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さらば、GG資本主義。高齢化日本に現れた「変化」の兆しとは?/藤野英人氏イベントレポート

高齢世代が経済の中心を牛耳り続けている現代日本。そのいびつな構造は日本そのものの成長を奪っているとすらいわれます。

そんな中、若者の価値観の変化などポジティブな流れが出てきているのも事実。そのような変化の可能性について、ひふみ投信ファンドマネージャー兼レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・CIO(最高投資責任者)の藤野 英人さんの講演イベントが開催されました。

講演のテーマは、藤野さんのご著書『さらば、GG資本主義〜最強ファンドマネージャーが日本の未来を信じている理由』(光文社新書)について。

「GG資本主義」とは、ベテランが良い方向に導くという前提のもと、上の世代が重要ポストに居座り、牛耳ろうとする経済のことを指します。

ちなみに「GG」とは、「ジジイ」の音からきているとか。

数年前、セブン&アイのお家騒動で鈴木敏文さんと井阪隆一さんが対立し、鈴木さんが会長を退任した後も古参幹部が重要ポストに居座った件が注目を集めましたが、藤野さんはそんな様子を目の当たりにしたことをきっかけに、この本を書くことにしたそうです。

GG資本主義と株価の関係

まず、社長の年齢と株価の成長率の関連を示す興味深いデータが紹介されました。
株価の成長率の平均を取ると、30代・40代が社長の会社ほど高く、60代の会社ほど低くなっています。
「日本の社長の適齢期は60代といわれることがありますが、株価の成績ベースでいうと社長の適齢期は、40代と50代ということがわかります。

今の経団連は、GG資本主義の象徴的存在

次に、経団連の会長や副会長を輩出している会社の株価の推移が紹介されました。

グラフ上、緑の線が経団連の会長・副会長の会社の株価のこの3年間の推移です。実に、マイナス7.2%の下落です。
これに対し、東証株価指数は、プラス11.2%。
東証株価指数から経団連の会長・副会長の会社の株価を抜けば、東証株価指数はもっと上がるはずです。
つまり、日本の株価の足を引っ張っているのは、経団連の会長・副会長の会社の株価だといえる、と解説されました。

更に、CORE30という時価総額の上位30社は、マイナス1.6%。
マザーズは、プラス37.2%。

サラリーマン経営者に投資した場合と、上場創業社長に投資した場合とではかなりの差が出ると言えそうです。

でもなぜこのような差が出るのでしょうか。それは、大企業では「社長」の座にたどり着くことがゴールであるのに対し、創業社長にとっては社長になることはスタートにすぎないことが関係しているとか。

ちなみに、経団連には会長が1名、副会長は18名もいることをご存知でしょうか。
副会長がこれほど多い背景には、経団連の副会長職が叙勲対象であることと関係しているそうです。

GG資本主義の環境にいる人は、何をすればよいのか ?

とはいえ、GG資本主義の会社も社会的役割を果たしています。そこに自己実現の場があり、邁進できる環境であるならば、そこで頑張ることを否定するものではありません。
大切なことは、粉飾決算のような良心を問われる事案に直面したときに、正しいと思うことを進言できるのか、あるいはそういう場からは身を引き、自己実現できる場に進むことを選択できるかどうかだといいます。

藤野さんご自身、最善を尽くせなかった苦い経験があるとか。

ITバブルの時代、当時運用を担当していたファンドでIT銘柄をはずして地味な銘柄に入れ替えたところ、証券会社から圧力があり、藤野さんの出張中に上長が買い戻していたそうです。
それを知った藤野さんは転職を決意したそうですが、後にその会社はこのことで損失を被ったといいます。
今振り返ると、社長や同僚を全力で説得して損を免れる手を打ち、次の勝負に備えようと強く主張すべきだったと考えているそうです。

GG資本主義を変えたいのならば、「虎」になれ!!

