テクノロジー地政学/蛯原ゼミ第5回:「次の」そして「最後の」超大国【インド】
シンガポール在住ベンチャーキャピタリスト・蛯原健氏が率いたNewsPicksアカデミア「テクノロジー地政学」ゼミ。今回は、台頭しつつある超重要国「インド」に迫った第5回の講義について、ゼミ受講生の倉橋さんがレポートします。
今回の講義は、知りたくてもなかなか全容が掴めなかった【超重要国家】インドについて。講義を受け、成長が楽しみな領域だと感じたインド地政学の内容をレポートします。
第5回テーマ:超重要国家・民族
ーThe Next and Last Super Power INDIA🇮🇳ー
「次の」そして「最後の」超大国であるインド
インドの理解を深めるにあたり、ここでは3つの章に分けて解説をしていきます。
<目次>
1.インド"人"経済圏:
NRI(Non Residential india):インドに住んでいないインド人
2.イノベーションのオフショア
BPOやオフショア開発の拠点ではなく、イノベーションのオフショア(R&D)拠点としてのインド
3.スタートアップモディ首相が推し進めるデジタル/スタートアップインディア
*
1.インド"人"経済圏
インドで大学を卒業後、海外に拠点を持つ「印僑」、すなわちNRI(Non Residential india)が世界で活躍していることをみなさんはご存知でしょうか。
金融分野では以下のような「印僑」が注目されています。
◯ラジーブ・ミスラ氏(投資金融)
ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズ
(ファンドの運用責任を司っている会社)最高経営責任者(CEO)
金融工学に強い
◯アジット・ジェイン氏(投資金融)
ウォーレン・バフェット氏 米投資会社バークシャー・ハザウェイ
後継者 2人のうちの1人
印僑の王道の投資スタイルは、バリュー投資、そしてグロース投資。
バリュー投資:儲かっている会社のキャッシュフローに放り込む
ベンジャミン・グレアムが考案
ウォーレン・バフェットが代表格
グロース投資:成長に張る
このどちらの領域もインド人投資家がトップを貼っているそうです。
一方、産業領域ではこんな「印僑」の方々が活躍しています。
◯ビノッド・コースラ氏(テクノロジー)
サン・マイクロシステムズ社の共同設立者
シリコンバレーのトップベンチャーキャピタリストの一人
◯ラクシュミー・ミッタル氏(鉄)
世界一の鉄鋼メーカー アルセロール・ミッタル ファウンダー
◯アローク・ロヒア氏(石油精製品)
石油化学製品の世界シェアTOP インドラマの創業者社長 タイの富豪
また、起業(Start up)領域でもNRIは存在感を放っています。
Internet Trends Report 2019
現状のテクノロジーの状況を知るために非常によい参考文献です
蛯原先生によると、シリコンバレーのスタートアップはNRIが多く、体感的には20%くらいがインド系だそう。また、その90数%はIIT出身です。
<インド工科大学:IIT インド最高学府>1万人が入学
インドに23校
ネルー初代首相が頭脳立国を唱えて1校目を設立、教育強化
NRI活躍の秘訣には、以下のような要素があります。
・教育熱心
・ネットワーク(IIT出身者 アッパーミドル以上)
・他民族(国として多様化している状態なので、多国籍企業とかは楽)
・在外資産(外国送金で圧倒的 移民一世が送金する)
・英語×数学が得意
・カースト制度への反発(PGなどはカースト外)
→カーストでの差別は、憲法で禁止されている
ただし、NRIには経済格差もあり、それを生んでいるのが「教育格差」だといいます。そのため、近年では弱者集団の不利な現状を是正するための改善措置として、アファーマティブ・アクション(affirmative action)も注目を集めています。
ただ、IITに低カーストの人も極少数入るものの、教育レベルが違うため結局ついていけない事態も起きているそう。実はスタートアップで活躍する人は富裕層で高学歴という「不都合な事実」が現実なのです。
そんなインドは現在、高度成長期。その後成長も頭打ちとなり、高齢化に入ると予想されています。
NRIの数も、華僑と同レベルの3000万人となり、これ以上は増えないと見ているそう。
