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コラム「境を越えた瞬間」2024年1月号-辻友紀子さん‐

プロフィール

辻 友紀子(つじ ゆきこ)

  • 車椅子のパステル画家

茨城県水戸市在住。1980年生まれ。
5歳のときに、難病・筋ジストロフィーと診断される。
15歳のころ車椅子ユーザーになるも、18歳のとき、絵を描くことに巡り逢う。
27歳のとき、茨城県芸術祭美術展覧会・デザイン科にて、特賞を受賞。同年、人工呼吸器ューザーになるが、翌年より、絵を描くことを再開。
主な著書に、本田美奈子さんとの共著『ありがとう』、初めてのソロ絵本『また きょうも みつけた』がある。

アクアワールド茨城県大洗水族館で開催された個展にて


学生ヘルパーと黄色のパステルを手にする


窓から、明るい陽射しが降り注いでいる。
わたしは、パステル画を制作している。
もりひちゃんへ、“きいろ”と、文字で書いた。
もりひちゃんが、「これですか?」「こっち?」と聞いてくれて、わたしは、ほしい色のところで、うなずく。
もりひちゃんがわたしの右手のなかに、きいろのパステルを渡してくれた。


もりひちゃんは、わたしにとって、はじめての学生ヘルパーさんだ。


2019年夏、究極のヘルパー不足により、わたしは、入院を余儀なくされていた。CIL の代表さんが、人手を増やす手だてとして、学生ヘルパーを使うことを提案してくれた。
『人工呼吸器を使うわたしのヘルパーさんは、経験や年齢を積み重ねたベテランな人のほうが良いのでは...』と、暗い病室で、わたしはそう思っていた。

退院後、大学生のもりひちゃんが見学・面談に来た。
髪の色が明るく、元気いっぱいの女の子だった。
人工呼吸器、カニューレ、カテーテル...、もりひちゃんにとって、 わたしの介助に入るには何もかも見るのもはじめてなことばかりだったに違いない。

同行研修時代、先輩ヘルパーが、もりひちゃんに、「聞こえる?友紀子さんの胸のあたり、ゴロゴロしてるでしょ?これが、痰が上がっている音なのよ。分かる?」と教えたとき、もりひちゃんは、はじめて聴いたであろう、その音に真剣に耳をすましてくれた。いまでは、いちはやく、痰の音を聴きとり、「吸引しますかー?」と声かけてくれる。

もりひちゃんは、介助に入るたび、「きゃー、友紀子さーん!聴いてくださーい! こないだね!、大学で、こんなことがあったんですー!」と、ベッドわきで、食事介助をしながら、色々な話をしてくれた。

この仕事に入って、きょうで2年目という日に、筆談ボードに、ケーキの絵を描くと、「わあ!」と、絵の写メを大事そうに撮ってくれた。


パステル画の制作風景、自宅の和室にて。

就活の時期が始まり、大学で観光業の勉強をしているもりひちゃんは、旅行介助士という資格を取得した。学生ヘルパーは、大学を卒業すれば、介助も卒業でさみしいけど、もりひちゃんなら、この仕事で得たことを生かして、仕事していくんだろう、と思い、お互いの道が交差してることが、嬉しかった

そして、先日、卒業後も、このまま、この介助の仕事を続けることに決めたと、話してくれた。新しい春が来たら、もりひちゃんが、この仕事に、就職する。


もりひちゃんに初めて会う直前、コーディネーターが教えてくれた。「名前は、もりひちゃん、って言ってね...、...。」「その『ひ』の文字の通り、ほんとうに太陽みたいな子なの。」と。

誰しも、はじめてやることは、不安だけど、やってみないと、できるかどうかなんて、 わからない。

境を越えた瞬間...、それは、「わたしの介助は学生さんでは、無理なのでは。」と思ってたことが、もりひちゃんとの出逢いにより、それは、ただのわたしの思い込みだと、気づけ、新しい太陽をもらったこと。


辻さんともりひちゃん、お揃いのお菓子をもらってにっこり♡


境は至るところにあります。目に見える境もあれば目に見えない境もあります。境がないと壊れてしまうものもあれば、境があるから困ってしまうことがあるのかもしれません。
毎月、障がい・福祉・医療に関わる方に「境を越えた瞬間」というテーマでコラムを書いていただいています。
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