見出し画像

特別集中連載『あんたもわしも、おんなじいのち』第五回 哲学対話編 with 永井玲衣(前) 文:山塚リキマル

特別集中連載『あんたもわしも、おんなじいのち』
第五回 哲学対話編 with 永井玲衣(前)

このテキストは、哲学研究者の永井玲衣さんをお招きして行われた“哲学対話”の模様です。
哲学対話とは、あるひとつの『問い』についてみんなで話し合うというものなのですが、勝ち負けを決めたりとか、無理に答えを探したりしません。みんな、ひとつの問いに腰を下ろして考えながら、おたがいの話にじっくり耳を傾けるのであります。
一時間にわたって行われた哲学対話のメンバーは以下の通りです。

永井玲衣(哲学研究者)
川内雅代(抱樸職員)
菊川清志(自立支援センター1期生)
下別府為治(なかまの会)
梅田孝(なかまの会)
塩田潤(政治学者)
八木咲(写真家)
山塚リキマル(ライター)


まあまあ、百聞は一見に如かずです。迷わず読めよ、読めばわかるさ。この濃いメンツによるユニークな対話の模様を、どうぞごらんください!

永井(以下・コーヒー)『まず自己紹介をしたいと思いますが、哲学対話では本名とか、その人が普段何してるとかはあえて聞きません。代わりにこの場で呼ばれたい名前を教えてください。私は“コーヒー”にします』

菊川(以下・きくちゃん)『俺、“きくちゃん”』

川内(以下・らうちゃん)『じゃ私、“らうちゃん”』

梅田(以下・うめだ)『“うめだ”でいいや』

下別府(以下・ためちゃん)『“ためちゃん”』

山塚(以下・りきまる)『“りきまる”で』

塩田(以下・ごぼてん)『お昼ご飯にうどんを食べたんですが、そのうどんについていた“ごぼてん”で』

菊ちゃん『八木、お前はヒツジだ』

八木(以下・ヒツジ)『....はい!』

コーヒー『ありがとうございます。哲学対話ではまず最初にみんなから“問い”を出すんですね。皆さんがふだん“不思議だなあ”とか“なんでだろう”と思うことを挙げてみてください』

 〜ここで各自、問いを挙げる。
『どうしてみんな喧嘩しちゃうんだろう?』、『なぜ子供はかわいいんだろう?』、『なんでお酒を飲まないと決めたのに飲んじゃうんだろう?』などさまざまな問いが飛び出したが、『なんで人は人のために頑張れるんだろう?』という、らうちゃんの問いで対話することに決定〜



コーヒー『“なんで人は人のために頑張れるんだろう?”。これはたぶんわかりやすい正解がないので、皆さんの考えを聞きながら深めていきたいと思います。で、やる前に三つお約束があるんですけど、ひとつはよく聞くこと。聞き合うということがとっても大事です。ふたつめは、偉い人の言葉を引用したりするんじゃなくて自分の言葉で話すこと。みっつめは“人それぞれじゃん”で終わらせないこと。では改めて、らうちゃん、この問いの背景を教えてください』

らうちゃん「抱樸館に住んでる方のお世話を十年以上されてるボランティアの方が亡くなったんですね。そのひとがお世話していた元路上生活者のおいちゃんは、そのひとがいたから自立もできたし、支援住宅にも入れたんです。“おれは外で野垂れ死んでもいいんだ”っていってたおいちゃんに、“私がそばにいるから一緒にがんばろう”みたいなことを言って。そのひとは広く浅く関わるんじゃなくて、ひとりにじっくり関わるっていうやり方でボランティアをされていたんですよ。おいちゃんが病気になったら何か美味しいものを持っていったりとか、ふたりでお花見しにドライブしたりとか、私にはできないことをやってた。で、どうしてこの人はこんなに頑張れるんだろうってずっと不思議だったんですよ。

けっきょくそれを聞く機会がないまま亡くなられてしまったので、今回この問いを挙げてみました』


うめだ『この年になったら変われんのですよ。だから好きな人も嫌いな人も一緒に生きていくしかない。それは抱樸に来て一番感じたことですね』

きくちゃん『おれ一度、奥田知志にこう言ったことがある。“ボランティアの人たちにはジュースの一本でも買って配って、ご苦労さんでしたねって言ったらどうだって”って。そしたら先生こう言った。“きくちゃん、ボランティアは何のためにある? やりたいからやる。やりたくないのにやったって、する方もされる方も嫌な気持ちになるよ”って。でも一人の力で出来ることは限られてる。だからいろんな人と手を組んで、力を合わせる。抱樸ではそれを伴走型支援と呼んでいる』

一同『おおっ!?』

きくちゃん『どうやったら楽しくやれるのか、納得できる奉仕ができるのか。それをみんなで話し合うことも大切。まあおれがボランティアをしている目的は、むかしやってきた悪いことへの贖いのためなんだけど』

一同『(笑)』

ためちゃん『わたしは野宿してた。野宿してたときは親戚、兄弟、親子関係、ぜんぶゼロで、ひとりぼっちだった。それでもひとりでやっていこうと思ってたけど、みなさんに助けてもらえて。そしてわたしはいま色んなボランティアの活動をやっとる。いろんな関わり。そういう関わりを、わたしはいまいちばん、大きな気持ちでやってるっていうことかな……難しいこと言えない、はい次!(笑)』

後半に続く!!!!

注:伴走型支援がなんなのかについては有斐閣「伴走型支援」をご参照ください。菊ちゃんもね笑 by奥田知志

https://npovol.stores.jp/items/61396b35306ad31af9c565ee


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。