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Vol.3 横浜こどもホスピスインタビュー〜前編〜【NPO Times】



前編~どのような活動?~

【はじめに】

 今回は、保健・医療・福祉/社会教育/子どもの健全育成の活動分野から、認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト様にインタビューを行いました。インタビューに答えていただいたのは、代表理事の田川さんと事務局の杉山さん。お2方とも、お子さんを幼くして病気で亡くされており、そのときの体験がこの活動にも繋がっていると言います。インタビューでは、こどもホスピスとはどういった活動なのか、スタッフの方々がその活動にかける熱い思い、そしてそれを支える周囲からの多くの温かい支援の様子が随所に見えたので、是非最後まで記事を読んでいただきたいです。

外観の写真
(昼は太陽光が差し込み暖かい雰囲気に、夕方には夕日が差し込み落ち着いた雰囲気になる)
正面玄関


【そもそも「こどもホスピス」とは?】

 全国には、生命に関わる病気・状態(Life-Threatening Condition、 LTC)のこどもが約2万人いるといわれています。LTCの例として、小児がん・先天性心疾患・重度脳性麻痺・筋ジストロフィーなどがあります。現代の医療の発達により、そのような病気をかかえながらも多くの子どもたちが暮らしを送ることが可能になりました。しかし、一方でLTCの子どもとその家族は、医療・福祉・教育など様々な制度の狭間で孤立し、社会的に大きな負担を抱えています。既存の制度では症状をもとに利用できる制度や施設が決まっています。例えば、国の制度上、からだが動かせるこどもに対しては医療費以外の支援がありません。このように既存の制度では対応しきれない子どもたちがいるなど制度が行き届いていないのが現状です。

 「こどもホスピス」とはそのようなLTCのお子さんたちの支援を目的とした活動です。しかし、ホスピスとは言っても、大人の終末期に対するホスピスと大きく異なる点が2つあると感じました。
1つ目は、こども皆は、成長発達を続け、学びたいという気持ちや遊びたいという気持ちを強くもっているということです。成長するこどもに寄り添った毎日の過ごし方を支援するために、スタッフの方々などが工夫を凝らしているのがよく分かりました。
2つ目は、お子さんだけでなくその周りの親御さんや兄弟姉妹(きょうだい)への支援・サポートも必要不可欠であるということです。こどもを見送ったあとも生きる家族へのサポートにも力を注いでいることが分かりました。
 横浜こどもホスピスでは、このようにLTCのお子さんに対する支援はもちろんのことその家族に対するサポート、そしてそれらを支え広めていくための広報・PR活動を行っています。

【子どもが輝く時間をつくる横浜こどもホスピス】

 横浜こどもホスピスでは、生命に関わる病気・状態(LTC)のお子さんへの支援として、お子さんの「やりたい」をかなえることでお子さんが楽しく過ごし「輝く今」を作る活動をしています。
 例えば、お友達と一緒にお誕生日会。うみとそらのおうち(横浜こどもホスピスが実際にホスピス活動を行う建物)には、LTCのお子さんだけでなくそのお友達家族も一緒に利用することができます。スタッフの方々は、その準備や実施などのお手伝いや、家族目線で一緒に楽しみながら温かくお子さんや家族を迎えてくれます。加えて、お子さんに特別感を味わってもらうために、プロのカメラマンをお呼びして記念撮影をしたり、交流があるNPO法人あっちこっちさん(芸術を通して社会貢献活動を行うNPO法人)などからピアニストなどをお呼びして演奏会を行ったりもするそう。他にも、お庭でのBBQをしたり、目の前を流れる川で魚釣りをしたり、キッチンで一緒にお料理をしたりといったレクリエーションもできます。

 病気のないお子さんにとって「普通」に見えることでも、家族だけでは準備や実施が難しいこともあります。ここでは看護師や保育士の資格を持つスタッフの方々が温かく迎えてくれ、お子さん本人や家族が気兼ねなく楽しめるようなサポートをしながら一緒に楽しんでくれます。InstagramやFacebookといったSNSなどでも数々のお子さんと楽しい時間を過ごした喜びや感謝の声が挙がっています。

【「うみとそらのおうち」にはお子さんのための工夫がいっぱい】

 こどもの「やりたい」をかなえるために、「うみとそらのおうち」(横浜こどもホスピスが実際にホスピス活動を行う建物)には数々の工夫・配慮がされています。
正面の玄関はバリアフリーで段差がないのはもちろんのこと、玄関に手洗い場が設けられており、感染対策はバッチリ。特に、このコロナ禍により玄関での手洗いに留まらず感染対策には細心の注意を払っているそう。
また出入口はもう一つ駐車場近くに設けられており、出入口近くにエレベーターが設置されているため2階への移動もスムーズに行えます。
正面玄関から入るとまず開放的な大きな窓が目に付きます。おうち全体として窓が大きく設計されており、おうちの中から外の様子が分かったり、太陽光を多く取り込むため過ごしていてとても気持ちのよい空間になっています。

