

ポリティカル・コレクトネス。この言葉、私は今回の講義で初めて知りました。Wikipediaには、「性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す。政治的妥当性ともいう」との記載が。

この「ポリコレ」の立場で移民問題を考えると以下であるとのことです。

講義内容:
ポリコレの観点では、移民受入は基本的にOKとなる。
しかし、現実には移民を受け入れ過ぎた結果、問題が起きている国が少なくない。
このことから、考え方としてはポリコレはありだが、それで物事に当たっても問題が生じ、きれいごとでは終わらないのが実態。今のEUは正にそのような状態になっている。

ヨーロッパには今、"自由"が行き過ぎてその反動が来ています。日本にもいずれ、ポリコレが行き過ぎた価値観が輸入されてくるかもしれないーーそう思えました。

⑤ リンク税

次に取り上げたのが「リンク税」。

講義内容:
インターネットはいわばハイパーリンク集。
そのハイパーリンクに課税するリンク税の導入は、甚大なインパクトがある。法律は厳しいところから緩いところに伝播するもの。日本にもいずれ導入される時が来る。

インターネットがインターネットたる所以であるハイパーリンク集という基本構成自体に課税されるということは、インターネット自体が課税対象であるということと同義のように思えます。
これが導入されたら、誰かの投稿やニュースを簡単にシェアできなくなるのでしょうか。

⑥ 国際課税

次の話題は国際課税というキーワード。

講義内容:
PE(Permanent Establishment)課税の必要性が検討され始めている。
実体がある側の国で課税する、という考え方。例えば、Facebookのtax rateは17%で低過ぎる。課税をするための仕組みの検討が必要。
だが、国際協調がないと簡単には実現しないのが実情。

例えば、GAFA企業は、日本の消費者から収益を上げても日本国内には税金を落とさない、落としたとしてもごくわずかというスキームを取っています。一国民としては、日本にもう少し税金を納めて頂きたいと思わされる話です。

⑦ データビジネス

次にデータビジネスの特徴について学びました。

講義内容:
一方向の「規模の経済」。クリティカルマスを超えた後は、スケールが効く程さらにスケールする。GoogleやFacebookを超えるデータを持つ企業は今後出てこないと考えられる。政治介入がない限り、この2社は今後も大きくなるのみ。

これを聞いて思い出したのが、こちらの話しです。「AIは大量の学習データを入力されればされただけ、その学習モデルの精度が高まるが、そうすると利用者は当然そのより優れた学習モデルを使ったサービスを使いたくなるわけで、その結果さらにデータが集まる、そしてまた学習モデルの最適化が進む。つまり、そのサイクルに先に入ることが大事であり、日本の企業の多くはもう手遅れであるーー」。どなたか有名なAI学者の説ですが、改めて危機感を感じさせられました。

⑧ 多元的思考

次のトピックは、重要なフレームワークの一つである、「多元的思考」についてです。

講義内容:
あらゆるものは多元論的である。今日のデータ論は好きか嫌いかであり、気分である。どちらが良いとかではないため、一歩退いてどちら側も正しいと見ることが重要。例えば、Urbanizationにより人は都市に移動し、テック系企業は郊外の土地に移動している。2つの現象は別々の事象に見えるが、抽象度を一段上げてみると「発展」という同じキーワードで語ることができる。過剰流動性とイノベーションの2つについても同じ。一つの多面体の逆側の側面を述べていると言える。

そう説明を聞くと、なるほどと思えますが、いざ「多元的思考」を実践しようとするとこれがなかなか難しい。例えば、最近のコンビニでは外国の方がレジをしていますが、これを一歩退いて、抽象度を上げてどういうことかスッと言えるでしょうか。(ちなみに私はスッと言えるレベルではありません)

蛯原先生は「多元論的思考」はとても重要とおっしゃいます。私も時間をかけて身につけて行きたいと思います。

⑨ 未来論

次の話は「未来論」。よく未来についての記事を見かけますが、未来を語っている人の見分け方、あるいは、どういう人が未来を語る時にどういう風に言う傾向があるか、と言う話でした。

講義内容:
「ビットコインが来る」という言い方は投資家によるもの
「ビットコインを作る」という言い方は起業家によるもの
後者が先立つ。

私は起業家ではありませんが、ソフトウェアエンジニアとして、やはり後者の方を発言するマインドを持ちたいなと思います。

⑩ 日本について

講義の最後、日本について触れました。

講義内容:
今の日本は、所属意識、帰属意識がなさすぎる。
昔は会社がそれであったが今はそれもない状況。コミュニティの再設計が必要で、まずはそれができないといけない。

これは、海外での生活時間が圧倒的に長い蛯原先生が、今の日本人を客観的に見て感じられたことなのだと思います。

昔の日本は、地域の中での繋がりがあり、「隣の家から醤油を借りる」ことができる関係があり、その人がその地域の一員である帰属意識があったと思います。また、会社も「ミニ国家」として機能し、結婚相手の世話までしていたとも聞きます。家庭についても、家族一緒にいる時間が長かった時代は、自分が家族の一員という意識が強かったと思います。

しかし、今はどうかというと、人それぞれで状況は違うと言えど、全体としては、どこに対しても帰属意識が薄れているのが実態なのかな、と思いました。

その他

その他、講義中に出てきたその他のキーワードを以下に示します。調べてみる価値ありかと思います。

講義内容:
・マイクロターゲティング
・過剰流動性
・Innovator's Dilema VS Leapfrog

なお、「イノベーションのジレンマ」という言葉は間違っている、「イノベーション」ではなく、「イノベーター」だと解説されていました。

全体を通して

第4回のテーマである「データ」。人はデータを扱っているというよりは、データに翻弄されている、それが本当のところかもしれません。

一方、データそのものは無機質であるため、「データ」に意識が行き過ぎると無機質な人間になってしまいそうで、それによって自分を見失ってしまうことがないように気をつけないと、そっちに引っ張られるなとも思いました。

そして、その予防線を張るのには、多元論的思考が大事であり、現在の自分を取り巻く環境について、客観的にその構成要素とその作用を理解し、その上で自分がどのように振る舞うべきかを見極めて行くのが重要であると思いました。

以上、第4回の講義リポートでした。

執筆:金子

過去のゼミレポートはこちら:

第1回蝦原ゼミ

第2回蝦原ゼミ

第3回蝦原ゼミ

<プロフェッサープロフィール>

蛯原健
リブライトパートナーズ 代表パートナー。1994年、横浜国立大学経済学部卒、㈱ジャフコに入社。以来20年以上にわたり一貫しスタートアップの投資及び経営に携わる。 2008年、独立系ベンチャーキャピタルとしてリブライトパートナーズ㈱を創業。 2010年、シンガポールに事業拠点を移し東南アジア投資を開始。 2014年、バンガロールに常設チームを設置しインド投資を本格開始。 現在シンガポールに家族と在住し、事業拠点はシンガポール、インドと東京の3拠点。

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