そしてイノベーションのインフレによる「失敗のデフレ」、そして移民一世が半世紀を経て高齢化していく時代に入ると言われています。
ちなみに、世界の4大移民といえば、①華僑(客家)、②アルメニア人、③イスラエル人、④インド人。
インド移民の特徴としては以下のような点があげられます。
1、歴史が新しい(半世紀ほど)、他は古い歴史1000年以上
2、迫害されてない
3、ブルーカラーが多い
2. イノベーション・R&D論
さて、講義は続いての話題へ。これまでオフショア拠点としてアウトソーシングサービスを先進国に多数提供してきたインドですが、そのモデルから卒業しつつあるといいます。
もともとインドでは以下のようにIT人材が豊富です。
ソフトウェアプログラマー人口600万人
地場企業も多い TATA30万人以上
世界のデータカンパニーが獲得に来ている IBM・アクセンチュアなど
理工系大学の卒業生150万人(日本の全卒業者の3倍)
しかし最近では、RPA による自動化で仕事がなくなるかもしれないという危機感から、データサイエンティスト教育が強化されているといいます。
3.スタートアップ・進出論
最後のトピックは、スタートアップがインドにどう進出するかというテーマ。
インドで成功しているユニコーン企業の上位10社のうち8社はIIT出身で、10社中9社がMicrosoft、McKinseyなど海外のグローバル企業で経験を積み、インドに戻ってからユニコーン企業を作ったファウンダーが多いといいます。
One97(Paytm)・・・ソフトバンクが出資、paypayと提携している
ファウンダーは高卒(チャレンジしない)
そんなインドへ、海外の企業が進出する狙いは、以下の3パターンのどれかです。
1、インド市場を獲得したい
2、製造/調達の拠点としたい
3、人材の獲得(現地人材の獲得、本社での登用)
資本構成はというと、独資ではなく財閥とジョイントベンチャーを組むケースが多いものの、うまくいかないことも多いそう。
というのも、民主国家のインドに強制技術移転のようなものは一切ないものの、小売はマジョリティ持てないというような外資規制があるといいます。
そのため、成長している中堅企業またはスタートアップに出資・買収し、現地の販社的に使ったり、信頼関係を作る方法が多く見られます。
一方、市場としてのインドには以下のような特徴があります。
・中間層の消費者市場しかない 都市化して人口ボーナス
・給与は10-15%up(インフレしているから給与をあげないとダメ)
・今は車(CASE)とヘルスケア↓
・2040年までに、50%はEV、50%はシェアリング、36%は自動運転
その他インド進出において考慮すべきポイントは以下のとおりです。
◆注目すべき都市はどこか?
3大都市:デリー、ムンバイ、バンガーロール
蛯原先生が注目してるのは、バンガーロール/チェンナイベルト(製造/IT系)
◆カントリーリスクは?
民間ではなくインド政府から訴えられるリスクや二重課税リスク、税全般がリスクが考えられます。
◆中国との関係は?
インドと中国は歴史的なライバルだといいます。インドには長年チャイナタウンがありません。
以上が講義内容です。
一度は行ってみたいインド。そこで行われるビジネスは、他では感じられないダイナミックさに溢れているように感じられました。
執筆:倉橋美佳
<これまでの蛯原ゼミレポート>
第1回:テクノロジー地政学 思考のフレームワーク1
第2回:テクノロジー地政学 思考のフレームワーク2
第3回:中国
第4回:データ
<プロフェッサープロフィール>
蛯原健
リブライトパートナーズ 代表パートナー。1994年、横浜国立大学経済学部卒、㈱ジャフコに入社。以来20年以上にわたり一貫しスタートアップの投資及び経営に携わる。 2008年、独立系ベンチャーキャピタルとしてリブライトパートナーズ㈱を創業。 2010年、シンガポールに事業拠点を移し東南アジア投資を開始。 2014年、バンガロールに常設チームを設置しインド投資を本格開始。 現在シンガポールに家族と在住し、事業拠点はシンガポール、インドと東京の3拠点。
<ゼミ詳細>
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