木目調のデザインの室内に大きな窓から日の光が差し込み、
まるで自然の中にいるようでとても心地よかったです

 1階は交流エリアとなっています。入って右側にあるキッチンは高さの違う2つのキッチンが向かい合うようにして設置されています。高い方は親御さん用、低い方はお子さん用となっていて親子で向かい合って楽しく料理をすることができます。また、お子さん用のキッチンは、テーブルの下が空洞になっていて高さも低いため車いすにのったままで楽しむことができます。

高低差のあるキッチンで親子が向かい合え、
低い方のキッチンはテーブル下は空洞になっており車椅子も入りやすい

中央にある広いホールにはブランコもありそれを使って遊ぶこともできます。

 お外の庭には、フレディと呼ばれる大きなブランコがあり、その上で寝そべることもできます。地面には、クッションの上に人工芝をひいている安心設計となっています。このブランコには近所の小学生が遊びに来るんだとか。

一度に2人で乗ったり寝転んで乗ったりいろいろな遊び方ができるフレディ(画面中央)
下にクッションがある安心設計になっている

2階はくつろぎエリアとなっています。木造の作りになっていて木の温かみを感じることができます。2階中央のホールには、サラウンドスピーカーが設置されます(取材当時、設置作業中)。このスピーカーを使うことで、より臨場感にあふれた体験をすることができます。例えば、テントを張って過ごすキャンピング体験を考えているんだとか。周りから聞こえる鳥や虫の声を聞きながらテントに入ればそこはもう森の中。

 ここには広いお風呂が用意されています。中にはプロジェクターとスピーカーが用意されており、海で過ごしているような体験ができたり、iPhoneなどで用意した好きな映像を流したりすることもできます。
また、お風呂の中にはリフトレールが設置されていてそれは、隣のベッドのある部屋まで繋がっています。そして、その部屋にあるトイレへも繋がっているため、お子さんも親御さんも楽に移動できます。

画面上部中央のレールはリフト用のレール
家族と一緒に入浴できる

 また、このお風呂とは別に、ミストサウナとシャワーが併設されているお部屋もあります。サウナ上がりにビールなどを飲むこともでき、親御さんは日頃の疲れのリフレッシュになるそう。

 このように横浜こどもホスピスでは、お子さんが楽しい時間を過ごせるようにたくさんの工夫が詰まったうみとそらのおうちで温かく迎えてくれます。
 施設紹介に加え医療関係者の方や利用者のご家族の生の声を届けるYouTube動画も公開中です。ぜひ、そちらもチェック!


【サポートはお子さん本人に向けたものに留まりません】

 横浜こどもホスピスではお子さんに向けての支援と同時に、その親御さんやきょうだいへのサポートも行っています。
親御さんは大切なお子さんに旅立たれた後も生きていかなくてはなりませんが、親御さん自身が楽しむことに後ろめたさを感じたり日常のふとしたきっかけで辛い気持ちを思い出したりしてしまい、それまでと同じように過ごすことが難しくなることがあります。
 そのため、横浜こどもホスピスでは月に1回程度、お子さんをお見送りされた親御さんを対象にした集まり「うみそらグリーフカフェ」を開催しています。同じ経験をした仲間で集まることで、時には以前のように笑ったり、時には一緒に泣いたりして、一生懸命頑張ったお子さんたちのお話をする場所にしたいと言います。

 また、きょうだいは自らの幼少期に、親の関心や愛情が病気のこどもに向いているように感じるなどしてしまうこともあります。横浜こどもホスピスでは、神奈川県の委託を受けてきょうだい児支援としての交流会を開催しています。2022年の10月には対面での交流会を開催し、逗子で海遊びをしたそう。参加者の保護者からは「きょうだいが主役のイベントは嬉しい」といった声があります。

 こうした活動によりお子さんはより楽しい充実した日々を過ごせ、その家族もお子さんに旅立たれてしまった悲しみからの立ち直りがずっと早くなるそうです。お子さんが旅立った後も、そのお子さんのことを知っているスタッフさんなどがいることは親として嬉しいと話してくれました。

InstagramやFacebookなどのSNSでは利用者の喜びの声が多数あります。
ぜひ、チェックしてみてください。


【後編へ続く】

 ここまでは、横浜こどもホスピスがどのような活動をしているのかに焦点をあてて紹介しました。
次の後編ではなぜこのような活動が始められたのかや今後どのようにしていきたいのかについてお聞きしました。


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