では、GG資本主義を日本を変えていくためには、何が必要なのでしょうか。

藤野さんは以下の3つの「虎」が日本を救うといいます。

一つめは、 東京などの都市部で活躍するベンチャーの虎。主にIT技術を使って、「社会を変えて見せる」と奮起する起業家たちです。「メルカリ」創業者の山田進太郎会長兼CEOなどが代表例です。

二つめは、 地方を引っ張る地元のリーダーであるヤンキーの虎。生まれ育った地元を出ないで地方に住む若者を「マイルドヤンキー」と博報堂の原田曜平氏が名付けたのに由来しますが、マイルドヤンキーたちの雇用の受け皿としてビジネスを拡大する経営者のことを、「ヤンキーの虎」と藤野さんは定義しています。携帯ショップや飲食店など、生活に根付いた事業を買収し、持ち株会社化するのがヤンキーの虎の手法です。

そして三つめは、 会社の中で存在感を発揮する社員の虎(トラリーマン)。社命よりも自らの使命に基づいて行動し、会社のリソースを使って顧客のために働くサラリーマンを指します。

ちなみに、トラリーマンについては楽天の仲山さんの著書『組織にいながら、自由に働く。 仕事の不安が「夢中」に変わる「加減乗除(+-×÷)の法則」』も参考になります。

それでは、トラリーマンになるためには何が必要でしょうか。藤野さんは以下の3点が重要と話します。

1. 圧倒的な成果や成功の実績
2. 顧客からの信頼
3. 会社の中の強力な庇護者の存在

起業家で成功している人も、サラリーマン時代にトラリーマンのように仕事をしていた人がほとんどだとか。皆さんの会社にも「あああいつだ」とイメージできる人がいるのではないでしょうか。

投資先を決める際にみるものとは?

藤野さんが投資先を決める際には、その会社の人が、自分の人生を生きているかを基準にしているそうです。
「自分の会社が好きですか?」と聞いたら、社員の90%が大好きと答えたからこれは絶対買いだと思ったのが、前澤友作氏のZOZOTOWNだったとか。

他にも、投資判断のベースとなる会社の本質が見えるポイントを、藤野さんがいくつかご紹介くださいました。

1.晴れているのに傘立てに傘がいっぱいある会社
傘立ての傘を誰も掃除しない会社は、当事者意識のない人が集まっている可能性があります。

2.会議室にホワイトボードが設置されていない会社
ホワイトボードがないということは、議論されていないことを示します。上から下への情報伝達だけで、双方向的な議論をしていない可能性があります。

3.ホワイトボードがあっても、インクがなくなったペンを放置している会社

ペンが書けなくても自ら替えに行かない、つまり自分事として捉えていない人が多い可能性があります。

4.会社のホームページに社長や役員の写真がない会社
役員の個別写真がホームページにあるのは、上場会社のうち11パーセントの会社だけだとか。役員の個別写真が載っている会社は株価が高い傾向もあるそうです。
ちなみに、ホームページの社長の挨拶にしても、私・私達を使っている会社の方が、当社・弊社を使っている会社よりも業績も株価もいいそうです。「私・私達」というが主語に社長の責任感があらわれるのでしょう。

5.社員が自分の会社のことを好きそうな会社

社員がいやいや働いているような会社ではなく、社員が自分の会社のことを好きそうな会社に投資するそうです。
「なに」をやっているかよりも、「どのように」人が働いているかが投資判断として大事にしているそうです。

藤野さんからのメッセージ

藤野さんは、2008年に会社がほぼ倒産状態になり、全財産を失い、多くの社員に裏切られた経験があるそう。そんなことから、今はシンプルに好きな人達と楽しく仕事をすることをつらぬいているそうです儲かりそうだからこの人と手を組むということはしません。使命感がある仲間たちと仕事そのものに充足感を持って取り組むことを何より大切にされています。

ちなみに、「さらば、GG資本主義」という本を出しても、苦情は1件もきていないのだそう。反発を恐れて発言しないよりも、主張した方がいいと思っているそうです。

感じたこと・思ったことを少しずつでもチャレンジし、行動に移す。その0.1%か1%の変化が塵も積もれば山となり、複利で伸びていきます。

行動も投資の1つです。チャレンジしてみてくださいとエールを投げかけ、イベントは終了になりました。

イベントリンク:

藤野 英人

野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業。CIO(最高投資責任者)に就任。2009年取締役就任後、2015年10月より代表取締役社長。
中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。東証アカデミーフェロー。

野村高文
NewsPicks編集部エディター/NewsPicksアカデミアプロジェクトマネージャー。愛知県出身。PHP研究所Voice編集部、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を経て現職。

文:宮崎 恵美子 

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