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「幸せ」が強い組織を作る?/前野隆司「実践・幸福学入門」イベントレポート

12月28日(金)に行われたNewsPicksアカデミアイベント前野隆司さんの「実践・幸福学入門」の模様をアカデミアアンバサダーの山口がお伝えします。

2018年は、職場、家庭以外の「第3の場」としてのコミュニティに大きな注目が集まった年でした。コミュニティに属することの幸せとは? 幸せなコミュニティって? そんな問いに考えを巡らせた方も多かったのではないでしょうか。

しかしこの「幸せ」というもの。捉えどころがなくてどうも主観的な感じがするし、話を勧めようとするとフワッとしてしまいます。

そんな扱いが難しい幸せについて、『幸福学』という形で実践的に教えていただける場ということで、NewsPicksアカデミアのイベントに参加しました。

幸せを科学するって?

講演されたのはもともと理系で機械工学を専攻され、SONYでのエンジニアとしてのバックグラウンドも持つ前野隆司先生。

科学的アプローチを用いて「幸せ」を分解し、幸せな生活づくり、幸せな仕事づくり、幸せなサービス設計といった事柄について日々考えていらっしゃいます。

まず紹介されたのはこちらの統計です。幸せな社員はそうでない人に対して創造性が3倍高い。それだけでなく生産性も3割高く3割高い売上げを上げる。そんな結果が出ているそうです。更には欠勤率や離職率も低いのだとか。

政府は「働き方改革」と言って、効率性を高めて早く帰ることばかりを推進していますが、幸せを真正面から追求することは企業にとっても経済合理性がある。そんなことが数字からも読み取れました。

更に、幸せと寿命にも相関関係があるといいます。

幸せを感じている人はそうでない人に比べて7.5〜10年寿命が長い

この結果をみても、幸せを高めることの合理的な理由がわかります。

一方、お金があれば幸せになれるのか?という問いについても研究があります。

たくさんお金をもらえるほど幸せを感じる人は、一定レベル(750万円)くらいまでは比例しますが、それを超えると、お金と幸せの相関関係はなくなるといいます。

これはどういうことでしょうか。前野先生は、他人と比べて勝つことによる幸せ(地位財による幸せ)は長続きしない一方、安心、健康、心といった非地位財による幸せは長続きするという研究があるといいます。

つまり快適で安全なところに身を置くことや、健康であること、そして自己肯定感・自尊感情などを持っている人は幸福度が高い傾向が出るのです。

国が発展途上の場合は、地位材による幸せはある程度満たす必要がありますが、その段階を超えている日本では、非地位財による幸せに軸足が移すべき時なのかもしれません。

幸せの4つの因子

では、どんな状態が幸せを作るのでしょうか。前野先生は、「4つの因子」を満たしている人が幸せだとお話しされました。

■第1因子 自己実現と成長の因子(やってみよう因子)

まず一つ目の因子は自己実現と成長の因子。通称「やってみよう因子」です。夢や目標を持って努力し成長する人は、幸せ度も高いそうです。

レンガ積みのような一見たいくつな仕事も、その仕事の結果、大聖堂ができて、それが人々の役に立つと思えばやりがいを感じるのだそう。夢や目標を持つことで、同じ作業でもそこから得られる幸福度が大きく変わってくるのです。

徳島にある小さなネジを作っている西精工という会社では、毎朝1時間かけて朝礼をし、会社の理念や、仕事・生活上の悩みを従業員どうしで共有しているそうです。
これをすると、お互い困っているところは補い合って、みんなでがんばろうと気持ちが生まれるのだとか。

本気で「働き方改革」をしたいのであれば、こういった無駄だと思える会議をもっとすべきと前野先生はいいます。

そもそも自分は仕事として何をやりたいのか。何に困っているのか。
そういう大きな話をしなければ、仕事にはやらされ感が出てしまうのです。

■第2因子 つながりと感謝の因子(ありがとう因子)

続いて第2因子は、つながりと感謝の因子。通称ありがとう因子です。色々な人と接し、友人に感謝し、利他的な人ほど幸せを感じられるというものです。

第1因子がドーパミンが出る因子であるのに対し、第2因子ではオキシトシンが出ます。

人を幸せにしたいと思って行動すると、自分が幸せになれるように私たちの心はできているそう。

不思議なもので、自分だけ生き残ればいい、お金が儲かればいいという人は幸せにならないという研究があるといいます。

無理矢理にでも、利他的な行動をすれば人は幸せになるというから驚きです。

■第3因子 前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)

続いては、前向きと楽観の因子。通称なんとかなる因子です。

自己肯定感が高く、楽観的でポジティブ、細かいことを気にしない人ほど幸せを感じられるといいます。

笑顔でいて、上を向いて大股で歩くと幸せな気分になるという研究もあるそう。

「楽観的すぎるととんでもないミスを引き起こすんじゃないか?」と不安になる人もいるかもしれないですが、楽観にもいい楽観、悪い楽観があります。「適当にやって、あとは天任せ」というのは悪い楽観でこれをしてはいけないですが、やるだけやって、あとは笑顔でいるというのがいい楽観。これがあると幸せを感じらるといいます。

■第4因子 独立と自分らしさの因子(ありのままに因子)

最後の因子は、独立と自分らしさの因子。通称ありのままに因子です。

人の目を気にせず、自分らしさを持っている人、そして自分のペースを守れる人は幸せということです。

これら、4つの因子が揃った人が幸せなのだと前野先生はお話されました。

イノベーションと幸せの相関関係

アメリカが得意な「個人主義」とアジアが得意な「集団主義」とでは、どちらが幸せなのか?ということについては、両方ある人が幸せだという研究があるそうです。

アメリカのような個人主義社会でも、家族や同僚を大事にしているような人が幸せなのだとか。

明治維新や戦後の日本では、実はたくさんのイノベーションが起きていたことからもわかるように、もともと日本にはやってみよう因子や楽観の因子もありました。

でも、米国流の成果主義を中途半端に取り入れた結果、どうも日本企業はもともと持っていた良さを失ってしまったのではないか、と前野先生はいいます。

「やってみよう」とか「なんとかなる」というアグレッシブな気持ちが足りないことから、大胆なイノベーションが起きなくなっている。それが最近の日本だといいます。

これからのAI時代をどう生き抜くか? この問いを考えるに当たっても、幸せの4因子がカギになると前野先生はおっしゃいます。やってみよう因子となんとかなる因子でどんどんチャレンジしていくことがこれからますます大切になるのです。

幸せをきちんと測ろう

それでは何をしたらいいか、ということですが、健康を維持するために健康診断をして対処するのと同じように、幸せも診断をして、強いところ、弱いところは何か?を把握することがまずは必要だと前野先生はお話しされます。

「働き方改革」では、無駄な会議はいらないといって排除してきましたが、実はそれによって幸福度が上がり、増収増益になるという事例もあります。

今後は、ぜひ幸せをきちんと計測して、幸せな社会、幸せな会社を作りましょうと呼びかけられて、講演は終了になりました。

年末にもかかわらず会場には140名を超える方が集まり、前野先生にたくさんの質問を投げかけていました。

昨今、企業経営においても「モチベーション」や「エンゲージメント」が注目されていますが、今後ますますその分野が重視されていくだろうし、そのヒントは幸福学にありそうだと感じました。

前野先生は2019年4月からアカデミアでゼミを持たれるということで、どんな内容になるのか、今からとても楽しみです。

<登壇者プロフィール>
前野隆司(まえの・たかし)
1962年山口生まれ。広島育ち。84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2011年より同研究科委員長兼任。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。

研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、ハプティックインタフェース、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、人間にかかわる研究なら何でもする、というスタンスで、様々な研究・教育活動を行っている。

<イベント詳細>

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